「田中光二さん300冊記念パーティ」&「第7回日本SF評論賞贈賞式」ルポ 宮野由梨香

(PDFバージョン:tanakakoujisann7kaiSFhyouronnshou_miyanoyurika
 2012年2月1日(水)の夕方、私、宮野由梨香は東京メトロの表参道駅からホテルフロラシオン青山への道を急いでいた。午後6時半から催される「田中光二さん300冊記念パーティ」&「第7回 日本SF評論賞贈賞式」に出席するためである。
 昨年もこうしてこの道を歩いていた。毎年、場所はここなのだ。部屋も同じ、一階の「はごろも」の間である。
 まず受付で名前を書き、ネームプレートを胸につけて会場に入る。
 入ってすぐの机の上に、「田中光二著作リスト」が山と積まれていた。
 思わず手に取ろうとしたら「あ、これは帰りに配ります。カードに、一番お好きな作品名と、それについての一言をお願いします」と、名刺大のカードを渡された。
「田中光二さまというと、思いだすのは、大学のゼミで……」
 宮野は、評論賞チームの岡和田晃さまを相手に、自分の学生時代(ホンの30年ほど前よ♪)の話を始める。
「『田中冬二についてレポートしろ』と言われて、でも、宮野はね~、田中冬二を知らなくて、『田中光二なら、よ~く読んでいますけど…』って答えたのよ。近代詩の野山嘉正教授に」
 四季派の詩人よりも「エデンの戦士」の作者の方が、もちろん、はるかにメジャーに決まっている!
「今日は、300冊を祝うケーキも用意されているらしいですよ」
「いろいろ趣向が、年々増えますね。評論賞も、今年から、贈賞式に先だって12月に『記者会見』があったんですよね」(註・この記者会見の様子は、ニコ生の中継ページhttp://p.tl/9tM7で見ることができます。)
「そうそう。宮野は内気で気弱だからさぁ~、もし、自分が受賞した時にそんなのがあったら、前の日は絶対に眠れなかったと思うの~」
「ニコ生で15000人が見たそうですが…」
「SF大賞も一緒だったからね~」
 などなどと話しているうちに、始まる時刻が迫ってきた。
 
 日本SF作家クラブの会長と事務局長は、2年間が任期である。
 今年の司会は、事務局長の増田まもるさまだった。増田まもるさまは、バラードの翻訳などでも評価の高い方である。日本SF評論賞受賞者でつくる評論賞チームの世話役のようなこともなさっていて、その博覧強記、人格円満、温厚篤実ぶりには定評がある。
 司会の紹介に応じて、会長の瀬名秀明さまが前に立たれた。



「僕が最初に読んだ田中さんの本は、『エデンの戦士』でした。中学1年生の時でしたか…」
 おお、最初に読んだ本が宮野と同じである。同世代だったんだ!(←違う)
 瀬名さまは今日の会の進行について、まずおおまかな説明をされた。
 まずは「第7回日本SF評論賞贈賞式」を行い、その後、「田中光二さん300冊記念パーティ」を行うという流れだそうである。

☆第7回日本SF評論賞贈賞式☆
「日本SF評論賞」は、日本SF作家クラブ主催、早川書房後援の、SF評論に関する新人賞である。
 今年の選考委員は次の5人であった。(敬称略)
     荒巻義雄  小谷真理  瀬名秀明  新城カズマ SFマガジン編集長
「この5人でかなりの時間をかけて濃密な選考をさせて戴きました。荒巻さんは選考委員長でしたが、なかなか北海道からいらっしゃるのは大変だということもあり、今回をもちましてご勇退ということになります。どうか感謝の拍手をお願いいたします」
 瀬名会長の言葉に、大きな拍手が起きた。
「それから、他にも今回をもって選考委員を降りられる方がいらっしゃいます。まず、小谷真理さん、そして、私にも、どうか拍手をお願いいたします。新たなメンバーとなるのは、森下一仁さん、川又千秋さん、図子慧さんです」
 それぞれが紹介され、拍手をもって讃えられ、また、迎えられた。 
 次に、今年の最終候補作3作に関する講評が、新城カズマ氏によって行われた。
「さまざまな議論がありましたが、できるだけ一言で言います(笑)。今回の3作の中で、淡中圏さんの作品「追う者と追われる者のダンス 及び伊藤計劃へのひねくれた追悼」は、伊藤計劃からトマス・ピンチョンまで論じようとした意欲作でしたが、『評論というよりエッセイではないか』という意見が多く、残念な結果となりました。忍澤勉さんの作品「『惑星ソラリス』理解のために――『ソラリス』はどう伝わったのか」は、非常に丁寧に『ソラリス』の原作と映画版をよみ解いた作品で、選考委員特別賞となりました。また、渡邊利道さんの作品「独身者たちの宴 上田早夕里『華竜の宮』論」は、『最後の一行をどう解釈するか』を考察するなど「評論の王道を行く方法」で論じた作品で、優秀賞となりました。3者3様、これからますますご発展を期待したいと思います」
 瀬名秀明会長から、登壇したお二人に、それぞれの賞状が読み上げられ、手渡された。


  
「それでは、ひとこと、お願いします」
 司会の増田さまの言葉に、渡邊さまが訊き返す。
「ひとことですか?」
「ひとことです」(笑)
 宮野も笑った。評論賞受賞者の中には、ものすご~く長いスピーチをした剛の者が過去に存在したのである。
 渡邊利道さまが話し始める。ひょろりとした感じの、飄々とした雰囲気の方である。何となく、SFっぽい感じがする(!?)



「優秀賞をどうもありがとうございました。私は1969年のアポロが月に行った年に生まれまして、小松左京さんがプロデュースされた万博で赤ん坊の時に月の石を見ました。もう無意識の頃からSFに漬かってきた人間です。SFの面白さというのは、固定観念を覆し、価値観を転倒させることだと思います。上田早夕里さんの作品の中に「人間以外の生物は、地球ができて以来、そうやって何度も絶滅してきた。人類だけがその災厄から免れられる、そのための資格があると考えるのは、ある種の傲慢というものだ」というセリフがあります。ああ、これがSFだな、と思ったその感動を書きたいと思いました。本日はどうもありがとうございました」
 うわわ、本当に「ひとこと」で、とっても短かった!
 ご遠慮なさった?
 もう少し詳しく知りたい方のために伺ったプロフィール等は、次の通りである。
【渡邊利道さまのプロフィール】
 1969年愛知県生。家庭の事情で大阪で十代を過ごし、中学を卒業してから主に肉体労働に従事、二十代のはじめに慢性腎不全で一級身体障害者認定を受け、数年を病院で過ごす。
 三十代後半に結婚して、以後人工透析治療を受けながら専業主夫をしています。
【好きなSF作家】
 ヴァン・ヴォクト、ハル・クレメント、アルフレッド・ベスター、J.G.バラード、
 ラリイ・ニーヴン、トマス・ディッシュ、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア他多数。
【好きなノンSFの作家】
 ジャン・ジュネ、サミュエル・ベケット。
【生活信条】
 特にありません。

 次に忍澤勉さまが話し始める。とてもエネルギッシュな方である。でも、やはり、どことなくSF的というか、「視線が遠くまで行っている」感じがする。



「僕は『ソラリス』の映画が日本ではじめて公開されたあたりに見て、わけがわからないのに魅力的だと思いました。こ汚い映画なのに、受けた感動はとても大きい。それで、20年ほどずっといろいろと考えてきました。たまたまお会いした巽先生に「『白鯨』を読め」と言われたことが大きなきっかけになりました。それで、一昨年、応募させていただいた論を書き始めました。今回書いたのは、『ソラリス』理解のための序論めいたことです。あと、宣伝めいて恐縮ですが。小説の方でも、堀晃賞をいただいた作品が3月には出ますので、よろしくお願いいたします」
 同じく、「プロフィール」等を次に載せておく。 
【忍澤勉さまのプロフィール】
 1956年のサル年、しし座の東京都生まれ。学校卒業後は、編集プロダクション、広告制作会社、自動車雑誌を主とする出版社に勤務し、いまのところはフリーランス。近年ぽちぽち小説のようなものを書き始め、「東京シュプール」(非SF)で第13回長塚節文学賞の優秀賞、「ものみな憩える」で第2回創元SF短編賞の堀晃賞をいただく。
【好きなSF作家などなど】
 ここではスタニスワフ・レムと申しておきます。SFっぽい作家では、ポール・オースターやスティーブン・ミルハウザー、W・P・キンセラ、ティム・オブライエンを。他に評論家として、四方田犬彦、川本三郎、坪内祐三などを読んでいます。
【生活信条】
 いま考えたのは、「あせらない、うつむかない、なやまない、うらやまない、ふりむかない」ですが、明日変わっている可能性があります。 

 お答えからしても、やはり、お二人ともただ者ではない!
 さて、お二人からの「ひとこと」の後、今年ならではのハイライトがあった。
 上田早夕里さまからのメッセージが、司会者によって読み上げられたのだ。
 ご自分の作品を論じた評論が賞をとったということで、上田さまは今日の贈賞式に是非とも出席なさりたかったのだが、ご家庭の事情であきらめざるを得なかった。そこで、「せめてメッセージを」と、司会者に託されたということであった。
 渡邊さま・忍澤さま、それぞれに対する心のこもった丁寧なメッセージで、暖かい人柄とSFへの真剣な思いが感じられる内容だった。
 中でも、「読む行為と書く行為は、クリエーションという意味では実はとても似ているのではないかと思う」という部分が、一番、宮野の心に残った。 
 皆、聞きいっていた。会場はちょっと厳粛な雰囲気になった。
「これで評論賞贈賞式のほうは終わります」
 司会者の声がした時は、何か、夢から醒めたような心地がした。
 また盛大な拍手が起こり、第7回日本SF評論賞贈賞式は幕を閉じた。
 
☆田中光二さん300冊記念パーティ☆
 拍手を浴びながら壇上に上がられた田中さまは、全くの自然体という感じで、お話を始められる。



「300冊というのは、ほめられた話ではなくて、要するに盛大に売れるわけではないから、量で稼いだのですが。それでも「量は質」とも言いますから、自分でほめてやりたい気持ちがないでもありません」
 姿勢のよい温厚そうな紳士である。だが、たんたんと語るその内容は並ではない。
「32歳でデビューして40年がたちました。30代の頃が一番充実していました。自分で言うのもなんですが、賞も2つ貰いましたし、直木賞の候補にもなりました。40代はスランプで書けなくなって、海外旅行にばかり行っていました。50代はやたらと元気になり、書きおろしも月刊状態でした。60代もその余波で、2カ月に1冊のぺースでした。70代になった今でも、そのくらいのペースですね。実は既に304冊になっているんです。あと30冊くらい書いて、そう330冊くらいは書こうと思っていますが、『もうやめろ』という声が聞こえれば、やめます。書いてもいいですか?」
 会場は、大きな拍手でそれに応えた。みんな、まだまだ読み続けたいと思っているのだ。
 井沢元彦さまからの祝電の披露があり、そして、川又千秋さまが乾杯の挨拶をなさった。



「格好よさに多くのことを教わった先輩です。作品からも、ご一緒させていただいた旅行からも、いろいろと学ばせていただきました。330冊ではなく、333冊にして下さい。本日はおめでとうございました」
評論賞受賞のお二人と、田中光二さまがステージ上にお並びになった。
「お二人の受賞と、300冊突破をひっくるめて……乾杯!」



 しばらくの歓談の後、関西からおいで下さった筒井康隆さまのお話があった。
 筒井康隆さまはSF作家第一世代にあたる。それに対して、田中光二さまは第二世代である。
「同世代の人が皆、死んでしまって、さみしくて仕方がありません。でも、亡くなった方は何かを残していってくれています。星さんは、『睡眠薬と酒をいっしょにやるとマズイ』とか、小松さん、井上ひさしさんは『煙草を吸い続けると…』とか。SF作家第一世代は、生き残りが僅かになっています。第2世代にはぜひ頑張ってほしい。頑張ったからといって、いいものが書けるとは限りませんが、文壇的には、長生きしているだけで、SFの役に立つということはあります。だから皆さん、これ以上死なないでください! 長生きしましょう!」
 拍手に笑い声が混じり、すっかり和やかな雰囲気になった。
「では、『長生きしましょう』にちなんで、300冊をお祝いするケーキです!」
 司会の増田さまの声とともに、大きなケーキとともに田中さまが壇に上られる。





 上に「3」「0」「0」という文字の形の3本のロウソクがのっている。
 田中光二さまがケーキにナイフを入れてロウソクを吹き消すと、大きな拍手がわいた。
 それぞれ、皿を手にケーキに集まりお相伴に預かる。
 谷甲州さま・永井豪さま・夢枕獏さま・豊田有恒さま・星敬さまの挨拶が始まる。
「デビューした当時、『10年たったら田中さんのようにカッコよく、そして、もう10年たったら、小松さんのように…』と思ったものでしたが…」と、谷甲州さま。
「はじめて読んだのが『わが赴くは蒼き大地』で、両棲人類の設定にシビレました。絶え間なく涙が流れているとか…、ああいう青々しいものも、是非また書いて下さい」と、永井豪さま。
「僕は61歳ですが、300冊にはなっていません。このごろ、〇歳で〇〇冊というのを意識しています。ネットなどで『昔のほうが…』とか言われることもありますが、これでも一生懸命やっているんです」と夢枕獏さま。
「100冊書いたところでお休みにして、大学教授になってしまいました。小説家よりはるかに楽な商売です。今、SF大賞の審査員をしていますが、今年は特に豊作でした。SFのまきかえしが始まっています。私より若い方は、私より先には死なないで下さい」と豊田有恒さま。
 田中光二さまの初出のリストがプロテクターに流れ始める。
 それをバックに、星敬さまがおっしゃる。
「リストは初出の提示まで含めてつくりました。何かのお役にたてて下さい」
 そして、田中さま・渡邊さま・忍澤さまは、そろって、美女から花束を受け取った。
 田中光二さまにはマダムロボ(立花眞奈美)さま、渡邊さまにはYOUCHANさま、そして忍澤さまには立原透耶さまである。



 こうして、会は大いに盛り上がって、幕を閉じた。
 そして、2次会の場所を示した紙が配られる。
「宮野さん、場所、わかりますか?」
 忍澤さまの奥さまから、尋ねられる。
「みんな、一緒に動きますから、ロビーにいれば大丈夫ですよ」
と、宮野は答える。宮野は「地図が読めない女」である。かつ、「人の後ろをついて行くタイプ」である。
「瀬名先生って、何だか12月にお会いした時よりお若くなっていらっしゃるんですけど…」
「逆に年をとる薬でも飲んだんでしょうか? そのうちに赤ちゃんになっちゃったら、会長職は???」
 などと、忍澤さまの奥さまと話をしながら、ロビーで待った。そして、他のメンバーとともに、宮野も2次会の場所へとなだれこんで行った。
 楽しかったよおぉ!!
 
 さて、その後、評論賞受賞者の方々からいただいたメッセージを次にお示しします♪
【渡邊利道さまからのメッセージ】
 贈賞式の感想と言えば、やはり何よりも筒井康隆さんと永井豪さんにご挨拶できたことでしょうか。あと、自分の好きな作家さんに作品の感想を言えたりとか、自分の評論を書いた姿勢・狙いなどについてお話を聞いていただいたりとか。まあ、あとスピーチでとちりまくったのが痛恨ではありました。上田早夕里さんの祝辞がとても素晴らしいもので、全体が引き締まったなあと思いました。筒井さんのスピーチで、もう誰も死なないようにというブラックな味わいが出た後、川又千秋さんとかその後壇上にのぼる方々がみんな「生きのびよう!」というようなことを仰られていたのも、これまたいかにも「SF作家」だなあと。「ああSFの世界に入れてもらったんだなあ」という感慨が涌いたりしました。
(渡邊利道さまのブログでの記事はこちらです→http://d.hatena.ne.jp/wtnbt/20120201/1328255357

【忍澤勉さまからのメッセージ】
 いやはや、今まで生きてきて、いちばん晴れがましい時間でありました。壇上に立って会場を見渡すと、SF界の重鎮が視界の中にドドーンと入ってきます。これぞまさにSF的な世界といわずにおれません。
「ごあいさつ」いちおう用意していたのですが、当然読めずにただ記憶を辿って、ドキドキの5分プラスαを過ごしました。
 ということで、いい歳とってもまだまだまったくのSF初心者ですので、よろしくお願いいたします。
(忍澤勉さまのブログの記事はこちらです→http://d.hatena.ne.jp/oshikun/20120201

 ちなみに、渡邊さまの作品は〈SFマガジン〉5月号(3月24日発売)に、忍澤さまの作品は6月号に掲載される予定です。
 また、「第8回日本SF評論賞」の募集も始まります!
 応募要領は〈SFマガジン〉に載りますので、ぜひ、ご応募下さいませ!!
                                  (おわり)



田中光二プロフィール
宮野由梨香プロフィール


田中光二既刊
『超地球大戦 逆襲編』