「サンダイバーの幻影」朱鷺田祐介

(紹介文PDFバージョン:sunndaibaashoukai_okawadaakira
 記念すべき「SF Prologue Wave」での『エクリプス・フェイズ』シェアードワールド企画の第一弾を飾るのは、『エクリプス・フェイズ』日本語版の翻訳監修者である朱鷺田祐介の手になる短篇「サンダイバーの幻影」だ。
 キレのよい作品で、『エクリプス・フェイズ』世界のイメージを鮮明に叩きつけてくれる。世界観についての説明的注釈を生かしたメタフィクショナルな構成も見どころだ。
 すでに朱鷺田祐介は『エクリプス・フェイズ』のRPGリプレイ「金星の人狼 ―Garou in the Venus―」を「Role & Roll」Vo.88~Vol.91(アークライト/新紀元社)にて発表している。これは実際のゲーム・プレイを録音し読み物として再編集したものだが、途中で登場するト書きの部分には、こうしたRPGリプレイの手法が導入されている。ゲームデザイナーならではの工夫だろう。

 朱鷺田祐介は日本を代表するゲームデザイナー/ライターの一人。1987年に「ウォーロック」誌(社会思想社)でデビューしてから、アナログゲーム界の最前線で活躍してきた。ロールプレイングゲームのデザインや紹介が仕事の中心だが、代表作であるダークファンタジーRPG『深淵』の世界を舞台に『火龍面舞』や『丘の上の貴婦人』(ともにプランニングハウス)といった小説を出版しており、小説家としての顔も持つ。『エクリプス・フェイズ』の世界の魅力を多角的に紹介してくれる、期待の書き手だ。(岡和田晃)




(PDFバージョン:sanndaibaa_tokitayuusuke


 何度繰り返したとしても、死ぬのに慣れることなどない。
 今回は特にひどかった。
 魂(エゴ)のバックアップが損傷していたのか、蘇生措置前の数瞬でひどい夢を見た。

 宇宙クジラの夢だ。
 黄金に輝く太陽フレアの中へ向かって飛び込んでいく巨大なクジラ。
 彼らの行く先に見えるのは、黒点。
 そして、圧壊する。

「ランディ・シーゲル、意識はあるか?」
 メッシュ経由の、再装着技師の声が太陽フレアの中から、俺の意識を引き上げてきた。適度な身体の重みは、内惑星のどこかに違いない。

(金星上空65キロ、空中都市(エアロスタット)、ザ・シャック)

 支援AI(ミューズ)が淡々と情報を説明してくれる。〈大破壊〉で地球が壊滅した今、金星の高層圏に点在する空中都市は、月面ドームや火星の赤い砂漠と並んで、生き残った人類の拠点となっている。高圧高温の大気を持つ金星だが、その上空には、バルーン形式で浮かぶ空中都市(エアロスタット)が20以上も浮かび、それぞれ数万から数十万人の人口を養っている。金星政府「モーニングスター・コンステレーション」の首都オクタヴィアは五十万人もの住民がいる。
 そんな空中都市の建設を一手に受け持っているのが、今、ランディのいるザ・シャックだ。

#どこか外部からのナレーション。
 もしかして、支援AI(ミューズ)の声か?#

 ファイアウォール(*1)のセンティネル(*2)、ランディ・シーゲルの冒険。
 戦う相手は、エクスヒューマン(*3)のエージェント、アンジェラ・A。
 相棒は知性化タコ(*4)のキャプテン・バスター、スカム(*5)の女ガンマン、シュガー・ヴァイオレット(*6)、ソラリアン(*7)義体(モーフ)(*8)に乗る情報体(インフォモーフ)(*9)のメアリー・I。

#脳内に響くナレーションは注釈付き。精神コマンドでそれらがずらりと表示される。

*1:人類絶滅の危機(X-リスク)と戦う全太陽系レベルの秘密組織。その存在は一般にはまったく知られていないが、一部の国家(惑星連合、木星共和国など)は、悪質なテロ組織と認識している。
 あなた(ランディ・シーゲル)は、約2年前からこの組織の一員でもある。
*2:ファイアウォールの現場エージェントのこと。
*3:太陽系外由来のエクスサージェント・ウィルスに感染し、異形の進化を遂げた「人間以上の存在」。現在のトランスヒューマンと敵対し、人類絶滅を目標として暗躍する。
*4:タコは知性化され、アップリフト(知性化種)として、有能な人類のパートナーになっている。だが、その人権を認めず、奴隷のような待遇をする法域も存在する。
*5:屑。宇宙空間を漂白する放浪者たち。
*6:偽名である。ランディとの関係は恋愛関係、もしくは、愛人関係と評価できる。
*7:太陽周辺、主に、フレアの範囲に住む宇宙用義体使用者たちは、自分たちをソラリアン(太陽周辺地域人)と呼ぶ。
*8:肉体のこと。加工され、調整されたものが多く、義体と呼ばれる。
*9:AIのこと。知性化され、アップリフト(知性化種)として、有能な人類のパートナーになっているが、〈大破壊〉を引き起こした戦闘AI、ティターンズのことを思い出し、憎悪したり、その人権を認めず、奴隷化したりしている地域も少なくない。

 注釈の連鎖が果てしないので、ランディはそれを意識下の「潜在知」に追いやり、支援AI(ミューズ)の処理に任せる。逆に、事務手続きの確認を促す。

#支援AI(ミューズ):メールが4通届いています。開封しますか?
 Yes/No

#1:佐藤海
「ランディ。すべては済んだよ。
 クジラは太陽に沈んだ」

 佐藤のアイコンは、タコだった。ああ、キャプテン・バスターの偽装IDのひとつだ。
 ああ、なぜか知性化タコの多くは日本文化を選択する。キリスト教やイスラム教では、悪魔の魚扱いされているのだから、アジア系に流れるのはしかたあるまい。

#2:発信者:シュガー・ヴァイオレット 画像ファイル 

 シュガー・ヴァイオレットのXP(経験記録)。主に視覚情報を3D映像として記録。
 揺れる画面にスマートガンのARターゲットが重なる。戦術ネットワーク・ソフトウェアが戦場の周囲に放たれたナッツ(虻:飛行型マイクロ・ドローン)からの画像を統合し、敵(ネオ・シナジスト:鈴木一人(すずき・ひとり)の3マンセル)の動きをカバーする。

#ネオ・シナジスト:シナジスト(→太陽系外の実験コロニー「シナジー」で発展したトランスヒューマンの一種。意識を共有した群体主義社会人間の総称)のヘッドウェア強化版。コグナイト社の新型ヘッドウェア(頭部用強化サイバーウェア)で、強化したもの。個々の意識を残しつつ、思考を共有し、構成員の行動のシンクロニティを高めている。戦術単位としては超人的なコラボレーションを実現する。

シュガー「厄介な敵だが、奴らにはひとつの弱点がある」

#一は全、全は一。
#ならば、ひとりが死ねば?

 シュガーの義体の中で、戦闘ドラッグの爆発的なパワーが炸裂する。ニューケラム(化学物質による神経加速システム)との併用で、シュガーの使う戦闘用義体「フューリー」は、「憤怒」の名前の通り、鬼神のごとき速度で戦場に飛び出していく。苦痛遮断モード。撃たれてもいい。だが、鈴木一人は殺す。

#一は全、全は一。

#3:メアリー・I アルファ分岐体(フォーク)1を対話用に添付。

>>>支援AI(ミューズ)による注釈。メアリーは知性化(アップリフト)された汎用人工知能(AGI)。苗字のIは情報体(インフォモーフ)の略。フォーク(分岐体)は、魂(エゴ)のコピー体。オリジナルからコピーされたものをアルファ、以降、ベータ、デルタ、ガンマと劣化していく。
 今回のミッションにおいて、メアリーは七つのアルファ・フォークを作成し、オリジナルは通常通り、水星軌道の内側、ヴァルカン軌道内のスーリヤ義体にて、太陽フレア内を遊泳中なるも、水星地表からのマスドライバー砲撃から、太陽観測ステーション「ヘリオン25」を守るため、死亡した。
 現在、バックアップから回復したオリジナルは、アルファ2との自己対話を開始し、統合処理への移行を検討中。



 転送された添付ファイルよりメアリー・I アルファ1を展開。再起動。

メアリー・Iアルファ1:展開終了。以下、対話式で状況報告を行います。
ランディ:別のフォークは?
メアリー:鈴木一人が水星地表の移動型マスドライバー施設「キャノン」に仕込んだエクスサージェント・ウィルスの除去作業を実行するも、アルファ3・5・6が感染し、自己処分しました。7は現在、キャノンのメイン・サーバーの監視中です。
ランディ:前のオレは?
メアリー:あなたは———-

#意識の断絶。
#精神外科装置による「精神障害」記憶の隔離、断片化、再統合による治療進行中。

#4:メアリー・I アルファ4

>>>注釈:私、支援AI(ミューズ)は、メアリー・Iアルファ4です。あなたの支援のため、あなたの中にゴースト・ライド(精神的な相乗り状態のこと)中。以降、対話形式にて……

ランディ:情報を! 正しい情報をよこせ。
メアリー:あなたとチームは無事、ファイアウォールのセンティネルとしてミッションを終えました。あなたは人類絶滅の危機(X―リスク)を食い止めたのです。
 ミッションの記憶は、あなたに必要ありません。それはあなたの心を壊してしまうでしょう。
ランディ:なぜだ?
メアリー:ネオ・シナジスト「鈴木一人」に捕獲され、精神的にレイプされた拷問の記憶が必要ですか?
ランディ:……いや、それでも。
メアリー:あなたはそういうでしょう、ランディ。私たちはあなたのそういうところを尊重します。
 ゆえに、私があなたにゴースト・ライドし、支援AIとしてあなたの復帰を支援します。
 報告は口頭にとどめますが、いいですね?
ランディ:ああ。
メアリー:あなたは、彼らによって、二十倍の速度に加速された仮想空間に強制ジャックインさせられ、体感時間で三年間に渡り、拷問されました。二十の分岐体は太陽系中のメッシュから収集された、ありとあらゆる苦痛と恐怖の体験記憶XPを体験させられ、その後、精神外科ケアを受けることなく、二十体の死の記憶がオリジナルに再統合されていきました。
 デルタ・フォークよりずたずたになったあなたを復帰させる必要がありましょうか?
ランディ:ファイアウォールは何と?

#意識の断絶。
#精神外科装置による「精神障害」記憶の隔離、断片化、再統合による治療進行中。

#リアル

 再着装センターのロビーでは、シュガー・ヴァイオレットが待っていた。ボロボロの防具には、ビーム兵器の着弾跡。左腕はナノテク治療槽で再生したらしい、真っ白な肌になっていた。
 シュガーはランディに抱きつき、キスした後に呟いた。
「ひでえ顔つきだな」
「そっちこそ、片腕は再生か?」
「ふん、あいつらには三倍にして返してやった」
 何か言おうとして、言葉に詰まった。
 シュガーはもう一度、ランディを強く抱きしめて言った。
「いいかい、こういう時はファックしようぜ。
 ファック、ファック、ファック。
 生身の粘膜をこすりあわせれば、最高だぜ」

 ああ、そうだ。

#記録終了。



Ecllipse Phase は、Posthuman Studios LLC の登録商標です。
本作品はクリエイティブ・コモンズ
『表示 – 非営利 – 継承 3.0 Unported』
ライセンスのもとに作成されています。
ライセンスの詳細については、以下をご覧下さい。
http://creativecommons.org/licenses/by-nc-sa/3.0/




朱鷺田祐介プロフィール


朱鷺田祐介既刊
『酒の伝説』