「怖くないとは言ってない」―第七回 おおむね人を喰ってます― 牧野修(画・YOUCHAN)

(PDFバージョン:oomunehitowo_makinoosamu
 むかしむかし、私が小学六年生の頃。生まれて初めてブルーベリーパイを食べて、これほど美味しい物がこの世にあるのかと感激した。もともと甘いモノは苦手だった。洋菓子は食べなくもなかったが、所詮はショートケーキ止まりだ。当時はパイと言えばアップルパイぐらいしかなかった(いや、まあ、私のような下町のガキの周囲には、という意味ですけどね)。しかもその林檎はえげつなく甘くべしゃべしゃで、あまり好みでもない洋菓子の中でも最下位だった。
 パイと言えばそんなものだと思っていたところに、そのブルーベリーパイは現れたのだった。たかだかアップルパイのアップルがブルーベリーに変わっただけじゃねぇかよ、ブルーベリーがなんだか知らねえけどよ。
 などと毒づきながら、勿体ないから食ってやるけどよ、と一口。
 ああ、なんということでしょう。
 甘みは上品に押さえられ、酸味がそれに寄り添い、パリパリとしたパイの食感はわずかばかりのモッチリとした下地の食感と合わさってもうこれは腰を抜かさんばかりの至上の美味しさだった。
 もう、パイとパイ方面に向かって土下座ですよ。謝罪会見ですよ。こんなことなら言ってくださいよ、アップルパイの旦那、でげすよ。
 そして思った。これを誰に止められることもなく残りを気にすることもなく心ゆくまで食べたいと。
 こんな欲望はたいていは大人になると忘れるものだ。ところが私は忘れていなかった。社会人になってからブルーベリーパイをワンホール買って、まるまる食べてみたのだ。すっかり気持ちが悪くなった。スティーブン・キングの作中人物みたいに紫のマーライオン状態となった。つまりいくら美味しくてもワンホールは多過ぎたというのが結論だ。それぐらい食べる前に気がついてもよさそうなものだが。
 というわけで、今回は食事がテーマだ。

 大勢で食事をするとおいしい、という話をよく聞く。確かにみんなでわいわい言いながら食べると美味しかったりもする。が、それも食べるものと食べる相手によるだろう、と私は思うのだが、世の中にはとにかく無条件に大勢と食べたいの! という人もいる。絶対一人で食べたくないという寂しがり屋さんである。何故かホラー方面にはその手の人物が多い。たとえば『パーフェクト・ホスト 悪夢の晩餐会』のウォーウイックだ。
 銀行強盗をして逃走中のジョンは逃走途中に足を怪我し絶体絶命。上手く騙して金持ちのお屋敷に入り込む。独身の親切な中年男ウォーウイックは、ちょうど友人を招待してパーティーをするところだったと彼を歓迎する。途中でジョンが強盗であったことがばれ、彼は本性を現してその男を脅すのだが、ウォーウィックも只者ではなかった。というわけで話は二転三転するわけですが、完璧なホストであろうとするウォーウィックの妄想する完璧なゲストとのパーティーシーンが楽しいです。そのあたりも含めて、この映画何よりも予告編がむちゃくちゃ面白そうなので、よろしければどうぞ。http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=k395YPv6Uzw#!
 強制的なパーティーへのご招待なら『ラブド・ワンズ』が楽しめる。
 ホラー映画ではお馴染みのプロム・パーティーにイケメンをお誘いした地味めな女子高校生が、あっさりと彼にふられるところから話が始まる。この地味め女子が級友たちにいじめられからかわれ、というキャリー的展開になるのかと思うのは一瞬。イケメン高校生はふった直後に拉致される。気がつけば地味め女子高生の家。タキシード姿で椅子に縛られているではないか。そしてドレスで着飾ってちっとも地味じゃなくなった女子高生が目の前に。以降、自宅内プロムの女王と、彼女の素敵なお父様にイケメンがとんでもない方法でもてなされるわけですよ。
 この女子高生、今までも同じ方法で男の子を招待しており、言うこときかないと頭蓋骨に穴を開けて熱湯を注ぎゾンビ化して飼うというジェフリー・ダーマー方式を採用していたりと、見ているぶんには愉快な少女で観客を飽きさせない。

 このお二人もそうですが、わがままなホストは自分の思いのままになるゲストをほしがるものだ。その最終形態が『誕生日はもう来ない』のゲストたち。思い通りになる人間は死んだ人間だけ、ってわけですね。これって原題は「HAPPY BIRTHDAY TO ME」。一人で迎える誕生日にこれを歌いながらケーキを食べると、なんだかすがすがしい気持ちになりますよ。えへへ。

 ところですっと流したが、超有名殺人鬼ジェフリー・ダーマー。彼はエド・ゲイン(『サイコ』や『悪魔のいけにえ』のモデル)とヘンリー・リー・ルーカス(FBIに協力する殺人鬼としてレクター博士のモデル。『ヘンリー』というドキュメンタリー風の映画もある)に続いてホラー映画のモデルにされやすいキャラの立った犯罪者だ。
 彼は拉致した相手の頭蓋骨に穴を開け、硫酸を流し込んでゾンビ化を図ったのだが、それにヒントを得た映画は前記した『ラブド・ワンズ』はじめいろいろあります。ちなみに穴を開けて変なものを入れる映画で一番狂っているのは『ドリル・マーダーズ 美少女猟奇殺人事件』というノルウェー映画。なぜか劇中の武器がすべて電動ドリルだし、頭になんか入れたらゾンビ化して真っ黒な体液をだばだば垂れ流すのですが、その理由がもうマトリックスの3.5倍ぐらい狂ってます。ああ言いたい。どうしても言いたい。というわけでネタばれしちゃいますよ。























 なんとその黒い体液は石油だったのです。
 ドリルマーダーたちは人間から石油を取るため、適当に捕まえた人の頭に電気ドリルで穴を開けて、そこから秘密の薬液を流し込んでいたのです。こうやってしばらくすると、犠牲者はゾンビ化し石油製造人間となります。それを彼らは回収していたのですね。電動ドリルを使って人を殺しまくる集団が、なんと会社勤めの労働者だったのですよ。うーん、すごすぎる。
 以上ネタバレでした。









 ここから本題に戻る。ちょっと脱線が過ぎた。ジェフリー・ダーマーの話である。彼はミルウォーキーの食人鬼と呼ばれており、しっかり犠牲者の肉を冷蔵庫に蓄えて食べていたことでも有名だ。
 こういったリアル人食い事件って良くあるわけで、最近では『NYの人食い警官「彼女は本当においしそう」 戦慄の標的女性100人リスト』とタイトルだけでおなかいっぱいの事件があった。http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/121103/crm12110312000000-n1.htm
 実話を元にというと『八仙飯店之人肉饅頭』を初めに人肉饅頭シリーズがあったりして、欧米人にアジアは人食いが盛んですね、と思われている可能性もある。まあ、こっちはこっちでテキサスにはけっこう人食ってる奴がいるよね、ぐらいのことを思ってたりもするのだが。

 ここで、えっ、また人を喰う話? とお思いの皆さん。そのとおりです。申し訳ない。ホラーでグルメと言えば人肉食でしょ(居直り)。とはいえ人を食う家族の話は第一話でやりましたし、ゾンビはそれだけでまた別に語りたいし、『ザ・グリード』とか『デッドリー・スポーン』みたいに人を食って食って食いまくる怪物の話もまた別にやりたいし、というわけで、まずはストレートに人を食う人の映画『最後の晩餐』から。これは原作が大石圭の『湘南人肉医』という国産ホラーだ。どんな話かと言えば、整形外科医が人肉の味を覚えちゃって堪え性がなくなる話である。この映画で一番気持ちが悪いのは、最初の頃は合法的な食人のために、この医者が吸引した脂肪とかを炒めて食べたりするシーン。普通に調理をしているだけなのだけれど、そこに「麻酔などの薬液を注入してるので不味い」というやたらリアルな独白が入る。これがかなり生理的にキた。とはいえお話自体は淡々と進んでいく地味なカニバリズム映画なのだけれど。

 インドネシアの素晴らしい家族映画『マカブル 永遠の血族』は、とにかくこの家族のキャラクターが素晴らしい。特に女主人の不死身のダラは、時折見せるきょとんとした表情が鳥っぽく、ありゃこいつ人じゃないや、と直感的に感じさせる。まさに怪演。
 彼女たちは旅人を殺して肉は食べ、臓器は移植用に売りさばく無駄のないエコロジー家族だ。お話はたまたまそこを訪れることになった若者たちが以下省略というよくある物語なのだが、問題はストーリーなんかじゃない。ダラを初めとした一家のキャラのぶっ飛び具合と、アイデア良しテンポ良しの残虐シーンを是非とも見ていただきたい。インドネシアと言えば内臓を垂らして空を飛ぶ首だけの妖怪、人呼んで『首だけ女の恐怖』というまんまのタイトルの映画が有名ですが、『マカブル』は数十倍素晴らしいです。ちょっと騙されたと思って見てください。二割ぐらいは騙されたって言うかもしれませんけど。
 人食い家族ものは紹介しないといいつつも、ソニー・ビーン一族とは関係ないから取り上げていなかった映画をもう一本。
 それは『レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー』。
 ホエール・ウォッチングに訪れた観光客の船が事故に遭う。この船の船長が『悪魔のいけにえ』のお茶目なレザー・フェイスを演じたガンナー・ハンセンなので、そんな展開になるだろうとばかり思っていたら大間違い。航行不能となった観光船のそばをたまたま通りかかった漁船に観光客たちは救われるわけですが、この漁船に乗っているのが捕鯨禁止で職を失い、細々と人肉食で生きている仲良し一家。彼らが捕鯨反対派憎しと自然が一番環境保全大好き人間へと襲いかかる、って映画です。何がすごいって、これが捕鯨大国であるアイスランドの映画だってこと。もし日本で和歌山太地町の漁師がホエール・ウォッチングにやってきた外国人観光客を襲って食っちゃう映画を作ったらとんでもないことになるだろう、っていうかまず作れない。

 さて、人を食べるのはこのぐらいにして、今度はとんでもないものを食べる話。
 あのですね、何回も書いてますからもうこれで最後にしますけど『深海からの物体X』の話から始めますよ。またかと言わないでね。
 ボートで遭難した若者たちが偶然乗り込んだ無人の船。何か実験をしていたらしく奇妙な魚の標本があったりして不気味そのもの。何が出てきてもおかしくないその研究室に置かれた冷蔵庫の中に入っていた魚を、焼いて食うんですよ、この若者たち。君の行く道がどこまでも続くとは思えないぞ。まあ、ゲロ吐きつつ怪物化しちゃうわけですけどね。
 『ミミズバーガー』はもちろんミミズを食うわけですよ。でミミズを食うとミミズの怪物になります。ホラー映画ではだいたい食ったものになりますからね。
 なんかもう文体がなれなれしくなってますけど気にしないでね。
 インド方面への偏見全開で笑っちゃった『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』の宮殿で出てくるゲテモノ料理の数々も忘れられませんよね。
 映画も面白かったけど、それ以上に『共喰山』はコピーが秀逸ですよね。
「友を喰う! 恋人を喰う! カンガルーも喰う!!」
 やるなあ。

 ところで、最後を閉めるのにふさわしい話題かどうかはわからないが、ホラーに出てくるアイスクリームの話だ。
 先ほども書いたように、ホラーでは何かを食べた人はその何かになるのが鉄則だ。だからアイスクリームを食べたらどうなるか、皆さんに考えていただきたい。その回答はここにある。その映画のタイトルは『アイスクリーム殺人事件』。まんまだよ。
 この映画の中で、何度も「アイスクリーム(私は叫ぶ)、ユースクリーム(あなたは叫ぶ)」と不気味な声が聞こえてくるのだが、私はもうすぐに「好きさ~」と続けてしまうと同時に榊原郁恵を思い出す世代だ。
 さらにアイスクリームと言えばラリー・コーエン監督の『スタッフ』である。何しろこの映画ではアイスクリームが人を食うのだ。白いどろどろがどろべ~っと人に襲いかかって喰っちゃうぞ。意外とこれがまともな映画だからホラーは面白い。ちなみに人を喰ったアイスクリームが人になったりはしない。

 そうそう、最後をアイスクリームで閉めようかと思っていたが、ちょっとだけ食事とホラーで言い残したことを思い出した。
 『ゾンビランド』に出てくるトゥインキーってなんだよ問題だ。ヌガーみたいなお菓子かと思ったけど、どうやら違うようだ。検索すると実物の写真と、ただただ油っぽくだだ甘く不味いという評価を見ることが出来る。それでもちょっと食べてみたい気がする。
 同じ謎料理では『アベンジャーズ』のラストで出てきた「シャワルマ」があるが、こちらはそこそこ美味しい料理らしい。どんなのかさっぱりわからないが。あと西部劇の豆料理とか、たき火の周りに立てて焼く魚とか、ちょっと食べてみたい映画飯の専門店ってないかなあ。あの原始人の食べる肉の塊とかもあると嬉しい。

 というわけで、今日はここまで。
 ごちそうさまでした。



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牧野修既刊
『リアード武侠傳奇・伝』