「東京小規模ライブハウス事情  ~ジャズ以外のアコースティック系音楽を中心に~」石原敏行(画・河田ゆうこ)


(PDFバージョン:toukyouraibujijyou_isiharatosiyuki


東京小規模ライブハウス事情

~ジャズ以外のアコースティック系音楽を中心に~


(イラスト)河田ゆうこ



(マイナーと世間には思われているジャンルにおいては、50人集まれば、大成功や事件だったりします。私がファンをやっているプログレという音楽ジャンルも、その1つです。集客力は、全員と顔見知りになれる人数、といえば、イメージが掴めるでしょうか……)

 2013年のゴールデンウィーク初日の4月27日土曜日は、日本各地でプログレ(注1)イベント目白押しでした。一般の人には全く関係がないことですが、一部のプログレマニアにとってはとんでもない狂騒の日々の真っ最中。

 川崎では、日本のプログレを代表するバンドのひとつであるKBBも、この日ワンマンライブがありました。私はこのKBBのライブを見に行きました。

 KBBは、ボーカルなしのバイオリンが主役のインストロックです。

 会場は、高円寺駅から歩いて数分、雑居ビルの地下にあるショーボートというライブハウス。

 開場少し前に到着してみると、地下の会場入り口から地上に続く階段に行列ができています。開場時間に40人ほどのファンがつくる列は路上に少々はみ出す程度。うす暗い照明にむき出しの梁や天井に照明装置がぶら下がっているロック系の典型的なライブハウスです。最終的には満員に近くなりました。およそ100人程度でしょうか。

 決して多いとは言えないプログレマニア。KBBリーダー壷井彰久氏は集客に大苦戦を予想していたそうですがふたを開けて見れば熱心なファンがそれなりに集まりました。



 バイオリンの壷井さんはこのバンド以外にも様々なユニットで活動しています。アコースティックギターとのデュオのERA(イーラ)、アコーディオンとギターとのトリオのアイリッシュバンドのオオフジツボ。ジャズピアニストの伊藤志宏さんとのデュオなどなど。

 プログレの他の要素つまりメロディの美しさや拍子の複雑さ、起伏に富んだ曲構成といった部分要素に惹かれるプログレッシブロックファンであれば興味を持てる音楽です。

 例えば壷井さんと伊藤志宏とのデュオはピアノとバイオリンというという編成でKBBの新曲をオリジナルがロックバンドの曲だとは信じられないくらい非常に美しく聞かせてくれます。

 このような方々のライブに行き、共演者をたどってまた別のライブに行き、ということを繰り返していくうちにプログレから離れ、クラシックやら中南米音楽やら東欧フォークやらシャンソンやらなんだかジャンルがよくわからないライブに通うことになりました。とは言っても共通項はあり、今のところジャズ系、シンガーソングライター系、ロック系は避けて小編成のアコースティックでボーカルなしのインストバンドが中心です。

 知名度はないけれども実力がある人たちが毎日都内のいくつものライブハウスで少人数の観客を相手に独創的で素晴らしい演奏を聞かせてくれています。

 出演しているアーチストたち同士を店のマスターが紹介して新しい組み合わせのユニットが即席でできることもよくあります。それぞれのレパートリーを持ち寄るライブは、おなじみの名曲が新鮮な響きで聞けて、とても面白い。お気に入りのアーチスト同士が初共演なんて機会があるとわくわくします。

 もったいないことに彼らにはあまり動員力がない。先に書いた壷井彰久さんと伊藤志宏さんのデュオで10人くらい。壷井さんソロで20人くらい。オオフジツボで30人くらいの動員力でしょうか。ERAやKBBはそれなりに集めますがそれでも100人いくかどうかでしょうか。でも、だからこそ非常に小さい会場で、目の前で演奏が聞けます。

 西荻窪のサンジャックは食事もできるライブハウスというより、ライブもしている小さなビストロ。食事がとてもおいしいです。昔なつかし早川義夫やたまの元メンバー、上々颱風の白崎映美さんなども定期的に出演していました。6月からオーナーが変わってARTRIONとして開店予定。ポップス寄りの店になってしまうようです。ミュージックチャージ+ドリンクで3000円前後から。(注2)

 丸の内線四谷三丁目駅から数分のビル街にある四谷のホメリは喫茶店。たまにイベントとしてライブもやるという感じ。雑居ビルの2階にあり、非常に細長い小さいお店。定員18人+立ち見の規模のわりに動員力のあるアーチストも出るので予約必須。早めに行って前のほうの席を確保するのがお勧め。マイク、アンプ、スピーカーなどの設備がないのか生音が基本。サンドイッチがとてもおいしい。(注3)

 西荻窪の音や金時は生音の響きの良い小さいライブハウス。マンションの地下一階の1部屋。開演時間過ぎての入室は、アーチストと観客の間をすりぬけて歩く感じになるのでちょっと恥ずかしいです。アラブ音楽、アフガン音楽など民俗音楽系が充実しています。予約受付をしていないという珍しいお店。ネパール料理もおいしいです。ミュージックチャージ+ドリンクで3000円前後から。(注4)

 大塚のグレコは駅から数分歩いた住宅街の中にあります。全く周りと調和がない、空気を読まない、モダンでおしゃれでかっこいい一戸建ての建物。内装も高級感があり、デートには最適かも。2階に小さい部屋、1階に比較的大きい部屋があり、予約人数によって部屋を変えているようです。上記の店より少し高いですが、ここでしか見られないミュージシャンの組み合わせもあり、他ではなかなか見られないクラシックのライブもあり、見逃せません。ミュージックチャージ+2オーダーで5000円弱くらいから。(注5)

 ジャズは私の守備範囲ではないのでよくわかりませんが他にも学芸大学の珈琲美学や大泉学園inFなどなど無数の小規模ライブハウスで多くの音楽家が活動しています。

 実際に体験して驚いたのですが、同じアーチスト、同じ会場でも、目の前2メートルで聞くのと、5メートルで聞くのとでは全く迫力が違います。後ろから見ていても観客の反応が前と後ろで全く違うことがわかります。通常のライブでも、前のほうは立ち上がって興奮してのりのりのところ、後ろの方はしらけぎみで座って静かに見ているということはよく体験します。せっかく行くのなら前の方にいたほうが楽しめます。

 海外に旅行したときなど、観光客用のライブハウスに行った経験がある人は多いと思います。

 わざわざ旅行しなくても、東京には本物の音楽が身近にあります。

 東京は世界一ミシュランの星が多い都市ですが、実は音楽の面でも世界で一番と言っていいほど充実した都市なのです。

 これだけオリジナリティにあふれた美しい音楽が日々生で演奏されていて、すぐ目の前で聞ける場があることが全く知られていない。非常にもったいないことだと思います。是非一度目の前2メートルでの演奏を体験してみませんか。



オオフジツボ / Eternal Reflection (Live at 音や金時)
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Era /金環食 (Live at FJ’s)
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Era / Sailing Stone (Live at FJ’s)


麗しのミュゼット / 熊坂路得子+磯部舞子


カツラマズルカ”Boeves Psalm(Lars Hollmer)”


John John Festival / second star




6月のお勧めライブ

サンジャック
~エモーショナルトリオ!~
 6/5(水) 沖増菜摘vln.+三枝伸太郎pf.
 6/7(金) アラン・パットンacc.+磯部舞子vln.


音や金時
 6/23(日)オオフジツボ


四谷ホメリ
 6/18 フィドル真奈とギター大史の「ホメリッシュ!」


六本木新世界
 2013/07/21 ERA


下北沢音倉
 2013/07/27 オオフジツボ


大塚グレコ
 2013/07/30 伊藤志宏+壷井彰久


注1 プログレとは

 プログレッシブロックの略。1969~1974年頃に流行った英国発ロックの一ジャンル。ピンクフロイド、イエス、キングクリムゾン、ジェネシス、エマーソン・レイク&パーマーを5大バンドと言う。当時は日本でも大衆的人気を誇った。エマーソン・レイク&パーマーは後楽園球場を一杯にし、西条秀樹やザ・ピーナッツもキング・クリムゾンのエピタフをカバーした。当時大ヒットした井上陽水のデビューアルバムでは3曲ほど編曲面でキングクリムゾンの曲をパクったことを当時のレコーディング関係者が明らかにしている。

 音楽的な特徴として、曲が長い、拍子が複雑、展開が複雑、ヴォーカルが入らない、少ない曲が多い、シンセサイザーを多く使う、ロックでは通常使われないクラシック系のアコースティック楽器を使いたがるなどがある。

 現在でもかつての大物アーチストが来日して往年のヒット曲を演奏する一方で若い世代のミュージシャンも活動している。プログレに分類されなくとも影響を受けたアーチストは非常にたくさんいる。プログレッシブロックというのはもともと和製英語で、来日した海外アーチストには意味がわからなかったという逸話もあるが、今ではProg Rockという省略形とともに英語化している。残念ながら現在は少数のマニアの音楽となっている。今の日本のプログレマニアの特徴としてこのようなものが挙げられる……ような気がする。

 アーチストの人脈をたどって関連するグループや作品を調べ上げてコレクションする。極端な例では例えばキングクリムゾンのメンバーが参加しているからと言って山口百恵や野口五郎のアルバムを買う。

 ライブでは最後まで座って静かに楽しむのが普通。普通のロックファンが紛れ込んでたてのりを期待しているとびっくりする。

 メロトロンの使用をありがたがる。メロトロンとは当時プログレアーチストに重用された楽器でキーボードの鍵盤一つ一つにテープ再生機がついているような代物。ストリングスやフルートの音を鍵盤で出せた。ビートルズのストロベリーフィールズフォーエバーのイントロに使われているのが有名。

 曲が長くて構成が複雑だと喜ぶ。ももクロの一連のシングルをプログレだと主張する一派も。

 オーケストラとの共演をありがたがる。

 変拍子をありがたがる。つまり、通常多い4拍子ではなく、5拍子7拍子は当たり前。ポリリズムも好む。ポリリズムとは、複数の拍子を同時に演奏する手法。例えばパフュームのポリリズムという曲の間奏では、4拍子のリズムトラックにあわせて「ポリリズム」の5つの言葉を繰り返して歌う。曲の中で拍子の変更も頻繁にある。ライブでは手拍子を叩いて盛り上がるのは難しい。


注2

http://pomkn.cocolog-nifty.com/kikaku/


注3

http://homeri.jimdo.com/


注4

http://www2.u-netsurf.ne.jp/~otokin/tusin.html


注5

http://www.greco.gr.jp/



石原敏行プロフィール
河田ゆうこプロフィール