「ヒューマノイド見学会」片理誠

(PDFバージョン:humanoid_hennrimakoto
 日本SF作家クラブと日本ロボット学会のコラボレーション企画として、産業技術総合研究所知能システム研究部門のヒューマノイド研究グループが研究をされているヒューマノイドの見学会が2013年5月27日にあり、私も同行をさせて頂いてきました。


 秋葉原でSF作家クラブ側の参加者の方たちと待ち合わせた後、一路、産業技術総合研究所のあるつくば市まで。いやぁ、つくばエキスプレスって速いッスね(汗)。途中で大先輩の方々に「どうやったら企画って通るんですか?」とか、色々と切実な質問をしたりしてました。つくば市に着いた後も送迎バスの中から見たJAXA(宇宙航空研究開発機構)の建物にテンションが上がったり、緑の多いつくばの町並みに感動したり。
 産業技術総合研究所も広大な敷地の中にあって、沢山建物が建っているんですが、周囲を大きな木々に囲まれているという素晴らしい環境の中にありまして、また丁度新緑がまぶしいくらいに美しい季節で、天気も素晴らしく、天国の森に迷い込んだような気分でありました。


 ヒューマノイド研究グループでは主任研究員である梶田秀司さんをはじめとする皆様から、主に“HRP-4C”というヒューマノイドロボットを見学させて頂きました。このロボットについてはヒューマノイド研究グループのサイトに写真があるのですが、“メタリックなボディ”+“人工皮膚によって再現された頭部や手”という構成になっております。
 私も事前にサイトの写真は見ておりまして、その時は正直言うと“不気味の谷”というのを感じずにはいられませんでした(汗)。“不気味の谷”というのは“人間の外観に近づくことで、かえって違和感が増幅されてしまう”という現象のことです。ある程度以上人間に似ると、微妙な違いが気になってしまうものなんですね、人というのは。
“HRP-4C”の写真を見た時に感じたのもまさにソレでして、「なまじ人間に似せようとするから、おかしなことになっちゃうんじゃないのかな。ロボットはもっとメカっぽくてもいいと思うんだけど」などと考えていました。
 ところが! 実物の“HRP-4C”を私はちっとも不気味だとは思いませんでした! これは実に不思議なことですし、結局は個人の主観の問題ですので、当然人によって感じ方は違だろうとは思いますが、少なくとも起動後の“HRP-4C”を私は全然気味が悪いとは感じませんでした。
 じゃあ人間そっくりだったのかと言うと、そういうわけでもなく、やっぱりロボットだということは分かりました。人間と見間違えたわけではないんです。彼女(“HRP-4C”は女性型のヒューマノイドなのです)は確かにロボであり、メカでした。
 上手く言えないので感じたことをありのままに書きますと、“HRP-4C”が起動されて目を開ける時、そこに一瞬だけ、3DCGで描かれた“初音ミク”が目覚める時の映像がオーバーラップしたんです。本当なんですよ。“HRP-4C”と“初音ミク”はさほど似ていないんじゃないかと思うんですけど、なぜか両者が私の中では重なったんです。恐らく「無機物の中に灯った生命の炎」みたいなものを感じたんだと思います。とにかく、ドキッとした一瞬でした(汗)。
 私は“HRP-4C”の中に何らかの魅力を認め、それ故に不気味とは感じなかったのだろうと思います(“HRP-4C”についてのより詳しい感想は日本ロボット学会誌にレポートを書きましたので、詳細はそちらをご参照ください。2013年12月15日発行予定)。


 梶田さんは“HRP-4C”を実際に動かして、色々なデモンストレーションを見せてくださいました。
 まずは目覚め、自力だけで立ち、歩く。彼女は起動して立った状態になれば、多少の力で押したくらいでは倒れません。自分でバランスを取ることができるんです。そしてその歩く姿は、実に美しいものでした。まったく軸がぶれないんですよ。こんな歩き方はよほど訓練している人でなければできないんじゃないか、と思えるほどでした。動きも大変にスムーズで、歩き方が綺麗すぎるという点を除けば、とても自然な感じでした。
 続いては喋って挨拶。彼女がお辞儀をするとこちらもつられてお辞儀をしてしまう、という(笑)。
 体のあちこちの間接を使ってのウォームアップも、やはり動きがとても滑らかで、人間にはとても真似できなさそうな感じ。
 微笑みや驚いた顔、怒った顔など、表情のパターンも見せてもらいました。更には歌って踊ってもくれました! さすがにロボット・ダンスっぽかったです(笑)。
 他には横歩きや、その場での足踏み等々。
 全体的な印象としては動きが滑らかすぎてかえって不自然という感じだったんですけど、じゃあ不気味だったのかというと、全然そんなことはなく、前述しましたように中には、むしろ美しいとか綺麗と感じてしまう動作もあったほどでした。確かに人間ぽくない部分やまだまだぎこちない部分もあるけど、逆にこっちの方が凄いんじゃないか、みたいな感想を抱きました。研究者の方々はヒューマノイドを人間に近づけようとして日々ご苦労をされているわけですが、人間よりも美しかったり可愛かったりする分には全然OKなのではないかと。多少の違和感程度なら、慣れちゃえば別にどうってことはないんじゃないのかなと、そう思ったんです。これが私が実際に感じた素朴な感想です。“HRP-4C”の写真を見た時に思ったのとはまったくの逆になってしまうんですけど(汗)、でも実物の彼女にはそれくらいのインパクトがありました。


 食堂で昼食を頂きながら研究員の方から色々なぶっちゃけ話を伺い(笑)、その後、会議室でこちらからの質問に答えて頂きました。
 主任研究員である梶田さん自身はずっと二足歩行の技術を研究されてこられたのだそうで、なぜ二足歩行の研究なのかというと「難しそうだったから」なんだそうです。実際二足歩行というのは無茶苦茶難しい技術で、三十年間研究されてきた現在でもご本人にとっては「まだまだ全然」なんだとか。
 つまり梶田さんには「この技術で一山当ててやろう」とか「こっち方面を研究しとくと将来何かと有利かも」とか、そういう考えは全然なくて、ただ単にガッツを刺激されたからこの世界に飛び込んだだけなんです。二足歩行技術の先には○○があって、この技術を今から研究しとけば将来その○○を牛耳ってやることができるんだ、とかじゃないんです。梶田さん自身は「シーズ探し、あるいはセレンディピティー(思いがけない発見)」と仰っていました。何度も強調されていたのは「ヒューマノイドの研究は、産業技術総合研究所全体のほんの一部に過ぎない」ということ。数多ある可能性の中の一つ。産業技術総合研究所は未来に向かって大きな大きな網を広げていて、ヒューマノイド研究はその網の目の一つであるにすぎない、ということなんですね。彼らは未来を決めつけてかかったりはしないんです。優秀な人たちが大勢でスクラムを組んで、希望の種を地道に探している。どんな未来にも対応できるように。梶田さんもその中の一人、ということなんですね。


 ですが私はヒューマノイドには実に有望な将来性があるように思えました。これは研究員の方々にはポカンとされてしまったんですが(汗)、でも“HRP-4C”を見て直感したんです、いつかロボットと結婚する人が現れるだろうな、と。ま、結婚というのは比喩でして、要は人生のパートナーに人間ではなくロボットを選択する人が現れるだろう、ということです。
 だって例えばもし“初音ミク”と寸分違わないような高性能ヒューマノイドロボットがこの世に存在したら、金に糸目は付けないから売ってくれという人は世界中に沢山いると思いますよ。「萌え」という概念をどうしても上手く説明することができなくて、結局最後までポカーンとされちゃったんですけど(汗)、人の姿をした像に恋をしてしまうことは、ピグマリオンの例を出すまでもなく、フィクションでは昔からあることなんです。人間とロボットの恋だって、SFには沢山描かれていますよ。それがもうすぐ本当に実現するかもしれない、というだけのことです。そこには何ら突飛なことはありません。予測されていた未来の中の一つなんですから。
“HRP-4C”にはまだそこまで人を惹きつけるほどの魅力はないだろうと思います。ですが彼女はこれからもどんどん進化してゆくでしょう。既にハードウェアの性能はかなりなレベルに達していて、後はソフトウェアの方が追いつけば、人間の標準的な動作をすることのできるヒューマノイドは誕生するのだそうです。AIの研究も世界中で進んでいますし、人生のパートナーとしての任に十分堪えうるロボットは、いずれ必ず誕生すると思います。そしてそのロボットは、きっと二足歩行をしてますよ。


 見学会前日の新聞に「殺人ロボット兵器の開発凍結や検討委員会開催を求める勧告が国連に提出された」というニュースが載っていまして、ロボットの未来はどうなるんだろうと心配したりもしていたのですが、実物の“HRP-4C”を見学させて頂いて、ロボットには明るい未来だって十分あり得るのだということを確信いたしました。いつかロボットによってより良い未来が実現されることを、心より願っております。



片理誠プロフィール


片理誠既刊
『Type:STEELY 上』
『Type:STEELY 下』