『北の想像力――《北海道文学》と《北海道SF》をめぐる思索の旅』岡和田晃(編集)



書籍名:『北の想像力――《北海道文学》と《北海道SF》をめぐる思索の旅』
編者:岡和田晃
執筆者:(五十音順)
 石和義之
 礒部剛喜
 浦高晃
 岡和田晃
 忍澤勉
 倉数茂
 小谷真理
 高槻真樹
 巽孝之
 田中里尚
 丹菊逸治
 東條慎生
 橋本輝幸
 藤元登四郎
 増田まもる
 松本寛大
 三浦祐嗣
 宮野由梨香
 横道仁志
 渡邊利道
装丁:平野甲賀
出版社:寿郎社
発売日:2014年5月28日
判型/ページ数:A5判/798ページ
価格:本体7,500円+税
ISBNコード:978-4-902269-70-3
Webサイト:寿郎社


 20人のSF批評家たちが北海道文学と北海道SFを〈世界文学〉〈スペキュレィティヴ・フィクション〉として読み直した日本文芸評論史上画期をなす空前絶後の評論大全!

 安部公房・荒巻義雄の古典的作品から清水博子・円城塔の実験的作品、アイヌ民族の口承文学、北海道が描かれた海外作品、北の風土にかかわる映画・アニメ・ソフトウエア・音楽にいたるまで――。
 ジャンルを超えた批評家たちの倦まざる批評実践によって日本近代文学の限界を炙り出し、〈辺境文学〉としての北海道文学と北海道SFを〈世界文学〉〈スペキュレィティヴ・フィクション〉として読み直すことで、文学とSFの新たな可能性を〈北の大地〉から見出した、空前絶後の評論大全、北海道の出版社から刊行。
 巻末には2段組で98ページに及ぶ「北の想像力」を俯瞰するための作品ガイド(165作品)が収録されています。


【編者より】
 「SF Prologue Wave」で、日本SF評論賞受賞者や、日本SF新人賞受賞者が寄稿している「季刊メタポゾン」についてご紹介させていただきましたが、その版元である「寿郎社」から、なんとSF評論の大著が刊行されました。
 すでに「讀賣新聞」2014年6月26日夕刊(評:(山)氏)、「北海道新聞」2014年7月1日夕刊(評:柄刀一氏)、「週刊金曜日」2014年7月11日号(評:山田航氏)、「北海道新聞」7月20日朝刊(評:立原透耶氏)、北海道立文学館就任会見(評:池澤夏樹氏)、「小説推理」2014年9月号(評:森下一仁氏)、「TH(トーキング・ヘッズ叢書)」No.59(評:田島淳氏)、「北海道新聞」7月31日夕刊(評:神谷忠孝氏)で取り上げていただいております。
 また執筆者による関連記事が、「西日本新聞」2014年7月2日(「現実を語るには想像力とSFが必要だ」藤元登四郎)、「朝日新聞」2014年7月12日(「「北の想像力」という巨大な「弾」」岡和田晃)、「週刊読書人」2014年7月25日号(「『北の想像力』の試み――「仮説の文学」でネオリベに対峙」岡和田晃)、「早稲田文学8」(討議「幻想文学は何度でも回帰する」)に、それぞれ掲載されています。そのうち、「「北の想像力」という巨大な「弾」」が、未読の方に向けた編者からの概説になっておりますので、この場を借りて紹介させていただきます。


■視点を「外部」へ開く出発点に

 「日本のSF厳しい現実 海外でウケても本が売れない」。去る5月21日、かような見出しが朝日新聞の朝刊を飾り、ウェブを駆け巡った。だが、それはくしくも、筆者が編集を担当した800ページにも及ぶ大著『北の想像力《北海道文学》と《北海道SF》をめぐる思索の旅』(寿郎社)が完成した日と重なっていた。札幌駅前の版元を訪ねると、出迎えた土肥寿郎社長は、徹夜作業の連続に足をふらつかせながらも、不敵な笑みをたたえていた。そして「朝刊で日本のSF界が“読者不在の内紛”によって停滞していると揶揄(やゆ)されていましたね。そこに『北の想像力』という巨大な弾(タマ)を撃ち込むのです」と告げ、記念すべき最初の一冊を渡してくれた。

 完成した『北の想像力』を眺めて確信した。この本は日本のSFが内輪に自閉し停滞感を醸し出しているという非難に対し、またとないカウンターになると。なぜなら『北の想像力』は、読者に思考の糧をもたらすために、売り上げ至上主義とは別の理念で、文学とSFのあいだに横たわるさまざまな障壁を壊して編まれた評論集だからだ。執筆者は20人に及び、それぞれスタンスは異なるが、筆者が本当に面白いと思う書き手へ声をかけて参加してもらった。

 そこには、空間表象、SFの歴史、自然科学、怪奇幻想、リアリズム、映画やコミック、それに音楽……と、多様な切り口の論考が収録されている。安部公房や荒巻義雄、円城塔に石黒達昌と、文学とSFをまたいで活躍してきた書き手が、最新の理論で分析される。さらには清水博子や吉田一穂、鶴田知也に向井豊昭といった、今は忘れられた書き手が読み直される。加えてワカルパらアイヌ口承文学の語り部や、フィリップ・K・ディックなど海外の作家まで取り上げられる。165作に及ぶ膨大なブックガイドが、読者を思考の深みへ誘う。


 これらを取り結ぶ共通のテーマは、「北海道」という場所(トポス)である。「内地」とは気候風土を異にし、また「アイヌ」の土地を収奪して開拓を進めた過去を有する北海道とは、日本という国家の内側に登録されながらも、そこからの逸脱を余儀なくされてきた「辺境」だ。辺境とは、近代国家が発展を遂げる際に、民族差別や「棄民」の発生など、切り捨てられた矛盾が露呈する場所。『北の想像力』が目指すのは、その矛盾から目をそらさず、できるだけ精緻(せいち)に思考をめぐらせていくことだ。執筆者には道外出身者も少なくないが、問題意識の共有は容易だった。北海道とは縁遠い人にも本書をひもといていただきたい。


 では辺境の問題を考えるに、なぜSFが重要となるのか。ここで言うSFは、狭苦しいジャンルの枠組みとは別個のもの。現代哲学や前衛芸術の方法論を導入してSFと文学の境界を解体する、新しい方法論を意味する。「サイエンス・フィクション(科学小説)」としてのSFを「スペキュレイティヴ・フィクション(思弁小説)」という科学批判の文学に読み替えるものだ。そもそも1893年、函館で刊行された北海道初の文芸誌「北海文学」の巻頭言の時点から、北海道文学は世界に開かれた文学を目指していた。人間と骨がらみで結びついた辺境の矛盾を相対化し、私たちの視点を「外部」へと開いていくことを『北の想像力』は目指している。本書で試みた冒険は、現代日本に鬱積(うっせき)する排外主義からの脱出口を模索するためにも有効で、普遍的な意義をもつと信じ、あえて北海道なる辺境を出発点に、世界へ殴り込みをかけてみたい。



岡和田晃プロフィール


岡和田晃既刊
『北の想像力
《北海道文学》と《北海道SF》をめぐる思索の旅』