「ある欠陥物件に関する関係者への聞き取り調査」林譲治

(PDFバージョン:arukekkannbukkenn_hayasijyouji
取材陣:今日はありがとうございます。個人を特定できないように画像、音声はエフェクトがかけられてます。

関係者:どうも。例の物件の建設現場にいたものです。

取材陣:具体的には、どのようなお仕事を?

関係者:いや、それは身バレするので勘弁してください。広義の管理業務を担当してました。

取材陣:なるほど。まず、基本的な確認ですが、やはり官需の方が業界としては、なんと言いますか、美味しい仕事なんでしょうか?

関係者:まぁ、ケースバイケースなんですけど、基本的に国の仕事は、我々のような業界では、うま味が大きいですね。

取材陣:それは、どういう理由なんでしょうか?

関係者:まぁ、ぶっちゃけね、クライアントの国が我々に丸投げしてくるんですよ。いちおう入札もあるんですけど、国もそういう専門知識の持ち主が少ないのと、官需はねぇ、縦割り行政っての、部門間の横のつながりがないから、全体のコスト計算なんか出来ないわけですよ。だから入札額の計算も我々に依頼してくるんですよ。研究費とかそういう名目で。自分達が計算した発注額をですね、自分達が入札価格で応募すれば、受注できますし、損はないですな。

取材陣:物件の質はどうなるんですか?

関係者:まぁ、そういう疑問をみなさん抱くと思いますけどね、官需は構造的に高コストになりますけど、質は低くないですよ。別に私ら、意図して欠陥品を作ろうとなんかしてませんから。儲けは確実に確保してるんで、十分な人数で、十分な時間かけて工事に入るんです。納期も大目に設定するんで、完成は大抵納期前ですね。そうなると、国も仕事が早い、できる政府だと言われるし、我々も奨励金とか入りますしね。

取材陣:国からの検査は?

関係者:基本、そういうのはないですね。今回の物件のような大規模なものだと関係する部局も多いじゃないですか。だから検査なしです、慣例として。

取材陣:当局からクレームはでないんですか?

関係者:いやまぁ、検査させろって部局もたまにありますけど、あんたたちの検査のために納期が遅れたらその責任取れるのか? って言うと、みんな黙りますね。まぁ、おたくらもわかると思うけど、トップの権限が強いから、役所も納期遅れの責任は負いたくないわけですよ。ただ、まぁ、我々も手抜きはしませんよ。事故が起きないから、検査なしの紳士協定が成り立ってるんで。

取材陣:では、今回の事故はどうして起きたんでしょう?

関係者:まぁ、簡単に言えば、業界の慣習を知らない素人が嘴を突っ込んできて紳士協定が破られたってことだね。変な正義感振り回すのは結構なんだけど、だったら紳士協定なしでも動くような制度に切り換えれば良かったのに、目についたところだけいじくるから、どうにもねぇ、おかしな事になって。

取材陣:具体的には?

関係者:まずね、問題の物件はさぁ、構造的な欠陥がわかっていたわけですよ。設計は国なんだから、そういう欠陥も改善すべき立場なんだよ。だけどね、さっきも言ったけど、縦割り行政の弊害で、欠陥を修正できないんだよね。役所の側ではね。だから元請けが設計の改善をしようかなと、動いていたわけですよ。その分、納期は長く設定していたのね。なのに、いきなり設計の改善はいらないから、元のまま建設しろ、納期は前倒しだ、工員はいまの人数でやれとか強権でごり押しされたわけですわ。

取材陣:業界の慣習を破っただけでなく、正規の管理手法でもないと?

関係者:そこが微妙だねぇ。銀河皇帝は暗黒卿には皇帝の代行としてフリーパス与えているからね。超法規的存在の法的根拠という厄介な話になるんだよね。ただ建築の素人だから、あんな無茶言えるんだよね。私なんか納期前倒ししろって、首絞められたからね。まぁ、基本的に皇帝への忠誠心だから、悪気はなかったんだと思うけどね。ただもうちょっと業界のルールを尊重してくれたら、デススターも破壊されなかったんだけどね。中途半端な正義は、この業界では通用しませんわ。



林譲治プロフィール


林譲治既刊
『陽動ミッドウェー海戦
山本五十六の秘策』