「手間の多い料理店」林譲治

(PDFバージョン:temanoooiryouritenn_hayasijyouji
「すいません」
「へい、いらっしゃい」
「すいません、食べログで見たんですけど、この辺にリットリオというイタリアンレストランがあるはずなんですけど、知りませんか?」
「リットリオかい、うちだよ。俺がオーナーシェフ」
「えっ、食べログだと50席あるレストランって書いてましたけど。ここ、屋台ですよね」
「まぁ、店舗のことはな、いろいろあるんだよ、税金とかよ」
「屋台で本格イタリアンなんてできるんですか? 道具もないみたいだけど」
「そこはまぁ、色々あるんだよ。うちはな、少しでも安くて美味いものを出すのがモットなんだー、だからだよ」
「まぁ、店舗の固定費を抑えるってのはわかりますけどね。大丈夫なんですか」
「大丈夫だよ。ほら、これメニュー」
「あぁ、メニューは本格的だな。これ全部、オーナーシェフが調理できるんですか?」
「できるよ、俺はイタリアで10年修行してきたんだぞ。どれにする?」
「セットメニューもあるのか……いや、単品にしますよ。アクアパッツァなんてできるんですか?」
「できるよ、うちはシーフードでは定評があるんだからな。食べログにも書いてるだろう」
「まぁ、それで来たんですけどね。じゃぁ、アクアパッツァ」
「あのね、うちは前金制だから、税込み2500円、言っとくがね、他の店ならこのレベルの料理なら3000円以上するよ」
「前金のレストランなんて聞いたことないな、はい、2500円」
「はい、2500円受け取りまして、はい、これ」
「はい、これって、三色ボールペンですよね、何ですか?」
「そこに大きな家があるだろ」
「ありますね」
「あの家に入って、この三色ボールペンを渡せば、アクアパッツァがでてくるから。俺もこっち閉めて厨房行くわ」
「あそこがレストランなんですか? 」
「いや、レストランはここだよ。あそこは交換所」
「なんで、そんな面倒なことするんですか?」
「お客さん、外食は軽減税率の対象外って知らないの? だからね、このボールペンと加工食品のアクアパッツァと交換するの、そうすると軽減税率でね、税金が安くなるの。言ったでしょ、少しでも安くて美味いものを出すのがモットーだって」



林譲治プロフィール


林譲治既刊
『新戦艦〈大和〉
発進編』