「数学SF 夢は全くひらかない」山野浩一

(紹介文PDFバージョン:yumehamattakuhirakanaishoukai_okawadaakira
 すでに、「朝日新聞」、「讀賣新聞」、共同通信、「日本経済新聞」、「東京中日スポーツ」等で訃報が流れたので、ご承知の方も多いと思いますが……残念ながら、二〇一七年七月二〇日、山野浩一氏は亡くなってしまいました。
 奇しくもこの日は、「SF Prologue Wave」で「自殺の翌日」が公開された日。日付が変わって更新を確認すると、すぐに山野浩一さんにお知らせしました。返事はありませんでしたが、「死滅世代」の反響には本当に喜んでいただけましたので、きっと(お気に入りの作品だった)「自殺の翌日」公開も確認されたものと信じています。「自殺の翌日」再掲が、山野浩一さんの生前最後のお仕事となってしまいました。

 「SF Prologue Wave」での〈山野浩一未収録作品集〉企画の今後についてですが、実は未収録作品は長短とりまぜ、少なく見積もっても二十五作品を超えた数があります。あまり湿っぽくなりすぎるのも山野浩一さんらしくないですので、ひとまず継続していき、そのお仕事を再評価する土壌を少しでも整えていければと思います。

 今回は、遺族のご依頼で私がお部屋の片付けを手伝ったときに発見した、ユニークなショートショート「数学SF 夢は全くひらかない」をお届けします。
 出典は不明なのですが(ご存知の方、お知らせください)、山野さんのお部屋から発見されたのはガリ版刷りのコピーでした。末尾に肩書として(筆者は宇宙塵同人)とあることから、SFファンジンの掲載作と思われます。
 「”話の特集”の「ピース・ホープ・ハイライト・セブンスター・いこい」につづいて懸賞小説第二弾」という記述を鑑みれば、おそらく一九七〇年頃の作品と推定されます。というのも「ピース・ホープ・ハイライト・セブンスター・いこい」は「話の特集」一九七〇年八月号に掲載された作品です。この号の「編集前記」には、山野浩一さんの顔写真と、「ショート・ショートの中から煙草の名前(日本専売公社発売のもの)を一番多く探し出した人10名に『NWSF(ママ)』誌を贈呈します。葉書にて話の特集編集部まで7月15日までにお寄せ下さい」とコメントが添えられていました。
 そう、ちょうど伝説の雑誌「NW-SF」が創刊された時期だったのです。「話の特集」同号の「編集メモ」には、「『NW-SF』誌(季刊・山野浩一単独編集)が創刊された。従来の空想科学小説としてのSFから自由な思考世界としてのSFへ脱皮しようとする意図によるもので、執筆者は山野浩一の他に種村季弘、平岡正明、河野典生、J・S(ママ)・バラード、相倉久人など。定価二〇〇円、送料50円、発行所は杉並区堀之内(編注:以下略)」と添えられていました。
 「数学SF」、「この作品の総和を求めよ!」という”読者への挑戦”がありますが……皆さん、おわかりになりましたか? 正解するとどんな賞品がもらえたのか、ちょっと気になってしまいますね。
 「SF Prologue Wave」の採録にあたって、企画・文字起こしは岡和田晃が担当しました。(岡和田晃)





(PDFバージョン:yumehamattakuhirakanai_yamanokouiti
 市がたつというので一番にやってきたのだが、位置を間違えたのか、いんちき情報にひっかかったのか遠い地のことで判らないが、いちに私の早合点があったようだ。いちいち捜してもいられない知人もいない血のつながった人間ももちろんだ。荷はどうにも重く、にこにこ笑ってもおれず、逃げだしてきただけに似顔絵などで人相がわれているやも知れず、日本中に身のおきどころのないおれには臭いすら気ずかわねばならないのだ。散々な目にあうのはもう三度目などで誰かさんなどにはかかわらず、三下ともつきあわず、さんすけや山椒売りをしながら退散時だけを見計らって、ゆっくり散歩もできない生活に参加してきたのだが、もう死などは怖いとも思わないが、しちめんどうなことはしたくなし、知ることすらさけて忍んでしくしく泣いて生きていくしか能はない。今となってはごろついていた年頃は午後堂々とごきげんになって歩き廻り、ごたくをならべたもんだが、ろくでもない人生だ。ろくろく生き方などというものを考えることはなしに、ロックなどを聞いて、心のドアのロックも忘れ、ついでに人生語録も失ったが、そんなものをトロク考えてきたため釧路くんだりまで流れてくるはめになったのだ。質屋通いをしていた頃はましちゅうもんだ、ナワバリの失地恢復のいいだすと、しちめんどうな手続きののち、結局はやり合ってどんどんぱちぱち、ばかもんばかりがはち合わせ、鉢巻まいて、八幡様におまいりしても、蜂の巣つついたようないちかばちか勝負にや同じこと、結局四苦八苦で生きのびたものの苦労をねぎらってくれるものなどない。喰うや喰わずで靴のすり切れるまで逃げてとうとう北海道。はるばるきたぜ釧路へなどとイキがってもいられない。いい時代は遠い昔、トウのたった身体じゃ出直しもできない。当分この商売続けなきゃ暮らせないのが当世ってものさ。街じゅう市のたつところを捜し廻って、ようやく獣医近くってのを聞き、十二時にやってきたが、はて、しじゅう荷を背負っているだけに今日中さんざん捜し歩くこともできず、苦汁始終なめ続け。十五、十六、十七とおれの過去は暗かったが、今じゃ暗かろうが明るかろうがどうたっていい、せめて市のたつ場所だけでも誰か教えてくれないものだろうか。

“話の特集”の「ピース・ホープ・ハイライト・セブンスター・いこい」につづいて懸賞小説第二弾
 ◎この作品の総和を求めよ!



山野浩一プロフィール


山野浩一既刊
『鳥はいまどこを飛ぶか 山野浩一傑作選 Kindle版』
『殺人者の空 山野浩一傑作選 Kindle版』