「無職の俺が幼女に転生したがとんでもないディストピア世界で俺はもう終わりかも知れない:第3話」山口優(画・Julia)

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<登場人物紹介>
● 栗落花晶(つゆり・あきら)
 この物語の主人公。西暦二〇一七年生まれの男性。西暦二〇四五年に大学院を卒業したが一〇年間無職。西暦二〇五六年、トラックに轢かれ死亡。再生歴二〇五六年、八歳の少女として復活した。
● 瑠羽世奈(るう・せな)
 栗落花晶を復活させた医師の女性。年齢は二〇代。奇矯な態度が目立つ。

<これまでのあらすじ>
 西暦二〇五六年、コネクトーム(全脳神経接続情報)のバックアップ手続きを終えた直後にトラックに轢かれて死亡した栗落花晶は、再生歴二〇五六年に八歳の少女として復活を遂げる。晶は、再生を担当した医師・瑠羽に再生歴世界の真実を告げられる。西暦二〇五六年、晶がトラックに轢かれた直後、西暦文明は一度核戦争により滅んでしまい、その後、『システム』と呼ばれる世界規模の人工知能ネットワークだけが生き残り、文明を再興させたという。留卯の案内で、「仕事を与える」役所たるGILDに到着した晶は、「適切な職業」をGILDのコンピュータに判断させるため、身体をスキャンする必要があると言われ、服をぬぐのだった。


(1)
「適性判定が出ました」
 ブースの奥で、全裸のままくまなくスキャンされた後、再び服を着てディスプレイの前に戻ると、女性がにこにこして待っていた。
「判定:適性職業(ジョブ)はフリーター」
 女性は言う。
「フリーター?」
 転生前と同じじゃないか……。
 俺は愕然として女性を見つめた。
「なあ、俺は小学二年生のはずだろ……? 小学校とか、通わなくていいのかよ?」
「栗落花さんのコネクトームを走査(スキャン)した結果、その必要はないとの判定がでました。栗落花さんは大学院卒業程度の知能と知識を備えており、IQは二〇〇を超えています。従って、もはや学習すべきことは何もありません」
 女性は言葉を続ける。
「しかしながら、栗落花さんのコネクトーム走査結果は同時に、この年齢の児童に備わっているはずの記憶力及び学習能力の著しい欠如を示しており、研究職等の職業(ジョブ)を与えるのも不適当との判定が出ました。従って、栗落花さんの適性ジョブは『フリーター』となります」
「ふざけやがって!」
 俺は怒りで我を忘れ、握った拳で画面を拳で叩き割ろうとした。そのとき、俺の手首を瑠羽が素早く掴む。
「やめたほうがいいよ」
 いつになくどんよりした目で、彼女は言う。それから、胸ポケットのペンの頭を軽くタップした。
 途端に画面上の女性が消えた。天井照明も消えた。
「……君の適性の結果が変わってしまうよ。暴力的な性向ありと見做されると、収容所行きだ」
「収容所……?!」
「職業(ジョブ)が、『暴力性向修正所勤務労働者』になるだけだけどね。外出の自由もなくなる。犯罪もおかしていないのに犯罪者にされてしまうようなものだ。気をつけなよ?」
 それから、俺の手を離し、ペンの頭をタップした。空色の明るく爽やかな照明が復活する。
「フリーター『栗落花晶』には、第三次シベリア遺跡発掘隊・第一一二勤務班(パーティ)への参加がアサインされています。勤務内容は発掘隊サポート。これに伴い、彼女の保護者である瑠羽世奈も、現在の夢島区区民病院・再生科勤務班(パーティ)のアサインを解かれ、第三次シベリア遺跡発掘隊・第一一二勤務斑(パーティ)への参加がアサインされます。勤務内容は発掘隊専属医」
「うん、了解だよ」
 瑠羽は簡単に言った。
「パーティ?」
「ああ。職業(ジョブ)を配分(ディストリビュート)された者は、その職業を必要としている勤務班(パーティ)にアサインされることになっている。基本的には数名程度のごく少数の人数で構成されるね。勤務班では、予算等も共有されるから、それで新しい装備を買ったりもする。私はついさっきまで、夢島区区民病院・再生科勤務班に所属していたが、たった今所属が変わったというわけさ」
「それにしても、シベリア遺跡発掘隊だって……?」
「『システム』による文明再生は、全世界で進行中だ。再生歴二〇五五年の現在、ほぼ地球全域で、かつての文明は再生されている……。再生人類、つまりあきらちゃん、君のような人間も、今や稀少だ。ほとんどの人類は、この再生歴の世界に生まれた」
「ああ……」
「だが、発掘が終わっていない地域もある。ロシア連邦のシベリア地方は、まだ発掘が終わっていない地域の一つだ。核戦争のとき、ロシアのミサイルサイロを破壊するために、核が多く撃ち込まれた地域でもあり、破壊の跡はすさまじい。だが、それでも西暦時代の遺跡が皆無なわけではないと思われる」
 瑠羽(るう)は淡々と説明した。
「そんなところでいいかな?」
 画面の女性に向けて尋ねると、女性は頷いた。
「簡潔なご説明、ありがとうございます。ちなみに、第一一二勤務斑の調査地は、ポピガイ・クレーターの中心部に複数存在する、かつてのロシア連邦の秘密都市とみられる遺跡の一つ、暫定名『ポピガイ-XⅣ』です。」
 女性の画像は消え、シベリアの地図が映った。そのほぼ中央部にクレーター形状がある。ポピガイ・クレーター。約三五〇〇万年前――プラス、二〇〇〇年前――に隕石が落下したとされるクレーターだ。直径は九〇キロメートル。ユーラシア最大のクレーターである。その中心部に都市があるとは知らなかった。
 いや、「秘密都市」だから、西暦の時代には知られていなかったということか。だが、再生歴の現在では、来歴の不明な遺跡となって発掘の対象となっているのだろう。
「勤務斑の人数は?」
「三名です。勤務斑の班長(リーダー)がちょうど、こちらに来ていますので、紹介いたしますね」
 女性は微笑みを絶やさず、言う。GILDに来たら、ちょうど予約したことになっていてすぐに適性な職業(ジョブ)と勤務斑(パーティ)が与えられ、そのすぐ後に、与えられた勤務斑(パーティ)のメンバーが揃う。全てが『システム』の意図したとおりの予定調和で進んでいるようで気分が悪い。
(フリーターにされた上にシベリア送りか)
 俺は、徐々に自分がどんよりした目になっていくのを感じた。(こんな言いなりになってなるものか)という謀反気(むほんげ)が沸いてくるが、鼻腔をくすぐる心地よいフレーバーがそれを緩和していく。空色の照明も俺に落ち着きを与え、(まあ、こんなものか)という感情がわいてくる。
(なるほどな……こういう環境にずっと居続けたら、この世界の人間のようになりもするか)
 俺は敢えて怒りの感情を保ち、自らを沈めようとするフレーバーの効果を締め出そうとした。
「用意のいいことだね。さて、どんな人かな?」
 瑠羽はわくわくしたような声を出しているが、特に驚いたような声音ではない。予め知っていたような、そんな感じだ。
「ねえ、あきらちゃん。冒険の始まりだよ、楽しみだね! どんな人がリーダーかなー?」
 全く楽しみではなかった。

(2)
 ブースのドアがゆっくりと開く。
「あのう、ここでよかったでしょうか……? 第一一二斑のメンバーがいると聞いたのですが……?」
 奇妙な格好の女が入ってきた。
 蜂蜜色の金髪にハシバミ色の瞳。白い肌。愛らしい顔と言える。年齢は俺(現在の、幼女としての俺)と瑠羽の間ぐらい、つまり、ハイティーン。手足はすらりと長く、身長は瑠羽と同じぐらい。
 だが、俺が注目していたのはその女の顔ではなかった。彼女が来ている服だ。彼女は、首から足のつま先、指先までを覆う透明なぴったりしたスーツを着ていた。そのままなら全裸とほぼ同じ露出度だが、スーツには、カーキ色のブーツ、スカート、瑠羽よりもやや小さめの胸を覆うチューブトップ、襟のパーツが付随しており、その部分のみ、露出を免れていた。
「……こんにちは。ロマーシュカ・リアプノヴァと申します。職業(ジョブ)は科学者(サイエンティスト)ですわ。第一一二斑の班長にアサインされております」
 外見は外国人に見えたが、流ちょうな日本語を話す。
 尤も、再生歴の世界に民族や国籍という概念があるのか俺には分からないが。
「こんにちは! リアプノヴァ班長! 私は瑠羽世奈。君の班の専属医だ。職業(ジョブ)は医師(ドクター)。よろしく」
「まあ、初めまして! ドクター、心強いですわ。私のことはどうかただロマーシュカとお呼びください!」
 ロマーシュカは満面に喜色をつくって微笑んだ。
(む……あまりどんよりした目をしていないな……?)
 この世界で会った中では、一番生き生きしている(瑠羽は暫定一位だったが、ロマーシュカの登場により暫定二位に下落した)。
 ロマーシュカはそれから、俺を見下ろした。
「こちらは……? ドクターの娘さんですか?」
 瑠羽は頭を掻いた。にやにや笑いをして、俺に意味ありげな視線を送りつつ。俺はその視線を無視した。
「ああ、この娘はね、まあ私が保護者ではあるんだが……、娘というわけではなくてね。今日生まれたばかりの再生人類で、さっきジョブを与えられ、この勤務斑(パーティ)の仲間になったんだ。フリーターの栗落花晶ちゃん。どうか気軽にあきらちゃんと呼んであげて欲しい」
「仲間……?」
「栗落花晶だ。よろしくな」
 俺はぶっきらぼうに言い、ロマーシュカに手を差し出した。
「まあ!」
 ロマーシュカは両手で俺の手を握る。
「フリーター……ということは、この年齢で学業を全て終えているのね! 素晴らしい才能だわ!」
「いや……だが俺は所詮フリーターだ。IQは高いが、科学者適性はないと言われてな……」
 俺は俯く。
 そうだ。
 そうなんだ。
 俺は、西暦二〇四五年にも同じ経験をしていた。大学院を修了した俺は、多くの企業にESを送ったが、誰も見向きもしなかった。俺が努力して収めた学業は、企業にとってはあまり意味のないものだったらしい。
(転生しても同じ……俺はどの世界でも……同じ運命なんだろうな……)
「そんなことはありません」
 気付くと、ロマーシュカはしゃがんで俺と同じ目線になり、俺の両肩に手を置き、真剣に俺を見つめている。そのハシバミ色の眼光に、俺は気圧された。
(瑠羽もシステムの奴隷というわけではないようだが、このロマーシュカもそうなのか……? そして、この眼光の強さは瑠羽以上だ)
「運命を悲観してはいけません」
 ロマーシュカはきっぱりと言った。
「私も再生人類です。ジョブを与えられ、パーティに参加し、空色の天井の下、淡々と日々をこなす。しかしそんな中でもあなたの決意、決断、意志は、きっと運命に影響を与えます。どんな職業(ジョブ)を、どんな勤務斑(パーティ)をアサインされようが、あなたはあなた。そして、あなたの小さな胸に宿る意志もあなたのもの。決して悲観してはいけません」
 ロマーシュカは俺のぺたんこの胸に触れた。
「あなたは知能の極めて高い人です。システムも分析しづらかったのでしょう。だから、どうか、あなた自身を信じて。不安なら、いつでも相談にのります。人生の先輩として」
「リーダー……」
「ふふ……どうか、ロマーシュカ、とのみ呼んでください。もしよろしければ、私もあなたをあきらと呼びたいわ。どうかしら?」
 花が咲いたような笑みだった。俺は一瞬、ロマーシュカの露出過多な衣服のことすら忘れ、その笑顔に引き込まれた。
「あ……ああ……そうだな……あきらとだけ、呼んでくれれば良い……よろしく頼む」



山口優プロフィール
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山口優既刊
『サーヴァント・ガール』