カテゴリー: コラム

「本を読むように旅に出よう~エンパイアスターとニューヨーク~」冨川泰次


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――およそこの巨大なマルチプレックス宇宙には、ブルックリン橋のように、リスと呼ばれる世界も数多く存在する。それが始まりだ。それが終わりだ。――
『エンパイアスター』サミュエル・R・ディレーニ 米村秀雄訳

 多くの人にとって旅は楽しいかめんどうくさいかのどちらかだ。幸い、前者にあたるぼくは気楽に出かけることにしている。その時のスケジュールと予算によって行き先は国内だったり、海外だったりするが何より自分の知らないところにいる、というのが面白くてしかたがない。そんなぼくが メトロポリタン美術館に行こうとニューヨークへの旅を思い立ったのが去年の秋。四大美術館はすべて回りたいと思っているのに、行けたのはナショナル・ギャラリーとルーブル美術館のみ。エルミタージュはともかく、メッツぐらいはと気合いを入れた。なにしろ、アメリカ東海岸は遠い。

 なんとか行けるめどがたったころ、とあるSF小説のタイトルが頭に浮かんだ。それはサミュエル・R・ディレーニの『エンパイアスター』。キーワードは「ブルックリン橋」。そう、マンハッタン南部のイーストリバーにかかる大きな橋だ。この物語のはじめのほうで、主人公の少年、コメット・ジョーは老婆、シャローナからこの小説の肝でもある「マルチプレックス」という概念を教わる。その場所が、故郷の星のブルックリン橋だ。そして彼は地球に行ってブルックリン橋を見るんだと叫ぶことになる。

「怖くないとは言ってない」―第八回 怪物と怪獣とせつなさとワイシャツ― 牧野修(画・YOUCHAN)

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 論争というものは、常により良きもの正しいものを求めて行われるわけではない。というより、おおよその論争はどうでもいいことを話し合う。というか、大半はくだらない口喧嘩であったりするわけで、カレーライスのライスは皿の右側か左側かとか、蚊に刺されたとき爪で十字を刻むのは何故かとか、ほんとにどうでもいいことで延々と言い合いを続けていたりする。私も一度「幼児の頃に大便をどう呼んでいたか」という話になり「うんこちゃん」と「うんさん」に別れて大論争となったことがある。最終的には、呼び捨てにしないだけ「クソ」よりはましという結論で痛み分けになった。ほんとにどうでもいい話だったでしょ。

 さてホラーである。
 ホラー好きの間で論争のネタとして有名なものには「超常的な要素のない作品はホラーではない」というものがある。要するに幽霊や妖怪や、怪物に宇宙人などが出てきて怖がらせるのは良いけれど、「結局怖いのは人ですよね」みたいな話はホラーとしては認めない、という立場である。これを遵守するなら単なる殺人鬼映画はホラーではなくなる。その結果サイコホラーはサスペンスであってホラーじゃないとか、いや、あまりにも現実離れした殺人鬼ならホラーで良し、とか、ややこしいことになってくる。
 次に有名なのは「走るゾンビはありかなしか」というものだ。腐った死体が走るわけがない、という意見はもっともだが、それを云うならまず死体が動くわけがないという根本的なところから問題となってくる。
 そろそろ今回のテーマが見えてきたと思う。見えてこない人は置き去りである。というわけで「怪獣か否か」論争が今回のテーマである。もう露骨にパシフィック・リム公開便乗企画である。

「作家ンちの犬とうさぎ」杉本蓮(画・河田ゆうこ)

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(タイトル画像河田ゆうこ)



 みなさんお待ちかね…たぶん…、ウサギさん画像の登場です。

 SF作家のペットはどんな環境でサバイバルしてるんでしょうか。

 そのうさぎさん編。

 杉本蓮(作家)
 家のうさぎはまったりしている時にしか写真を撮らせてくれません。
 名前は、Pixy、7歳♀。体重約2.7キロ。下僕は4人。別名食欲魔兎です。

「東京小規模ライブハウス事情  ~ジャズ以外のアコースティック系音楽を中心に~」石原敏行(画・河田ゆうこ)


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東京小規模ライブハウス事情

~ジャズ以外のアコースティック系音楽を中心に~


(イラスト)河田ゆうこ



(マイナーと世間には思われているジャンルにおいては、50人集まれば、大成功や事件だったりします。私がファンをやっているプログレという音楽ジャンルも、その1つです。集客力は、全員と顔見知りになれる人数、といえば、イメージが掴めるでしょうか……)

 2013年のゴールデンウィーク初日の4月27日土曜日は、日本各地でプログレ(注1)イベント目白押しでした。一般の人には全く関係がないことですが、一部のプログレマニアにとってはとんでもない狂騒の日々の真っ最中。

 川崎では、日本のプログレを代表するバンドのひとつであるKBBも、この日ワンマンライブがありました。私はこのKBBのライブを見に行きました。

「怖くないとは言ってない」―第七回 おおむね人を喰ってます― 牧野修(画・YOUCHAN)

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 むかしむかし、私が小学六年生の頃。生まれて初めてブルーベリーパイを食べて、これほど美味しい物がこの世にあるのかと感激した。もともと甘いモノは苦手だった。洋菓子は食べなくもなかったが、所詮はショートケーキ止まりだ。当時はパイと言えばアップルパイぐらいしかなかった(いや、まあ、私のような下町のガキの周囲には、という意味ですけどね)。しかもその林檎はえげつなく甘くべしゃべしゃで、あまり好みでもない洋菓子の中でも最下位だった。
 パイと言えばそんなものだと思っていたところに、そのブルーベリーパイは現れたのだった。たかだかアップルパイのアップルがブルーベリーに変わっただけじゃねぇかよ、ブルーベリーがなんだか知らねえけどよ。
 などと毒づきながら、勿体ないから食ってやるけどよ、と一口。
 ああ、なんということでしょう。
 甘みは上品に押さえられ、酸味がそれに寄り添い、パリパリとしたパイの食感はわずかばかりのモッチリとした下地の食感と合わさってもうこれは腰を抜かさんばかりの至上の美味しさだった。
 もう、パイとパイ方面に向かって土下座ですよ。謝罪会見ですよ。こんなことなら言ってくださいよ、アップルパイの旦那、でげすよ。
 そして思った。これを誰に止められることもなく残りを気にすることもなく心ゆくまで食べたいと。
 こんな欲望はたいていは大人になると忘れるものだ。ところが私は忘れていなかった。社会人になってからブルーベリーパイをワンホール買って、まるまる食べてみたのだ。すっかり気持ちが悪くなった。スティーブン・キングの作中人物みたいに紫のマーライオン状態となった。つまりいくら美味しくてもワンホールは多過ぎたというのが結論だ。それぐらい食べる前に気がついてもよさそうなものだが。
 というわけで、今回は食事がテーマだ。

「バタイユ・クトゥルー・ロックンロール」吉川良太郎

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「Eye Baloon」(The Museum of Modern Art, New York)
オディロン・ルドン(Odilon Redon, 1840-1916)


 えー。今回はジョルジュ・バタイユの話をします。
と言ったところで「お、ついにバタイユの話か!」と喜ぶ人がどれだけいるのかと書き始めてから思い至り、もう三行目でなにやってんのぼくはとまたしても自問せざるを得ないのですが。しかもそれを問うとバタイユ研究に費やしたぼくの青春が全否定されてじっと手を見てしまうのですが(あ、生命線も短いよ!)
しかし「知らないことを知りたい」という知的好奇心、これこそ現代の読書界から、特に若者の読書体験から失われて久しいものではないのか。

「作家ンちのわんこ」片理誠・青井美香・久美沙織

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(タイトル画像河田ゆうこ)
うさぎさんの写真も入る予定でしたが、諸般の事情(おもに担当者の怠慢)によって掲載は延期になりました。

おわびといってはなんですが、先月、掲載できませんでした写真をば。

溺愛されてます。

①片理誠(作家)

我が家の愛猫です。美人でしょう?

「怖くないとは言ってない」―第六回 ふかい~話― 牧野修(画・YOUCHAN)

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 いくらなんでも時期を外し過ぎとは思いますが、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。
 今回は新年第一弾に相応しく「ふかい~話」です。漢字にすると「不快~話」。早い話が厭な話特集。もうすっかり嫌がらせですよ。まだお屠蘇気分が抜けない人々(いるかどうか知らないけど)を奈落の底に突き落とすような話が続きますので、覚悟してください。

「姑の定年」宮野由梨香

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 その昔、「ぬれ落ち葉族」という言葉があった。仕事ひとすじで生きてきた会社人間の男が、定年後に妻にまとわりつく始末の悪さを皮肉った言葉である。もちろん、これは現在でも解決された問題ではないのだが、既に十分、「社会的な認知」を得ている。むしろ、「終身雇用」が生きていた牧歌的な時代の幸せな男たちという見方も成り立つ。
 厄介な現象というのは、実は社会的な認知を得た段階で九十九%終わっているものだ。逆に言えば、現在において切実な問題ほど認知されないし理解もされないし、それを言い表す言葉もない。

「バレンタインギフト」図子慧

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 イベントというものは普及しすぎると、ありがたみが薄れてきます。
 最近、めっきり影が薄くなっているのがバレンタイン・ディ。毎年この時期には、街のあちこちに専用コーナーが設けられて珍しいチョコを手に入れることができるのですが、ここ数年なんとなく活気がありません。うちの近所の店などコーナーは作るものの、積んであるのは、徳用チョコと通常商品の特売セールのみという脱力ぶり。ま、所帯やつれして甘い辛いも一緒くたのおばちゃんおじちゃんのお店なので、徳用チョコでいいんですけどね。ちと淋しい。

「SF Prologue Wave編集部新春のご挨拶」(画・図子慧)

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①ペンネーム
②肩書き
③SFPWの編集として新年にあたって一言
④今年のお仕事などの活動予定 
⑤SF的アンケート
 a.神になって世界のなにかを変えられるとしたら、なにを変えますか?
 b.タイムマシンを作るとしたら、どんなルールを作りますか?
 c.ペットにしたいクリーチャーは?
⑥一言

「怖くないとは言ってない」―第五回 強い女祭りじゃい!― 牧野修(画・YOUCHAN)

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さわたまき~!

 何を叫んでいるのか良くわからないと思いますが、とりあえずプレイガールだのプレイガールQだのと聞くと、ヰタ・セクスアリス的な郷愁気分に浸ってしまう牧野でございます。
 ほとんどの方がぽか~んであろうけれども、かまわないのである。そうである。とうとうその日がやってきたのである。
 強い女祭り開催だ!!
 ひゃっは~!
 気分は調子にのってる時の北斗の拳の悪役ザコキャラである。たとえ次の瞬間に頭を爆発させて死ぬのであったにしても、この瞬間は大はしゃぎなのである。

「デジタルの夢/アナログの夢、NEOの近況について」片理誠

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 この文章を書いている2012年11月3日現在、私は「NEO」という創作集団の窓口役を拝命しております。
 そこで今回はこのNEOに関して多少ぶっちゃけたところを書いておければと考え、筆を執ることにいたしました。もし良かったらお付き合いくださいませ。
「NEO」が誕生するに至った経緯については、以前私が書いた「SF Prologue Wave」というコラムにあるとおりですので、今回は我々の近況についてを主に取り上げたいと思います。

「インド人の金玉翁さんが、我が家に来てくれない」林譲治

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 私はいまの家に越してからかれこれ五年になるのだが、この間、インド人の金玉翁さんが我が家を訪ねてくれたことは一度もない。そう、ただの一度も。どうしてだろうか?
 理由は幾つか考えられると思う。まずインドから我が家への道程を考えれば、距離という問題がある。インド・日本間は飛行機で移動するとしても、我が家は関空からは遠いし、金玉翁さんだって、インドの自宅から空港に行くま簡単には移動できないかも知れない。
 また世の中には飛行機はどうしても駄目という人もいて、そうなると陸路で幾つかの国境を越え、最後は船で日本へ移動となろう。
 他にも海路という方法もあるが、インド人である金玉翁さんがインドのどこに住んでいるかによって、海路のメリット・デメリットは決まってくる。

「ぶぶぜら息子のお弁当♪」青井美香


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 今年四月。
 我が家のぶぶぜら息子が中学生になりました。
 ちなみにこの命名はうちの旦那。ぶぶぜらはもちろん、南アフリカで開催されたワールドカップで一躍有名になったブブゼラが由来。学校であったことなんか、なんにもしゃべらないのに、なぜかいつもほかのことにはぶうぶううるさいので、この命名は彼にはぴったりと言えましょう。
 さて、中学生になって、大きな問題がひとつ。小学校まであった学校給食が、彼の通う公立中学では実施されていなかったのです。

「ズッシーは三途の川の夢をみるか」図子慧

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 先日、NHKクローズアップ現代の特集は、「天国からの“お迎え”」だった。
 最近のNHKは、大介護時代を目前に、孤立死、墓、とテレビとしては未踏の分野に分けいっている。
 お迎え特集というからには、狩野芳崖の慈母観音図でもでるのかと思ったが、そういう方向の話ではなく、家族や医療関係者のアンケートをもとにした、医療や看取りの場における「”お迎え”の効用」の真面目なドキュメンタリーであった。
                 ・
 お迎えは説明するまでもないが、亡くなる間際に、死んだ身内や親しい人々がおとずれて、迎えにきてくれるという幻影である。
                 ・
 わたしも、母を看取ったときに経験した。

「日乗グルメ編」吉川良太郎

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 えー。今回は過去にミクシィ(公開はマイミク限定)で書いた日記から抜粋でございます。
 急な来客に冷蔵庫にあるもので一品こしらえるのが主婦の腕の見せ所。心に移りゆくよしなしごとをそこはかとなく書き散らした日記を寄せ集めてゼリー寄せなどにすると夏向きのオードブルに最適ですよ。どうやって!
 白状すればコラムの御依頼をいただいてなんも書くことがないんだが、ありものでお茶を濁そうという。料理に例えて書きだしたので、じゃあ食べ物関係の話でまとめてみよう。あと順序は適当なので季節感バラバラです。バラバラのバラはバラエティのバラだ。
「普段どんなものを食べているか言ってみたまえ。きみがどんな人間か当てて見せよう」(サヴァラン)
 ぼくは普段こんなことばかり考えてます。

「足跡」植草昌実


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 たいして収集しようという気もなかったのに、手元に小さな化石がゴロゴロ転がるようになっている。
 ことのおこりは小学生の頃だろう。遠足で岐阜県の瑞浪に行った。中新世の哺乳類、デスモスチルスの化石が発掘されたところだ。当然、目的地は博物館で、あの面長のカバのような巨獣の化石を見たし、敷地の中で化石掘りもさせてもらった。小さなかけらではあったけれど、木の葉と二枚貝の殻が裏表になった化石を拾って、意気揚々と帰ったのを覚えている。
 子供の頃から、化石になったのも生きているのも、動物はなんでも好きで、椋鳩十や戸川幸夫の本と一緒に、たかしよいちの本も学校の図書室で借りては読んでいた。瑞浪のデスモスチルスについては、遠足のあと『まぼろしの怪獣』で発掘のいきさつを読み、先に読んでおけばよかった、と思ったものだ。

「ほんとうの敵」坂本康宏

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 最近、いじめによる自殺事件が問題になっているせいだろうか。
芸能人や著名人の『いじめられっ子だった』というカミングアウトが目につく。もちろん、程度の差を問わなければ、ほとんどの人にいじめられた体験はあるだろう。しかし、僕にはどうも程度の差をひとくくりにして過大申告し、好感度をあげる一手法としているように感じられてならない。
 芸能界には、いじめられっ子しかいないわけではあるまい。『体が大きかったからいじめられた』などといういじめが本当に深刻なものだったのか、首をかしげざるを得ない。
 そういう人のコラムを読んでいると『いじめは必ずなくせる』などというキレイ事を声高に叫んでいる人が多いが、そんなこと、事実上不可能であることは、みんななんとなくわかっているはずだ。
 周囲を見渡してみると、動物の世界にだっていじめは存在している。ただ、それをひとくくりにして、生存競争とか弱肉強食という言葉に置き換えているだけだ。

「いいメロス」吉川良太郎

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 心の赴くままに諸々のテーマを書き散らしては途中で放り投げる。
という投げっぱなしジャーマンなこのコラムは実は確信犯的なスタイルで、あえて途中で終わることで、読者の皆様に続きはどうなるのだろうといつまでもワクワクしていただこう、なんなら自由に続きを考えていただければという、あれです、小泉八雲が『怪談』でやってたテクニックですね、そして昨今の若者において著しく衰退しているという「想像力」を賦活し、ひいては日本SFの興隆に資するという深謀遠慮? そう深謀遠慮(考えながら書くなよ)にもとづく遠大な計画の第一歩なのですよ!
 という屁理屈をヘンリさんに「ダメです」と一刀両断されて今これ書いてます。
 しかしあの続きは、続きはどうなったの! という読者の要望でもあれば別ですが特になんもないので、やはりこのあらかじめ失われた未完成コラムは続くのであった。


 学生時代、国文科に籍を置くXという友人がいた。
 Xというのはもちろんイニシャルではない。ていうかイニシャルがXってフランシスコ・ザビエルかプロフェッサーX(本名チャールズ・エグゼビア。これもザビエルの英語読みですな)くらいしか思いつかないんだが。まあそれはいいんだ。
 このXは現在、塾で小中学生に国語を教えている。
 で、ある日ひさしぶりにXと電話で話していたら、こんな話が出た。
「今の子供は『走れメロス』に感動しないんだよ。それより、なんでメロスはこんなにすぐキレるのって」

「怖くないとは言ってない」―第四回涙腺系でGO!― 牧野修(画・YOUCHAN)

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 満員の試写会場でほとんど予備知識無しにスピルバーグの新作を観ていて号泣してしまった牧野です。
 その新作とはET。
 スピルバーグってコメディがヘタだよなあ、とか思いながら観ていたら、死んだはずのETが蘇るとき、枯れた植木がみるみる元通りになっちゃうシーンで、もう声をあげて号泣ですよ。
 カッコワルと思いつつ周りに気づかれないように涙をそっと拭っていたら、前に立っているサラリーマンの肩が小刻みに揺れているじゃないですか。気がつけばそこかしこですすっすすっと鼻をすする音が。照明が点いたら、結構な歳のおっさんたちが、みんなぐすぐすいいながら試写室から出てきましたよ。みうらじゅんがいうところの涙のかつあげ状態。
 あれを見ていたので、一般公開後ぽつぽつとあった辛口のET批判を見るたびに、こいつ試写会で泣かされて照れ隠しにこんなこと書いてんじゃねえの、と思ったものでした。

 というわけで今回のテーマは「泣ける映画」である。

「パップラドンカルメのうわさ」吉川良太郎

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 あらかじめ失われ、永遠に出会えない幻の美味がある。
 ボードレールにシャンソンを囁いた酒瓶の妖精、プルーストの思い出を呼び起こす紅茶に浸したマドレーヌ、スタンリー・エリンのレストランでふるまわれる特別料理、ポー秘蔵のアモンティラード、チバ・シティでさらりまんがかっこむ牛丼とワカメのみそ汁、永遠の虚空に増え続ける栗饅頭、ゴンとドテチンが食らうマンモスの肉……

 ……気取った書き出しで始めたものの、どんどん庶民的な味に近づいていくのはぼくが庶民だからですが。マンモスの肉は庶民的なのか。それはともかく。
「フィクションに出てくる料理で一番うまいものはなにか?」
 というテーマは誰しも一度は考えたことがあるだろう。

「サブリミナルへの福音」山口優

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『イーリアス』の英雄は、私たちのような主観を持っていなかった。彼等は、自分が世界をどう認識しているかを認識しておらず、内観するような内面の〈心の空間〉も持っていなかった。私たちの主観的である意識ある心に対し、ミケーネ人のこの精神構造は、〈二分心〉と呼べる。
――ジュリアン・ジェインズ著/柴田裕之訳「神々の沈黙 ―意識の誕生と文明の興亡―」

すみずみにまで階層秩序や監視や視線や書記行為が及んで、個人の全ての身体を明白に対象とする広域的な権力の運用のなかに身動きできなくなる状態――それこそは完璧なやり方で統治される居住区の理想世界なのである。
――ミシェル・フーコー著/田村俶訳「監獄の誕生 ―監視と処罰―」


 昨今の社会状況を概観すると、東日本大震災によって引き起こされた原発事故以来、人々の放射線への恐れが連日のデモを結果し、また一方では、社会保障を目的としている、とされる消費税増税に多くの議論が費やされています。
 これらの事象に共通する因子があるとしたら、それは何でしょうか? 長年の不景気による社会不安等を挙げる人もいますし、それもまた真実です。
 ですが、私はもう一つ別の視点を考えています。すなわち、人が自分自身を支配したいと願う欲求の台頭、ではないかと。

「なぜ東電などのために消費税をくれてやらねばならないのか」町井登志夫

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 増税法案は衆議院を通過してしまった。
 間違いなく数年後には消費税は10%になるということだ。最悪だ。
 わたしは小沢一郎は大嫌いだが増税法案に反対していると言うことだけは評価する。最悪の政権、民主党の公約がぐちゃぐちゃになっているということもあるが、こんな百害あって一理もない増税を通す必要はないから。
 多くの学者やシンクタンク、それに政治家自身が国会で縷々述べているように消費税を1%あげても財政収入はせいぜい二兆円増える程度なのだ。つまり現在の5パーから倍の10にあげても増える税収はわずかに10兆円。
 それにひきかえ財政赤字、すなわち積み上がった赤字国債の累計は国と地方を会わせて1000兆円。消費税は500%上げなければ借金は返せない。つまり1000円の本を買うのに、6000円の消費税付きにしてようやく国の採算が成り立つ計算。プリウスを買うなら1500万円だよ。

「作家の質量」八杉将司

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 七月、ヒッグス粒子発見か、というニュースが駆け巡りました。
 その前もそれっぽいのを観測したかもという報道が流れましたが、あれよりも確実なデータが取れたというので今回大きく取り上げられてます。
 拙著の話になりますが、早川書房から出しました「Delivery」の一部の設定が、このヒッグス粒子が見つからなかったらという前提であんなことや、こんなことになるというところがあって、執筆しているときはヒッグス粒子は見つかってなかったのですが、出版が近くになって「そろそろ見つかるかも」といった話が出てきて、もし発見されたらどう修正しようかとはらはらいたしました。そんなことで冷や汗かいたのは日本中でぼくぐらいだったかもしれません。
 とりあえずまだヒッグス粒子であるとの確定はできておらず、限りなくそれに近い新種の素粒子と思われる観測データが見つかりました、という段階なので、某ウィスロー粒子の影だったなんてこともあるかもしれません。(ないって)

 ところで、ヒッグス粒子とは何? 質量を生むって話があるけど、どういうこと? といった疑問を持たれた方はたくさんおられると思います。ぼくも小説を書くために素粒子物理を勉強するまで、ヒッグス粒子なんて名前すら知りませんでした。

「帝国よりも大きくゆるやかに」伊野隆之

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 6月5日更新のprologue Waveから、エクリプス・フェイズというRPGの世界で小説を書くという企画が始まっており、その中に、「ザイオン・イン・アン・オクトモーフ」という作品で参加している。僕の「ザイオン」は、岡和田晃さんの紹介とともに、6月20日の更新で公開されているので、是非、読んで欲しい。
 ところで、この「エクリプス・フェイズ」企画のスタートと同時に「NEOについて」というページができている。NEO(Next Entertainment Order:次世代娯楽騎士団)とは、そのページにも書かれているとおり、「日本SF新人賞+小松左京賞の新人賞組で、SFを盛り上げよう!」というグループだ。

「怖くないとは言ってない」―第三回 これは本当にあった話なんだけど―牧野修(画・YOUCHAN)

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 夜中自転車で走っていたら職質にあった。きちんとライトもつけているし、もちろん登録済みの自転車だ。問題は何もない。だから、ご苦労様です、たいへんですよねえ、とニコニコして受け答えしていたらどんどん警官の数が増えていった。なんだかひっきりなしに無線機で喋っている人がいる。あっという間に若い警官から年嵩の警官まで十人あまり、私の回りを囲むようにして集まってきた。カバンを見せろとか言われるかなとドキドキして待っていたら、自転車の照合が終わると同時に、わらわらとみんな解散していった。というような経験から、職質の時は警官に向かってにこやかに話し掛けてはならないという教訓を得た牧野です。
 実際それからは職質されると不機嫌そうに応対することにしているが、あっという間に話が終わって解放される。しかし何よりも問題なのは、なんで私はこんなに職質されるのかということである。いや、答えは聞きたくない。

「「味噌汁の具が1種類だなんて!」から……」宮野由梨香

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「味噌汁の具が1種類って、それはないだろう!」
と、夫は言った。
 今から20年ほど前、結婚したての頃のことである。
「例外はカブだな。あれはカブと葉っぱで2種だということで許す。それ以外は駄目だ!」
 たしか、ワカメだったと思う。何らかの理由で(多分、旅行前だったか後だったかだ)、他に食材がなく、ワカメだけを入れた味噌汁をつくったのだ。 そうしたら、夫が「具が一種類だなんて、あり得ない! こんなの、味噌汁じゃない」と言いだしたのである。
 当然、宮野は反論した。
「具を2種類以上入れないと味噌汁じゃないなんて、誰が決めたのよ!?」