(PDFバージョン:mydeliverer50_yamagutiyuu)
一人の変容した者、光につつまれた者であった。そして哄笑した。これまでこの地上で、かれが哄笑したように、これほど哄笑した人間はなかった!
――フリードリッヒ・ニーチェ著/氷上英廣訳
「ツァラトゥストラはこう言った」
「崩壊するアメノトリフネを見て気づいたのです。C2NTAMは最大まで伸びると強度が最低になる。そして、それはI体とR体のドッキングにおいて用いられるC2NTAMについても同じだと。ざっと強度計算すると、互いに反対方向に軌道を巡るI体とR体がC2NTAMで結びつき、そのナノチューブケーブルが伸びきった瞬間のみ、その強度はATBで切断できるまでに弱まると」
私たちは脱出ポッドの内部にいた。リルリはポッドのガスジェットを巧みに操り、タケミカヅチのI体とR体の会合地点にランデブーするように調整した。
「……私が22個全てを切断するつもりでしたが、この損傷した身体では、最適なタイミングで全てを切断するだけの素早い動きに耐えられない。そこで、残りをあなた様に斬ってもらおうと思います」
一人だけのポッドに二人詰め込まれていた。男性一人が充分に入れるポッドなので、小柄なリルリと、女性としても中ぐらいの体躯の私なら、窮屈ではあるが二人入れている。
「良かった」
私はしみじみと言った。
「あなただけが危険なことをやって、私がそれを傍観しているというのはつらいものよ。それが回避できて本当に良かった」
リルリは複雑な顔をした。