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「ゼロ2」山口優

(PDFバージョン:zero2_yamagutiyuu
「天頂方向、誤差修正プラス2・〇、宜候――。着艦角度問題なし。発着電磁管レール電圧正常。光帆たため」
 私は「光帆たため」の指令に合わせてスイッチを押す。薄いナノ反射膜である光帆はほぼ一瞬で収納され、途端に、今まで航宙母艦「赤城」から受けていたコヒーレントなガンマ線ビームに伴う減速がなくなる。母艦と私の航宙戦闘機「ゼロ」の相対速度は未だに三〇〇メートル毎秒。その状態で、我が「ゼロ」は「赤城」の航宙機発着管に飛び込んだ。
 凄まじい減速。私の機械の体はパイロットシートに押しつけられる。長さ三〇〇メートルの航宙機発着管いっぱいに電磁レールで減速され、発着管の底に到達したときには、彼我の相対速度はほぼゼロになっている。
 ずん――。
 鈍い音と共に、残りの相対速度が発着管の底の衝撃吸収剤によって解消されたことを感じる。
「レイ」
 先に着艦していたい日向絵留少尉が通信してきた。
「報告してくる。また後で。――今夜、二人で祝勝会よ」
「了解しました」
 私は自分の機械の頭脳の情動パラメータがおかしな値を取っているのを自覚しながら、そう応答した。

「ゼロ」山口優

(PDFバージョン:zero_yamagutiyuu
「我に続け。進路一時仰角三〇」
 絵留(える)少尉の搭乗機が複雑な運動パターンとともにそう告げる。量子テレポーテーション暗号通信システムは、彼女と私の機が共有している量子エンタングルメントの射影情報によってその通信を復号した。
 一斉に飛行隊はその進路へ向かう。星々だけが観戦する、漆黒に近い闇の戦場。飛行隊の各機の機影が、星の光の中、鈍く浮かび上がる。軽快な運動性と高い航続性を併せ持つ美しい機体たち。伝統的な紀年法に則って、二〇四〇年に制式化された我々の機は、「ゼロ」と通称される。
 前方で瞬く光が、一瞬で通り過ぎる。
 刹那の戦闘。