タグ: じいちゃんの鉄工所シリーズ

「橋の下」田丸雅智


(PDFバージョン:hasinosita_tamarumasatomo
 窓の外には見事なオーシャンビューが広がっていた。
「うわぁぁ」
 と、ぼくは思わず感動のため息をもらす。
 青い空に、白い雲。太陽の光を受けてキラキラと照り輝く海。そして、瀬戸内に広がる緑の小さな島々……。
 絶景とはこのことだなぁと、ぼくは強くそう思った。すっかり言葉をなくしてぼんやり景色を眺めていると、遠くのほうを大きな船がゆったり通りすぎていった。
「そんなに驚いてくれたなら来てもらった甲斐があったよ」
 いとこのサトシくんは、うれしそうに言った。
「ほぉよ。わしもつくった甲斐があったというもんよ」
 つづいてじいちゃんも、おんなじようにそう言った。
 ぼくは、じいちゃんのつくったマンションの一室、サトシくんの新居に遊びに来たのだった。

「らせん階段」田丸雅智


(PDFバージョン:rasennkaidann_tamarumasatomo
 学校から帰ると、鉄工所から賑やかな声が聞こえてきた。
 どこかのえらい人たちが視察というやつに来ているのかなと思ってのぞくと、白いツナギを着たたくさんの人たちで作業場はいっぱいになっていた。
 アルバイトの人でも雇ったのかなと考えながら作業場に足を踏み入れた瞬間、ぼくは横から出てきた人と、あやうくぶつかりそうになった。
「ごめんなさい」
 とっさにあやまってそちらに目をやって、驚いた。
 いつの間に設置したのか、鉄工所の中には十メートルくらいのらせん階段がそびえ立っていた。そしてそこから、あいだを空けて順々にたくましい身体をした男の人たちが降りてきていたのだった。
 その人たちは、らせん階段から降りてくると順に並んで作業台に置かれた何かの部品を流れ作業で組み立てていた。流れ作業といっても、不思議なことに流れているのは部品のほうじゃなくて人のほうだったのだけど。

「空中ブランコ都市」田丸雅智


(PDFバージョン:kuuchuuburannkotosi_tamarumasatomo
 じいちゃんは、ここのところずっと忙しくしてる。だから、学校から帰ってきても仕事に出かけて居ないことがとっても多い。
 こうやって休みの日に鉄工所にやってきたのも、今日くらいはじいちゃんも家にいるだろうと思ってのことだった。
「ばあちゃん、じいちゃんは?」
 鉄工所の二階が、じいちゃんの家になっている。
 ぼくは、台所で割烹着姿になっているばあちゃんに聞いてみた。
「さあ、屋根の上にでもいるんじゃないかしらねぇ。ちょっと外にでて見てみたら?」
「今日も仕事なの?」
「みたいねぇ」
 溶接用のマスクをかぶったじいちゃんは、鉄工所の屋根にのぼって青白い火花をバチバチと散らしているところだった。
「じいちゃん、何やってんのー?」
 大きな声で聞いてみた。バチバチバチッと火花が散る。
「じいちゃんってばーっ!」
「おお、来たんか」
 と、マスクをとってじいちゃんが言った。
「すまんが、もうちょっと待ってくれ。もう終わるから」
 また少しのあいだバチバチバチッとやってから、じいちゃんはするすると梯子を降りてきた。
 一緒に家のなかへと戻ると、ばあちゃんがお菓子を出してくれた。
「すまんかったな。ここのところ忙しくての」
「何の仕事なの?」
「国から、ある壮大な実験の音頭をとるよう頼まれてな」
「国!?」

「アシュラジャケット」田丸雅智


(PDFバージョン:ashurajyaketto_tamarumasatomo
「じいちゃん、これなに?」
 とぼくが尋ねると、油のついた白いツナギを着たじいちゃんは得意そうにこう言った。
「アシュラジャケットのことじゃな」
 ここコイケ機械鉄工では、日夜、妙なものが生み出されつづけている。
 くるりと丸まった鉄くずの散らかる工場の隅には、いつの間にかアルミのハンガーラックが置かれていた。そしてそこには、黒いジャケットがずらりと何着も並んでいる。
「アシュラジャケット?」
「ほぉよ」
「またじいちゃんが発明したの?」
 ぼくが背を伸ばしてそれを手にとろうとすると、じいちゃんは慌てて止めに入った。
「おっと、さわっちゃいかん。まさにはまだ早いからの」

「アームくん」田丸雅智


(PDFバージョン:aamukunn_tamarumasatomo
「ふんっ、ふんっ」
 と、汗を流してダンベルを上げているのは、見上げるほどにとっても大きな生体クレーンのアームくん。彼はクレーンでありながら、ヒトの片腕と同じような姿をしている。アームくんは、じいちゃんが発明した最先端のクレーンなんだ。
 じいちゃんは、コイケ機械鉄工という鉄工所をやっている。鉄工所という名前がついてはいるけど、興味があれば鉄をつかわず何でもつくってる。若いころに独立したじいちゃんはすぐに頭角をあらわして、すばらしい発明品を次々に生みだしてきたらしい。
 鉄工所の二階はじいちゃん家になっていて、ぼくは毎日、学校が終わるとお父さんかお母さんが迎えにくるまで鉄工所で遊んでる。ロウセキっていうチョークみたいな白い石で地面に絵を描いたり、強力な磁石で鉄くずを集めてみたり。それにあきると、じいちゃんの仕事の様子をのぞきにいく。
 じいちゃんがこのごろ発明した最新作。それが、このアームくん。