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「空っ風と迷い人の遁走曲 2」片理誠(画・小珠泰之介)

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 脳波の遷移、血流の具合、脳内物質の分泌状況……、モニタに映し出されたのはどれもひどい内容のものばかりだったが、中でも最悪だったのが脳内のデータフローだ。
 神経細胞(ニューロン)間のメッセージは、パルス状の電気信号として伝導される。で、この信号の流れを非接触型高深度電磁センサーで大雑把に拾ってみたのだが、まるで世界中からこんがらがった綾取りの糸を掻き集めて無理矢理詰め込んだような有様だった。しかもそこら中に人為的な、直線の流れがある。滅茶苦茶だ。複雑怪奇にからまり合っている上に、強引極まりない乱暴な処置がこうもあちこちに施されてあるとは。まったく、見ていて吐き気がした。
 ひどいな、これは、と思わず声が漏れてしまう。

「空っ風と迷い人の遁走曲 1」片理誠(画・小珠泰之介)

(紹介文PDFバージョン:karakkazetoshoukai_okawadaakira
 片理誠の『エクリプス・フェイズ』小説「空っ風と迷い人の遁走曲」をお届けしたい。「黄泉の淵を巡る」、「Swing the Sun」に続く「ジョニィ・スパイス船長」シリーズ第三弾だが、前二作とは少し趣きを異にし、番外編的な仕様になっている。それゆえ、本作から読み進めていただいてもいっこうに問題ない。むしろ未読の読者は、本作を読んでから「黄泉の淵を巡る」に進んでいただくのがいいだろうか。

 さて、「SF Prologue Wave」の『エクリプス・フェイズ』小説では、火星を舞台にすることは、珍しくない。本作の舞台も火星だが、そのフロンティア的側面のダークサイドである、ダシール・ハメットのノワール小説を彷彿させる――『マルタの鷹』というべきか、それとも『血の収穫』か――陰鬱な雰囲気に、情報体(インフォモーフ)リラ・ホーリームーンが絡んでくる。

 本作が面白いのは、分岐体(フォーク)が重要なキーワードとなっていることだ。火星にフォークというと、齋藤路恵+蔵原大「マーズ・サイクラーの情報屋」が記憶に新しいが、片理誠の本作「空っ風と迷い人の遁走曲」は、角度を変えつつ内面描写よりもプロットの“謎”そのものへより踏み込んだ形で、この問題に向き合っている。『ブレードランナー』をはじめとしたディック原作映画がお好きな方は、ぜひ本作もひもといてみてほしい。

 2014年の片理誠は、待望の長篇『ガリレイドンナ ―月光の女神たち―』(朝日新聞出版)をリリースした。これは人気アニメのノベライズとなっているが、オリジナルのエピソードをもとに書かれており、スピードに満ちた圧倒的なドライヴ感は、原作を知らない読者でも充分に楽しめる。『ガリレイドンナ』が気に入った読者は、「ジョニィ・スパイス」シリーズもきっとお気に召すだろう。
 また、「SFマガジン」2014年6月号に発表されたジュヴナイル作品「たとえ世界が変わっても」では、、『エクリプス・フェイズ』と同様に大きな技術的進展を遂げた未来にて、祖父が遺したサポート・ロボット「ラグナ」と、それを受け継いだ少年や友人たちとの、心あたたまる成長物語が描かれる。ラグナはクラウドに接続されていないスタンドアロン型のサポート・ロボットだが、彼の描写は『エクリプス・フェイズ』に親しむうえで、大きく参考になるだろう。(岡和田晃)



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 目の玉が飛び出るようなクレジットを支払っても、購入できた商品は微々たるものだった。
 私はうんざりした気分で振り返り、自走式大型カートの中身を確認する。
 自家発電用の大型水素ボンベ二本と、クロレラのパウチが三、これは食料としてではなく、循環型空調システムの補充用のだ。私の家にあるのはバイオ方式なので、植物の力を使って酸素を生み出す。あとは食料。合成タンパク質のブロックが一つに、煉瓦のように硬いパンが二斤、様々な藻類や豆類の缶詰(中身はペーストだ)を幾つか。あとはチョコレートバーやクラッカー、粉末ドリンク、スキムミルク、ビタミン剤、等々。
 やれやれ、とずり落ちかけた眼鏡を中指で押し上げる。
 まったく情けない。これが真っ当な人間の生活だろうか。食料なんて、大昔の兵士に支給されていたと言う野戦食と大差ないくらいではないか。贅沢らしい贅沢と言えるのは、三リットルほどのミネラルウォーターだけ。水は燃料電池からも生み出されるのだが、なぜか私はそれを口にすると腹を下してしまうので、しかたなくそちらは全て空調システムの方に回して、自分用のはこうして街で購入することにしている。
 それにしても、まったく住みづらい世の中になったものだ。この界隈も今は不景気で、その一方で税金は天井知らずの勢いで高くなってゆくばかり。甘い汁は、私のような者のところにまではなかなか回ってきてはくれない。

「Swing the sun 4」片理誠(画・小珠泰之介)

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 金星に到着した後も彼女の機嫌は全然良くならなかった。
「船長は散々私のことを無茶だの滅茶苦茶だのとののしってくれたけど、その言葉はそっくりそのまま、ううん、倍にしてあなたに返すわ! 何なのよ! こうして生きていられること自体、奇跡としか呼びようがない! 今まで散々あちこちを旅してきたけど、こんなひどい旅は生まれて初めて!」
 実際ひどい有様だった。顔面は青ざめ、頬はこけ、髪はボサボサ。せっかくの美人が台無しだ。目の下には隈までできてる。

「Swing the sun 3」片理誠(画・小珠泰之介)

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 サン・スイング・レース用の無骨なフレームに愛船を固定し、各種のインターフェースケーブルを接続する。
 船内に戻ってロケットブースターエンジンからの電気信号を確認。今のところはきちんとリンクできているみたいだ。
 実際にはそう神経質になるほど沢山のチェック項目はない。何しろ点火した後はせいぜいロケットの取り付け角度を変更することくらいしかできない。まともな制御など受け付けてはくれないのだ、この野蛮極まりないエンジンは。
 それでも、何しろやったことがないチャレンジなので、俺の神経はささくれる。本当にこれでいいのか。何回チェックしても気が休まらない。元々俺はソフトウェア回りがあまり得意ではないのだ。
 こんな時にリラがいてくれたらなぁ、と思ってしまう。彼女ならあっという間にチェックどころかシミュレートまで何重にも完璧にし終えて、今頃は「大丈夫よ、船長。後は運を天に任すしかないわ」と言ってくれていたはずだ。

「Swing the sun 2」片理誠(画・小珠泰之介)

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 ロッカーから取り出したヘルメットとグローブを装着すると、ジェストは簡易宇宙服のままステーションの外へと出た。具体的には宇宙港の桟橋からレンタルした艀(はしけ)に乗って、だが。
 しかたなく俺もつきあう。艀と言ったって剥き出しのエンジンにフレームと申し訳程度のシートをくくりつけただけの無骨なシロモノだ。残念ながら美女とドライブって趣じゃない。
 安っぽい手すりにつかまっていると、宇宙空間に浮かんでいる蒲鉾型の構造物が見えてきた。全長は三〇〇メートルほどか。
 あれよ、と無線で彼女。
《あの中に目当てのブツがあるの》
 よく見ると薄汚れた外壁に“ダットン商会”と書いてある。いったい何屋なんだ?
 まぁ、一言でいえばガラクタ屋ね、とジェスト。
《古い機械類を色々と集めているらしいわ》
 へぇ、と俺。
《宇宙ステーションのそばにこんなところがあったなんてな。浮島型のドックを丸ごと一つ借りてるわけか》
《所有者らしいわ、この施設の。元はエンジニアだったとか》
《今は引退して悠々自適のコレクター暮らしってわけか。それとも骨董商なのかな?》
《半々てところじゃないかしら。偏屈な機械人という噂よ。このステーションの名物男の一人というわけ》
《だが……こんなところに来てどうするんだ。偽装用の装備でも手に入れるのかな? それとも囮用の船を組む気かい?》
 まぁ、任せといてよ、と彼女。

「Swing the sun 1」片理誠(画・小珠泰之介)

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「これからSF Prologue Waveの『エクリプス・フェイズ』小説を読もうと思うのですが、どの作品から始めたらいいでしょうか?」
 ――イベントなどで、このような質問を受けることがある。

 SF Prologue Waveは「SFマガジン」の「てれぽーと」欄に毎号、紹介文が掲載されている。なかでも、この『エクリプス・フェイズ』企画は、ゲーム雑誌「Role&Roll」でも毎号、紹介されている。
 これまでSFに興味があっても、なかなか手を出せずにきた人たちがいる。
 それが『エクリプス・フェイズ』をきっかけとして、SFの世界を覗いてみようと考えてくれているわけだ。

 あるいはその逆。
 SF作家クラブ50周年記念のブックフェアやイベントを通して、SFの魅力を再発見してくれた人たちがいる。
 今は、前代未聞のSF短篇アンソロジー・ブームが到来しているが、実のところ、昔ながらの宇宙冒険SFの割合いはそんなに高くないように思われる。
 ブルース・スターリング『スキズマトリックス』やアレステア・レナルズ『啓示空間』の系譜に連なる、ポストヒューマンな宇宙冒険SFはないものだろうか?
 そういう方々が、『エクリプス・フェイズ』に興味をもってくれている。

 むろん、これまで紹介してきた『エクリプス・フェイズ』小説は、いずれも世界の魅力を存分に引き出しつつ、個々の作家の個性が遺憾なく発揮されたものだ。
 いずれも甲乙つけ難い完成度にある。つまり、どの作品から読んでいっても大丈夫。
 そう、太鼓判を押すことができるだろう。

 だが、仮に涙を呑んで一作に絞るならば、今回から連載される片理誠(現SF Prologue Wave編集長)の新作「Swing the sun」が、入門にぴったりな逸品ではないか。
 なぜ「Swing the sun」がオススメなのか?

 ひとことで言えば、抜群の安定感。そして圧倒的なリーダビリティ。
 丁寧な筆致は『エクリプス・フェイズ』世界を理解する格好の教材にもなるだろう。

 いま、SF界で最も熱いテーマとも言われる“ポストヒューマン”を正面から扱いながらも、どこか懐かしさを感じさせるレトロフューチャーな雰囲気。
 アウトローを描きながら、どこかあたたかみを感じさせる筆致。
 野田昌宏編のアンソロジー『太陽系無宿/お祖母ちゃんと宇宙海賊』、収録作のなかでは、エドモンド・ハミルトンの『キャプテン・フューチャー』のようなスペース・オペラの名作にも通じるだろうか。
 そしてアクション、怒濤のアクション!
 “日本SFの夏”を代表する作品だとすら思うが、さすがに言葉が過ぎるだろうか。
 けれども、片理誠は、この「Swing the sun」に一つの勝負をかけている。
 その気迫を、君も体感してほしい。

 毎号、多量のSF小説を読みこなす気鋭のイラストレーター・小珠泰之介の手になる、美麗なイラストが付記されるのも見どころだ。

 なお、宇宙船にまつわる各種設定、ならびに“ダイソン・リング”の設定には、著者が想像を膨らませた部分がある。

 「Swing the sun」に興味をもっていただいた方は、続いて、ジョニィ・スパイス船長が活躍する「黄泉の縁を巡る」に進んでみてほしい。(岡和田晃)



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 居住区同士をつなぐ通路の左右。シートの上に並べられているのは、どれも使いふるされた、シケた品ばかりだった。
 半分以上の発光パネルが切れちまってる上に、残りの半分も消えかかっているもんだから辺りは大層薄暗い。剥き出しのステンレスに囲まれた、いかにも古くさい宇宙ステーションの一角といった感じの場所だ。貨物車両が二台すれ違えるかどうかの幅しかない。ここでは何もかもがすっかりどす黒く変色しちまってる。居並ぶ奴らも、通り過ぎてゆく奴らも。
 もっとも、薄暗いからまだ商売になっているのかもしれない。日の下にさらされたなら、たちまち盗品であることが露見しそうなデバイスばかりだった。

「黄泉の縁を巡る 4」片理誠(画・小珠泰之介)

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 こんな弁当箱みたいなのがサイレンの魔女なの、と彼女。
 ああ、と俺はウルフ号のコクピットで肯く。
「……まったく危ないところだった。あと数秒で俺も消されてた。今考えても生きた心地がしないぜ。こいつは俺たちにとっては天敵みてぇな存在だ。出会っちまった不幸を呪うしかない悪夢だぜ。あんな強力なコンピュータ・ウィルスは生まれて初めてだった。俺のワクチン・ソフトはまったく効かなかった」
「本当に? うわぁ、それじゃ私でも危ないね」
「試そうなんて夢にも思わないことだな。だが、まぁ、勝てなくても無理はないさ。何せこいつは、ティターンズだ」
 へ、と少女の立体映像が小首を傾げる。
「このちっこいのが?」

「黄泉の縁を巡る 3」片理誠(画・小珠泰之介)

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「随分、広いのね」
 リラの声が少し硬い。
 広大な宇宙空間にいる時よりも、重巡洋艦の格納庫の中という閉鎖空間を漂う時の方が不安感が強いというのも考えてみれば奇妙な話だが、確かに広大な空間だった。
 俺のラグタイム・ウルフが二百隻は格納できそうな部屋だ。ハンガーの形状から察するに、戦闘機ではなく大型ミサイルの格納庫だったらしい。だが今は全て空だった。どうやら全弾を撃ち尽くした後で大破したようだ。
 辺りは漆黒の闇だ。ライトで周囲を照らしながらウルフはゆっくりと進む。本当ならドローンと呼ばれる機械端末を繰り出して手広く周囲を探査したいところなんだが、生憎、その装備は切らしたっきり補充ができていない。やれやれ。ますます貧乏が嫌いになりそうだぜ。
 空間自体は広いが、立体格納庫の柱や梁が縦横無尽に走っているのでひどく進みづらい。剥き出しのフレームはどれもまだギラギラと銀色に輝いていた。
「船長! あれ!」
 少女が行く手を指さす。

「黄泉の縁を巡る 2」片理誠(画・小珠泰之介)

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 三百と数十時間の宇宙航行はつつがなく終了した。何らかの異常があればすぐに対応できるよう半覚醒モードで過ごしたのだが、拍子抜けだ。もっともこの辺りは真っ当な船なら必ず避けてとおる宙域。つまりは、そのまっとうな船を食い物にする海賊どもも普通ならいない、っていうことになる。今回の依頼主はおおかたドジでも踏んだのだろう。大戦の亡霊がうろついているかもしれないこんな危険領域にくるのは普通だったら冒険家か、お宝狙いの墓泥棒だけと相場は決まっている。
 船は逆噴射によって既にかなりの減速をしていた。ここから先は慎重に行かなくてはならない。
 俺は広域レーダーに目を凝らす。今はまだクリーンだが、はてさて、この先どうなることやら。
「アクティブ・レーザー・スキャンを実行。三十秒置きだ」
「敵から丸見えになっちゃうよ、いいの? 松明持って近づいてゆくようなものじゃない」
 しかたない、と俺。
「進行方向上下左右四五度の範囲だけでいい。リラも各センサーからの反応に注意していてくれ。漂う破片の中にはステルス性の塗料が塗られているものもあるからな、レーダーだけでは感知できないことがある。俺はまだこんな宇宙墓場でスクラップの仲間入りをするつもりはないぜ」

「黄泉の縁を巡る 1」片理誠(画・小珠泰之介)

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 この「黄泉の縁を巡る」は、片理誠の手になる『エクリプス・フェイズ』のシェアードワールド小説だ。大作であるために、「SF Prologue Wave」上では、連載という形で紹介していく。
 『エクリプス・フェイズ』には大別してスペースオペラ的な側面とサイバーパンク的な側面があるが、本作は『エクリプス・フェイズ』のスペースオペラ的な醍醐味を存分に堪能させてくれる痛快作だ。何はともあれ、まずは騙されたと思って本文を読んでみてほしい。迫力ある空中戦から始まる怒涛の展開に、あなたはきっと引きこまれて止まないはずだ。
 主人公のジョニイ・スパイス船長の設定は『エクリプス・フェイズ』のルールシステムに則って作成されたものである。その後、実際に片理誠はジョニイ船長を使って『エクリプス・フェイズ』のゲーム・プレイに参加している。その時のプレイしたゲームのストーリーと「黄泉の縁を巡る」との間に直接の関係はないものの、本作品はロールプレイングゲームのエッセンスに満ちたものとなっており、細部の描写も経験者ならではの躍動感に溢れている。
 なお、本小説には既存の設定を参考にしながら、作者が独自に想像を膨らませた部分がある(特に“大破壊”の描写や空中戦など)。あらかじめご了承されたい。

 片理誠は、第5回日本SF新人賞の佳作を受賞した『終末の海』(徳間書店)でデビューした後、ミステリやSFなど様々な要素を含んだエピック・ファンタジー『屍竜戦記』シリーズ(徳間書店)、量子論と多世界解釈をまさしくゲーム的に表現した本格SF『エンドレス・ガーデン』(早川書房)、近未来の東京で生体兵器とのハードなアクションで魅せる『Type: Steely』(幻冬舎)と、高水準の長篇を次々と発表している。領域横断的な作風が片理誠の特徴だが、本作は初の本格宇宙冒険SFということもあり、ファンにとっても要注目の逸品だ。

 本作品のアートワークを担当するのは、イラストレーターの小珠泰之介。「コミックFantasy」誌(偕成社)のファンタジーコミック大賞佳作入選経験もある描き手だが、長年にわたるSF読者でもあり、イメージ喚起力に優れたアートワークには独特のセンス・オブ・ワンダーがある。海外のイラストレーションとはまた違った味わいを堪能していただきたい。(岡和田晃)



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 見上げるとバブル・キャノピーの向こう側に暗黒の海原が広がっていた。頼りなく瞬く手前の星々は、今にもその底に飲み込まれてしまいそうに思われた。
 あの向こうに無限の世界がある。思えばこんな超高々度哨戒機の操縦士に志願したのも、少しでも星の海に近づきたかったからなのかもしれない。
 もう少しだ、と俺は独りごつ。あともう少し金が貯まれば、こんな薄汚い惑星ともおさらばできる。潜りの工場どもが垂れ流す汚水にしこたま含まれる重金属やら環境ホルモンやらがこの地球をすっかり駄目にしつつある。海洋汚染だけじゃない。大気も大地も、どこもかしこも、有害な化学物質やら放射能物質やらにまみれようとしている。
 この地球こそが宇宙で最も美しい星だなどと利いた風なことを抜かす奴もいるが、見てもいないくせに何が分かるのかと俺は思うね。他人の思い込みなんぞに興味はない。金星、火星、そして木星圏や土星圏。あの向こうにはフロンティアがあるんだ。金さえあればそこへ行ける。俺はこんなゴミみてぇな星で終るつもりはない。のし上がるのさ。そのためにはチャンスをつかまなくてはならず、チャンスをつかむためには実力とコネ、そして金が要る。