(PDFバージョン:The_war_to_end_war_yasugimasayosi)
「君の国ではこの欧州大戦を『戦争を終わらせるための戦争だ』と言っているそうじゃないか。その前にこの戦争自体が終わると思うかね」
「最初の計画通りさっさとパリを陥落させれば終わりますよ、あなた方、軍人が」
スパイ容疑で捕まったフリッツは、ドイツ軍の取調官に皮肉めいた口調で答えた。
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「白猫ヴィルヘルム」八杉将司
(PDFバージョン:sironekoviruherumu_yasugimasayosi)
その耳が尖った雑種の白猫は、ドイツ軍の塹壕で見つかった。
場所は西部戦線であるベルギーのイーペル近郊。
決死の攻撃に出て陣地を奪い取った連合軍のイギリス兵によって拾われた。
首輪がつけてあり、ドイツ語の認識票が吊るされていた。ドイツ軍の部隊が飼っていたのだろう。したがってこの白猫は連合軍の捕虜になったともいえた。
拾ったイギリス兵の歩兵連隊で飼うことになり、さっそく首輪を付け替えた。
名前もつけられた。
ヴィルヘルム。
現在のプロイセン王国の国王にしてドイツ帝国の皇帝ヴィルヘルム二世にちなんだ名だった。敵国の皇帝をペットにしてやったという皮肉である。
「砲兵と子供たち」八杉将司
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ドイツ帝国陸軍の砲兵アレックスは、拉縄(りゅうじょう)を引いた。
縄と繋がっていた撃鉄が雷管を叩き、火管に引火、砲弾の装薬が爆発する。
耳をつんざく轟音が鳴り、二十一センチ重臼砲が火を噴いた。
アレックスは撃った先に目をやった。
シャンパーニュの小高い丘の斜面が見えた。
放った百㎏以上もある砲弾が飛んでいったのは、あの丘を越えた向こうだった。
そこにはオーストリア・ハンガリー帝国の皇太子殺害事件をきっかけに戦争をしているフランス軍の塹壕があるはずだった。
しかし、アレックスは、自分たちが撃った砲弾が敵兵や陣地を粉砕する様子を見たことがない。
少し前からドイツ軍は、フランス軍の猛烈な準備砲撃から少しでも逃れるために陣地を縦に深く設け、そのうえ複数に分けていた。真っ先に標的にされやすい砲兵部隊はもっとも後方で、丘を盾にして野砲や重砲が配備されていた。撃つときは丘を越える山なりの弾道で着弾させるのである。
そのため撃った目標がどうなったか、アレックスからは丘があって目視することはできなかった。中隊長の命令で、観測隊による目標地点の情報から計算で導き出された角度に砲身を傾けて撃っているだけだった。
「オレオレ詐欺」八杉将司
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「オレオレ、オレだよ。助けて欲しいんだ。車で事故って賠償しなくちゃいけないんだけど、相手がヤクザでさ……」
「古っ」
タカシは思わずつぶやいて顔をしかめた。今どきそんなアプローチで振り込め詐欺電話をかけてくるやつはいない。オレオレ詐欺の名称で有名になりすぎて、めったに引っかからないのだ。
「振る? そうそう、金を振り込んで……」
「そのフルじゃねえよ、馬鹿」
「イサソ=ユガシアムの新刊」八杉将司
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親はこの世の娯楽が大嫌いだった。
特に幼いぼくが好みそうな娯楽には憎悪を抱いていた。自分の息子を毒する害悪でしかないと考えていたようだ。
だから携帯ゲームはもちろんテレビも家に置かなかった。音楽やラジオを聴けるオーディオもない。映画館など劇場にも一度だって連れて行ってもらえなかった。
漫画も絶対に買ってくれなかった。外で拾ってこっそり持ち帰った漫画雑誌を見つけられたときは、即座に破り捨てられ、児童相談所に通報されてもおかしくないような厳しい折檻を受けた。
小説も同様だった。児童書やライトノベルがぼくの目に入ることを嫌って、本屋に立ち入ることさえ禁じてしまった。学校の図書室に行けばいくらか娯楽作品も読めただろうが、漫画が見つかったときの罰がトラウマのようになっていたので怖くて近寄ることもできなかった。おかげで小説なるものは長らく国語の教科書に載っている話しか読んだことがなかった。
ところが、中学に入学したとき、ネットと繋がった電子書籍リーダーを与えてくれた。
「夢見るチンピラと星くずバター」八杉将司
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昭彦は畳に転がって、古臭いブラウン管のテレビを見ていた。
地デジチューナーを取り付けた小さなテレビの画面には、上下に黒帯のつく狭苦しい横長の映像が映っていた。タレントが流行のイタリアン・レストランのカルボナーラを食べてレポートしていたが、画質が荒すぎて説明がなかったら何を食べているのかよくわからなかった。
部屋のドアがノックされた。昭彦が返事をためらっていたら、乱暴に何度も叩かれた。古い簡易宿泊所の安っぽいドアなので、それだけで蝶番が壊れそうだった。
「俺だ。昭彦だよな。開けろ」
昭彦は太った体を起こしてドアを開けた。背の高い男が顔をしかめて立っていた。
「兄貴、ドアが壊れる」
兄貴こと和志はため息をついた。
「探したぞ。苦労させやがって」
「メーターの修理にきました」八杉将司
(PDFバージョン:me-ta-noshuurini_yasugimasayosi)
友人はぼくのことを「怖いもの知らず」とよく言う。
その言葉だけならぼくが大胆不敵で勇敢な男のように思えるが、そんな格好いい話ではない。誰もが耳をふさぎたくなるほどの怪談を聞かされても、観客が思わず悲鳴を上げるホラー映画を観せられても、ぼくはまったく怖いと感じないのだ。恐怖の感情が乏しいどころかもはや欠落していることに、友人が皮肉で「怖いもの知らず」と言ったに過ぎない。
でも、そんなことを言われる筋合いはなかった。ぼくは別にそれで困ることはないし、他人に迷惑がかかることもない。友人はつまらないだの、張り合いがないだの文句を言うが、知ったことではなかった。
「そんなおまえの性格が社会の役に立つぞ」
バーで一緒に飲んでいた古くからの友人がそう言うので、ぼくは憮然と返した。
「大きなお世話だ」
「まあ、話だけでも聞け。俺が大学の神経科学の研究室にいるのは知っているだろ」
「ああ」
「うちの教授が実験の被験者を探しているんだよ。ただ変わった条件があって、それがおまえならぴったりなんだ」
「ぼくの怖がらない性格がか?」
「そうそう、それでな……」
『人型ロボットを操縦する……株式会社「人機一体」見学会』八杉将司
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人型ロボットを操縦したいと思ったことはないでしょうか。
ぼくの場合、子供のころはマジンガーZをはじめ、ガンダムやザクⅡ、ボトムズのアーマードトルーパー、マクロスのVF-1バルキリーなど巨大ロボットを操縦する自分をよく夢想したものです。
ただ、たとえ夢想であってもレバーやペダルを何の考えもなしにがちゃがちゃやって操縦しているのは、子供ながらどうにも納得できませんでした。だから巨大人型ロボットのコックピットのレイアウトを仕組みも考えながらノートにびっしり描き込んでました。(今も作中に人型ロボットなどを登場させるときはコックピットの設定をなるべく詳細に組むので、なんというか、四十歳過ぎても小学生のときとやってることが変わらない……)
これがやってみると本当に難しい。レバーやペダルをどう操作したら自分の思い通りに人型ロボットが動かせるのか、うまく思いつかないのです。ロボットアニメみたいに走って転がったり、ライフルを振り向きざまに撃ったり、サーベルで敵ロボットと斬り結んだりとあんな器用に四肢を動かす操縦システムは一体どうなっているのか。「人型」であるゆえにかえって操縦が難しく、頭を絞って試行錯誤した記憶があります。
そんな人型ロボットを自在に操る操縦システムを開発している会社があります。
金岡克弥博士が率いる株式会社「人機一体」。
立命館大学びわこ・くさつキャンパス内にあるこの会社の見学会に、日本SF作家クラブとして林譲治会員のお誘いを受け、増田まもる会員とぼくが参加しました。
「縁結び」八杉将司
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真二が会社の忘年会を終えてほろ酔い気分で帰っていると、携帯電話が鳴った。珍しく兄からの着信だった。
『真二か。久しぶり。あのな、今度の正月だけどな、うちに帰ってこいよ。三日に村の神社で例祭をやるんだ。おまえに出てほしいんだよ……え? 三日から仕事だ? 休めよ。休めない? 有給も取らせてくれないブラックなのか、おまえの会社。ちょっと上司の電話番号を教えろ。俺が掛け合ってやる……うん? 取る? そうか。無理だったら言えよ。ああ、じゃあ、帰ってきたら駅に迎えにいってやるから。うん、またな』
電話が切れた。酔いはすっかりさめてしまった。正直、面倒くさいことになったと真二は思った。
実家のある田舎には就職してから何年も帰っていない。仕事のせいではない。実は三日から仕事はじめというのも嘘だった。
なにせ帰省しようとしたら電車やバスを乗り継いで何時間もかかるのだ。暮れのラッシュに巻き込まれたらへとへとに疲れるに違いなかった。そのうえ実家の両親は口うるさく、大掃除やお節の準備も手伝わされるだろうからのんびり過ごすこともできなかった。できれば帰りたくない。一人アパートで寝正月を満喫したかった。
でも、帰省すると伝えてしまった。仕方ない。
それにしてもあの限界集落寸前の田舎の村に、祭礼行事をするような大きな神社があっただろうかと首をひねった。それらしいもので記憶にあるのは、由縁もわからない小さな祠ぐらいだった。
「AI消費社会」八杉将司
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俺は無事に蘇生した。
不治の病に犯され、このままでは余命いくばくもないと知らされた俺は、保険会社の実験的な提案に乗ったのだ。人体の冷凍保存である。未来の治療技術の躍進に命を託した。
そして、目を覚ました。
清潔な病室のベッドで俺を出迎えてくれたのは介護ロボットだった。スマートで柔らかそうな乳白色のボディで、目覚めた俺を自然な女性のボイスで優しくいたわってくれた。
ただそのボディは首元に七色のリボンが取り付けてあったり、頭部には不細工な模様の入った帽子がかぶせてあった。ロボットの洗練された対応はさすが未来と思ったが、そのあたりで台無しになっていた。
でも、些細なことだ。現在の状況をロボットに教えてもらった。
「冥王の樹」八杉将司
(PDFバージョン:meiounoki_yasugimasayosi)
初めてそれが芽生えたのは、南米アマゾン盆地を覆う熱帯雨林の奥深くだった。
誰も踏み入ったことのない密林の大地にひっそり生えた樹木の芽は、人類が知るどのような種類のものでもなかった。
その新種の樹木を発見したのは、ジャングルに住む先住部族の長老の息子であった。部族間の争いに敗れて奥地に追われた先で見つけたのだ。
すでに芽は大きく育ち、高さは数十メートルにも達していた。幹は周辺の樹木より何倍も太く、空を突き刺しにいくかのようにまっすぐ隆々と立っていた。
見たこともない大木に、息子は驚愕した。父である長老は大いに恐れ、ひざまずいた。恐怖のあまり魅入られた長老はここを聖なる地とし、部族はこの地に誰も踏み込ませないことを天命とした。
近づくものは問答無用で襲い掛かり、殺した。そのためほかの部族は怖がって近づかなくなり、観光ガイドやハンターも危険な地域として決して足を踏み入れることはなかった。
異常に気がついたのは、森林の環境保全調査で人工衛星の観測画像を分析していた女性の学者だった。
「ミューズ叢書 特集『妖怪探偵・百目』対談&インタビュー」上田早夕里、八杉将司
書名:ミューズ叢書<1> 特集『妖怪探偵・百目』対談&インタビュー
著者:上田早夕里, 八杉将司
出版社:BCCKS Distribution
出版日:2016年1月20日
ASIN: B01AXOM14K
定価:電子本 400円(税別)
紙本(新書サイズ 130P) 910円(税別)
いつもとは違う形式で本を出版しました。上田の著作権管理を行っている事務所(OFFICE 222)が企画・発刊した「対談&インタビュー」の本です。
昨年11月に完結した「妖怪探偵・百目」シリーズを巡って、SF作家の八杉将司さんと対談を行い、その記録をまとめたものです。五時間に及ぶ長時間の対談から、重要な部分を活字化しました。作品本編と併せて読んで頂くと、いろいろと楽しめます。シリーズを最後まで読んで下さった方々への、ささやかな贈り物です。
巻末には、八杉さんへの単独インタビューも掲載しました。
「追想」八杉将司
(PDFバージョン:tuisou_yasugimasayosi)
国際自然保護連合(ICUN)がレッドリストを作成したら、人類も掲載されることになるだろう。保全状況カテゴリーCR(絶滅寸前)に。
もちろん滅びかけている人類が自然保護なんて気にかけるはずがなく、レッドリストに自分たちを載せる自虐めいた冗談なんてやっている余裕もなかった。
原因は複雑に絡み合った事情が重なっているので簡単には答えられない。というか明確な答えを知っている存在は地球にいなかった。ぼくだってわからない。
一つはっきりとわかっていることは、寝たきりの年老いた父さんが死んだら、この地域一帯から人類はいなくなるということだ。
「まなざしの街11 鎮魂」八杉将司
侠和会の女帝となった理沙との最終対決に挑むコースケ。ボディーガード岡本が撃った銃弾が向かった先は?
裏社会の青春群像を描いてきたハードボイル・シリーズ「まなざしの街」もいよいよ最終回。侠和会の女帝となった理沙とコースケの最終対決は予想を超えた結末を迎える。
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「まなざしの街10 女帝の誘惑」八杉将司
侠和会の首領になった理沙と対面するコースケ。一方、中垣一家保井総長による不穏な動きが始まる。
九十九神が憑りついた理沙は侠和会の首領になり、コースケさえ殺そうとする。中垣一家総長・保井らによるクーデターの動きも本格始動。裏社会の青春を描き続けたハードボイルド・シリーズ「まなざしの街」もいよいよクライマックスへ突入。
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「まなざしの街9 未来からきたもの」八杉将司
ついに対面した侠和会の黒幕・有森冴子は共に夢を実現しようと理沙を誘う。その頃、謎の刑事・日下部からコースケはとんでもない秘密を打ち明けられていた。黒社会の青春群像をハードボイルドに描く「まなざしの街」シリーズ第9話「未来からきたもの」。
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「まなざしの街8 侠和会」八杉将司
コースケと理沙は広域暴力団・侠和会を探るうちに侠和会内部の不穏な動きに巻き込まれていく。
広域暴力団・侠和会は内部で不穏な権力闘争が蠢動していた。コースケは再び命を狙われ、理沙は黒幕・有森冴子の屋敷に乗り込もうとする。裏社会に生きる青春群像をハードボイルドに描く「まなざしの街」シリーズ第8話「侠和会」。
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「まなざしの街7 九十九神」八杉将司
刑事・日下部は、理沙に真の敵は広域暴力団・侠和会の女帝、有森冴子であると告げる。彼女の背後に九十九神が?
中垣一家の襲撃から生き延びた理沙は、暴力団担当の日下部刑事から、広域暴力団・侠和会の女帝、有森冴子の存在を知らされる。不思議な力を操るという彼女の狙いは? 前「九十九神曼荼羅シリーズ」から続く、黒社会を背景に、裏街の青春群像を描くハードボイルド・シリーズ「まなざしの街」第7話は「九十九神」。
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「座敷童子」八杉将司
(PDFバージョン:zasikiwarasi_yasugimasayosi)
中学最後の夏休み、ぼくと弟は親に連れられて久しぶりに田舎に帰省した。
去年の暮れに父方のおばあさんが病気で死んで、その初盆だったのだ。
田舎は山奥にあって、近くに電車も通ってないので二時間に一本しかこない路線バスに長いこと揺られなければならなかった。そうやってたどり着いた村は、寺と八百屋があるぐらいでほかは何もない。連なった山に囲まれてひっそりと田畑が広がる農村でしかなかった。
しかし、親の実家は大きかった。土蔵が建ち並び、黒々とした瓦屋根を葺いた日本家屋はまるで大名屋敷だった。
かつては名高い大地主で、周辺の土地や背後に見える山々までも抱えていたそうだ。
とはいえ昔のことに過ぎない。おじいさんはぼくが生まれる前に他界していて、おばあさんも死んでしまった現在、継いだ伯父さんが一人で細々と農業を営んでいた。
寺の住職による子守唄みたいなお経がようやく終わり、やたらと広い居間で親戚たちにお酒と料理が振舞われていた。
ぼくと弟は適当に稲荷寿司をほおばると、さっさとすぐ横の縁側に出た。持ってきた漫画を読む。ここにくるまでに何度も読んだので飽きていたが、ほかに退屈をしのげる方法がなかった。
とにかく親戚があふれる居間にはいたくなかった。酒臭い空気が充満しているのと、酔った親戚のおじさんにつかまると同じ話を繰り返し聞かされるので苦手だったのだ。
おじさんの話というのは、妖怪の言い伝えだった。
劇場アニメ「楽園追放」ノベライズ 著:八杉将司
「楽園追放 ―Expelled from Paradise― 」ノベライズ
作:虚淵 玄(ニトロプラス)
著:八杉 将司
出版社:早川書房
刊行日:2014/10/17
ISBN:978-4-15-031171-1
価格:670円
内容:
虚淵玄(ニトロプラス)×水島精二 注目のSFアニメ『楽園追放』、11月15日公開電脳世界の捜査官アンジェラは、謎のクラッキングを調査するため地上に降り立つ。話題のアニメを完全ノベライズ。
西暦2400年、地球はナノハザードによって廃墟と化し、人類の多くはデータとなって電脳世界ディーヴァで暮らしていた。
しかしディーヴァが、フロンティアセッターと名乗る謎の存在からハッキングを受ける。
ディーヴァの捜査官アンジェラは、マテリアルボディを身にまとって地球に降り立ち、地上捜査員ディンゴとともにフロンティアセッターの謎を追う。
虚淵玄(ニトロプラス)×水島精二の話題のアニメを完全ノベライズ。(早川書房HP書籍詳細より)
http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/21171.html
劇場アニメ「楽園追放―Expelled from Paradise―」公式HP
http://rakuen-tsuiho.com/
「ドンの遺産」八杉将司
(PDFバージョン:donnnoisann_yasugimasayosi)
中古自動車の販売店から若い家族の乗ったフィアットが出て行く。
販売員のアントニオは、客をにこやかに見送った。
一仕事終えて気持ちよく空を仰ぐ。さわやかな地中海の青空が広がっていた。
事務所に戻ろうとしたそのとき、敷地に車が入ってきた。
黒いBMWのセダン。こんな小さな中古車販売店にくる客が乗るような車ではない。どこかしら不穏な空気を醸し出していた。
アントニオは怯えた表情で周りに誰かいないか探した。ろくでもないやつに違いなかった。相手したくない。しかし、自分以外に接客スタッフは見当たらなかった。
BMWは駐車スペースに入らず、アントニオに向かって滑り込んできた。彼に用があるかのように目の前で停まる。
アントニオが後ずさりしかけると、後部座席のウインドウが降りた。
ロマンスグレーの髪の貫禄ある年寄りが顔を出した。冷徹な目つきがアントニオを見て笑みに変わる。
「相変わらずのようだな、アントニオ」
「……パオロさん」
「乗れ。話がある」
「あの、でも、まだ仕事が……」
「あとで俺に呼ばれたと言えばいい」
確かにそれで店長は黙るに違いなかった。パオロはマフィアの相談役(コンシリエーリ)である長老だった。彼に逆らえばこの街では食べていけない。
アントニオは戸惑いながらもパオロの隣に乗り込んだ。
「記憶を呼び出す機械」八杉将司
(PDFバージョン:kiokuwoyobidasu_yasugimasayosi)
こないだ家の片づけをしていたら、中学生のときの教科書を見つけました。歴史の教科書でした。懐かしいなあとぱらぱらめくると、当時の思い出がどっとあふれ出てきました。
試験前に一夜漬けで暗記した苦しみに満ちた思い出が。ぐはあ。
ぼくはあまり勉強ができなかったのですが、それでも歴史といった社会教科は辛うじて得意の分野でした。理由は明白です。試験に出そうな単語をひたすら覚えればよかったので。黄色の蛍光ペンで試験に出ると思われる単語をいちいち塗って、それを覚えるために単語を無心でノートに繰り返し書き込んで頭に叩き込んでました。無心だったら勉強になってないだろという問題はさておき。
それでなんとか試験は乗り越えられていたのですが、当然ながら試験が終わればほとんど全部忘れてしまいます。それはもうきれいさっぱり。
そんな思い出が教科書を見つけたことで蘇ったのですが、ここでふと「あれ?」と疑問が浮かびました。
あれから二十年以上も過ぎているのに、あのときの自分をしっかり覚えているわけですよ。当時の光景がありありと脳裏に現れてくる。忘れてない。記憶に残っている。一夜漬けで必死に暗記しようとしても翌日にはおぼろげにしか残らなかったのに、そうやって覚えた単語までは思い出せないものの、その行動自体は驚くほどリアルに記憶に残っている。何で?
「まなざしの街6 報復の街・後篇」八杉将司
理沙たちのアジトに殴り込みをかけた中垣一家。報復の連鎖は、ついに激しい銃撃戦に発展し、次々に理沙の仲間たちが倒れていく。
オリジナルのファンタジー&ホラー作品を配信する電子絵ものがたり「九十九神曼荼羅(つくもがみまんだら)シリーズ」。裏街の青春群像を描く「まなざしの街」シリーズ第6話「報復の街・後篇」。
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「まなざしの街5 報復の街・前篇」八杉将司
藤崎組長を殺した中垣一家の縄張り(シマ)が襲われ続けている。恩人を殺された理沙の復讐が始まったのだ。
裏街の青春群像を描き続ける「まなざしの街」シリーズは、広域暴力団も巻き込む暴力の連鎖へ。
オリジナルのファンタジー&ホラー作品を配信する電子絵ものがたり「九十九神曼荼羅(つくもがみまんだら)シリーズ」。裏街の青春群像をハードボイルドに描いた、シリーズ内シリーズ「まなざしの街」第5回。
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「宇宙ステーションの幽霊」八杉将司
(PDFバージョン:uchuusuteishonno_yasugimasayosi)
幽霊というのは、本当にいるんだな。
私はこれまでそんなものを信じていなかった。もういい年をした大人なのだ。ましてや医者であり、科学者でもある。さらに言うならその知識を認められて審査を通った宇宙飛行士だ。
子供のころは人並みに怪談や心霊体験の話を怖がりながらも楽しんでいたが、昔のことにすぎない。大人になってからは死んだ人間が霊になって現れるなど戯言としか思っていなかったし、本当に見たという目撃談は勘違いか錯覚だとしか考えていなかった。
自分が死んで幽霊になってしまうまでは。
「まなざしの街4 邂逅」八杉将司
借金を踏み倒したホステスのマンションで、ヤクザの藤崎は飢えて怯える少女・理沙を拾うが、同時に得体の知れない視線も感じていた。
オリジナルのファンタジー&ホラー作品を配信する電子絵ものがたり「九十九神曼荼羅(つくもがみまんだら)シリーズ」。裏街の青春群像をハードボイルドに描いた、シリーズ内シリーズ「まなざしの街」第4回。
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電子総合文藝誌『月刊アレ!』 Vol.18
(文責:片理誠)
『月刊アレ!』 Vol.18
電子総合文藝誌『月刊アレ!』の2013年2月号は 【日本SF作家クラブ50周年記念小説特集】 と銘打たれたSF大特集となっております。
巻頭対談のゲストとして瀬名秀明さんが登場され、『大空のドロテ』の創作秘話やSFに対する思いを語られている他、日本SF新人賞や小松左京賞の出身者(13名)が「消失!」を共通のテーマに設定して短編SFの競作にチャレンジしております! 各人各様、13通りの「消失SF」の妙味をご堪能くださいませ!
「まなざしの街3 黒星ヒットマン」八杉将司
アルバイトから正式に中垣一家の杯をもらって3日目、ヒロアキは藤崎組と喧嘩沙汰に。トカレフ持って大特訓。痛くて熱い青春が突進する!
オリジナルのファンタジー&ホラー作品を配信する電子絵ものがたり「九十九神曼荼羅(つくもがみまんだら)シリーズ」。裏街の青春群像をハードボイルドに描いた、シリーズ内シリーズ「まなざしの街」第3回。
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「SF Prologue Wave編集部新春のご挨拶」(画・図子慧)
(PDFバージョン:SFPWsinnshunn)
①ペンネーム
②肩書き
③SFPWの編集として新年にあたって一言
④今年のお仕事などの活動予定
⑤SF的アンケート
a.神になって世界のなにかを変えられるとしたら、なにを変えますか?
b.タイムマシンを作るとしたら、どんなルールを作りますか?
c.ペットにしたいクリーチャーは?
⑥一言
「永劫少年」八杉将司
(PDFバージョン:eigoushounenn_yasugimasayosi)
パパはいつも疲れてる。ママはいつも怒ってばっかり。
だから願った。
大人になんかなりたくない。
すると叶ってしまった。