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フカワ タイジ


冨川 泰次(フカワ タイジ)

1961年横浜市出身。山田正紀研究会、古典SF研究会会員。大学時代よりSFファン活動をはじめ、渋谷金曜会などに参加。某ゲーム会社に勤務中は編集者として横田順彌氏、大場惑氏らの小説を担当した。現在はフリーライターとして主に歴史系雑誌、ムックなどに執筆している。

「本を読むように旅に出よう~エンパイアスターとニューヨーク~」冨川泰次


(PDFバージョン:honnwoyomuyouni_fukawataiji


――およそこの巨大なマルチプレックス宇宙には、ブルックリン橋のように、リスと呼ばれる世界も数多く存在する。それが始まりだ。それが終わりだ。――
『エンパイアスター』サミュエル・R・ディレーニ 米村秀雄訳

 多くの人にとって旅は楽しいかめんどうくさいかのどちらかだ。幸い、前者にあたるぼくは気楽に出かけることにしている。その時のスケジュールと予算によって行き先は国内だったり、海外だったりするが何より自分の知らないところにいる、というのが面白くてしかたがない。そんなぼくが メトロポリタン美術館に行こうとニューヨークへの旅を思い立ったのが去年の秋。四大美術館はすべて回りたいと思っているのに、行けたのはナショナル・ギャラリーとルーブル美術館のみ。エルミタージュはともかく、メッツぐらいはと気合いを入れた。なにしろ、アメリカ東海岸は遠い。

 なんとか行けるめどがたったころ、とあるSF小説のタイトルが頭に浮かんだ。それはサミュエル・R・ディレーニの『エンパイアスター』。キーワードは「ブルックリン橋」。そう、マンハッタン南部のイーストリバーにかかる大きな橋だ。この物語のはじめのほうで、主人公の少年、コメット・ジョーは老婆、シャローナからこの小説の肝でもある「マルチプレックス」という概念を教わる。その場所が、故郷の星のブルックリン橋だ。そして彼は地球に行ってブルックリン橋を見るんだと叫ぶことになる。