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「AIと幽霊」大梅 健太郎


(PDFバージョン:aitoyuurei_ooumekenntarou
 セミが鳴くことを忘れてしまうほどの猛暑の中、博士は研究所の機器の冷却に追われていた。
「冷房機器の更新を、昨年の夏のうちにしておくべきだったな」
 ホームセンターで購入してきた業務用の巨大な送風機を設置しながら、博士はぼやいた。あまりの猛暑のせいで、エアコンはどこのショップでも品切れ状態となり、最速の納品でも半月後と言われてしまっていた。
「今年の夏の高温は、まさに異常です」研究室の真ん中に据え付けられた、ドラム缶のような円柱形のロボットがため息をついた。「いかに優秀な私といえど、昨年の夏の時点で予測することはできませんでした」
「SOWAKAはまだ昨年の夏には存在してなかっただろ」
「だから、できなかったと言ってます」
 ウィーンと機械音が鳴り、ぺろりと舌が出た。ため息機能と、テヘペロ機能。こんなものを人工知能SOWAKAの外装に付ける時間と金銭的余裕があったのならば、昨年のうちに最新式のエアコンを購入しておくべきだったと、博士はため息をついた。
「この暑さはどれくらい続きそうなんだ」

「どっちもどっち」大梅 健太郎


(PDFバージョン:dottimodotti_ooumekenntarou
 ちゃぷちゃぷという、水の音がする。目を開けると、僕は水の張られた透明な容器の中にいた。小さな部屋に置かれたガラス張りの棺桶、といった感じだ。小部屋にはぼんやりとした照明がともっているが、暗い。自分の身体を見て、丸裸であることに気がついた。
 棺桶の天井を押してみるが、びくともしない。コンコン叩いていると、小部屋の照明が明るくなり、女性の声が聞こえた。
「無事に、起動しましたか」

「愛の行方」大梅 健太郎


(PDFバージョン:ainoyukue_ooumekenntarou
 少年は、配られたばかりのカードと説明プリントを眺めながら、隣の席の友人に言った。
「プリントの内容が意味不明すぎて、結局このカードで何をすればいいのかが、ちっともわからん」
「一昨年はロボットを作ったって、兄ちゃんから聞いたんだけどな」
 不服そうに、ペンでコツコツと机を叩く。友人の二歳年上の兄は、中学校の入部したばかりの電気工作部で、楽しい毎日を送っているらしい。
「はい、みんなこっち集中」
 教卓に立った女の先生が、ぱちんと両手を打った。
「これからみんなには、プログラミングをしてもらいます」
 教室に、期待に満ちた声と不安げなため息が交錯する。
「先生、パソコンやスマホも無しにプログラミングなんてできません」
 クラスで一番勉強のできる、生意気メガネが文句を言った。
「そのとおりだね」先生は、後ろに束ねた長い髪をひと撫でして言った。「でも、プログラミングにそんな機械は必要ありません」
 なんだそれ、と友人がつぶやいた。少年も同じことを思った。この先生は理科や算数を教えるのがヘタクソだ。きっとブンケイに違いない、と友人と少年は、よく陰口を叩いていた。
「みんなの手元に配ったカードには、命令カードと動作カードがあります。これらを組み合わせるだけで、プログラミングすることができちゃうんですよ」
 得意げに先生はカードを突き出した。
「できちゃうんですかぁ」
 友人は、気の抜けた声で言った。
「これで、できちゃう、の?」
 少年はあきれながらも、もう一度プリントを読んだ。
「たとえば、気温が十五℃を下回ったとき、センサーがそれを感知して、便座のヒーターのスイッチが入るような指示を考えて、カードを組み合わせてみてください」
 少年は先生の言うとおり、便座のスイッチについて、カードを並べてみた。
「さらに、深夜の節電を考えて、どれくらい使用されなければヒーターをオフにすればよいかを検討して、指示を作ってみてください」
 言われるまま、流れを組んでいく。
「ちょっと面白くなってきた」
「そうかぁ?」
 少年の言葉に、友人は愛想無く答えた。
「はい。今日はここまで」
 先生の言葉で、少年はカードの配置をやめた。
「これで、みんなが思う最高の全自動トイレについてのプログラミングが完成しました」
 少年はまんざらでもない気分になった。我ながら良い出来だと思う。
「みなさんが大人になる頃には、人工知能が著しい発展を遂げているはずです。さまざまな仕事をコンピュータが人間の代わりにやってくれることになるでしょう」
 友人が、フンっと鼻を鳴らした。
「ここでみんなに伝えたいのは、どれだけすごいプログラムも、人間が作ったものであるということです」
 そういうもんかな、と少年は思った。


「その先生の言うとおりになってるじゃないですか」
 青年の向かいに置かれた、円筒型をした銀色の機械から声がした。
「確かに、ね」

「収穫の日」大梅 健太郎


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 ある小山の中腹に、真っ白い直方体の外見をしたA研究所があった。その一室で綺麗に洗濯されたばかりの白衣をひるがえし、博士が言った。
「ついに、新しい発明を完成させたぞ」
 研究所の床拭き掃除をしたばかりで薄汚れた白衣に身を包んだ助手は、博士が手にもっている白熱電球のお化けのようなものを見て、ため息をついた。いつも博士は変なものを発明しては、助手に迷惑をかける。ついさっきも、金魚を空に飛ばす機械が故障し、あたりにぶちまけられた水槽の水を拭いていたところだった。
「また、わけのわからんもんをつくったのですか」
 ふふん、と博士はわざとらしく笑った。
「世界の園芸業界に新風を巻き起こす、画期的発明と言えるかもだぞ」
「金魚が空を飛んでも、観賞魚業界に新風は巻き起こりませんでしたよ」
 助手の言葉には返事もせずに、ちゃらららん、と博士は効果音を口ずさんだ。
「植物成長促進ライト!」
 スイカ一玉はありそうな電球を、博士は助手に向かって突き出した。むしろその形状が発明と言っても差し支えなさそうな感じだ。
「その馬鹿デカい、絶滅危惧種と言っていい白熱電球がですか?」

「歓迎の作法」大梅 健太郎


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 ある山奥の電波天文台で、今まで観測されたことのない電波が受信された。
「ついに宇宙人からの電波を受信したかもしれません」
 観測技師は、興奮気味に天文台長へと報告した。技師が手にしたデータには、射手座の方向に周期的に電波を発する物体が存在することが、はっきりと示されている。
 台長はそのデータに誤りがないことを確認し、ため息をついた。
「まずは、関係機関に報告だ。君は、このデータが自然現象とは関係のない人工的なものであることを証明するために、観測を続けるように」
 台長の顔が浮かないことに気がついた技師は、恐る恐る尋ねた。
「台長は、嬉しくないのですか」
「そりゃ嬉しいさ。だが、このデータは地球外の知的生命の存在を示しているだけではない」
「ええ。電波の発信源は高速で移動しているので、宇宙船の可能性があります」
「宇宙船を持つような知的生命だぞ。そんな高度な科学力をもった生物が、地球に来たらどうなる」

「ここにいた」大梅 健太郎


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「そういやお前、行方不明者リストに名を連ねてたぞ」
 寺井翔(てらいかける)の言葉に、動橋誠(どうはしまこと)はビールジョッキをあおる手をとめた。一瞬、居酒屋の喧騒が遠くなる。
「行方不明者リスト?」
「ああ、行方不明者リスト」
 物騒な言葉だ。二人分の仕事の愚痴を詰めこんで重くなった動橋の胃が、きゅっと締め付けられる。
「俺は今、ここにいるよな?」
「でも、行方不明みたいだぞ」
 寺井は嬉しそうに笑いながら、最後に残った枝豆のサヤをつまみ上げた。

「ねがいがひとつ」大梅健太郎


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 商店街入口近くにある小さな公園に、目的の「願掛け地蔵」のほこらがあった。ほこらは腰の高さほどのコンクリート製で、横には石の水鉢が据えつけられている。
 その前にかがむと、中の地蔵が見えた。柔和な表情をしているせいだろうか。すっと、目が合ったような気がする。
 風体は、いかにもお地蔵様といった感じだ。しかし、頭にかぶった真っ赤な頭巾が、地蔵の雰囲気には似つかわしくないベレー帽のような形状をしている。
「こりゃまた、お洒落な地蔵だな」
 僕はつい、目の前の地蔵に向かって呟いた。帽子と同じ赤色のよだれかけには、艶やかな光沢がある。地蔵そのものや土台の古ぼけた感じと、これらの衣装やほこらの新しさはかなりミスマッチに思えた。
「で、どうすればいいんだ」
 あたりを見回すと、地蔵の背後に『願掛け地蔵の参り方』と書かれた看板があった。清らかな水を頭に三回かけ、三回願い事を唱える。そうすれば、願いが叶うらしい。

「鏡の奥に」大梅 健太郎


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 玄関で引っ越し業者が、ありがとうございましたと言って頭を下げた。横山もつられて頭を下げる。閉まるドアの音に重なるように、ため息が漏れた。
「夜までには、ある程度荷ほどきしなきゃな」
 引っ越してきたばかりの1Kの床は、積まれた荷物で足の踏み場もない。横山は、最低限の生活に必要な物の入った段ボール箱を探した。
 洗面台と書かれた箱から、歯ブラシと歯磨き粉、コップ、そして電気ひげ剃りを取り出す。それらを手に、洗面所に立った。一人暮らし用の部屋にしては、鏡が大きい。歯磨きセットを蛇口の右横に、電気ひげ剃りを左横に置く。ふと、妙な視線に気がついた。鏡の中からだ。
 のぞきこむと、背後の洗面所の隅に、頭から血を流した若い女が座っていた。振り返っても、そこには誰もいない。もう一度鏡に視線を戻すと、女と目が合ってしまった。つい凝視してしまう。ぼんやりとしていた女の表情に、色がさした。
 しまった。
 そう思ったときには、もう遅かった。

オオウメ ケンタロウ


大梅健太郎(オオウメ ケンタロウ)
1979年、大阪府生まれ。会社員。

小説同人誌「mon」同人。
『電子記憶媒体』で第一回日経「星新一賞」入選。

「電子記憶媒体」大梅健太郎


(PDFバージョン:dennsikiokubaitai_ooumekenntarou
 息苦しい。
 僕は腹部に重みを感じ、ゆっくりと目を開けた。季節は秋なので、暑さで寝苦しいわけではない。電気を消した部屋の天井は、窓からの夜明かりに照らされている。視界をさえぎるように、黒い影があった。
 深く息をつき、腕を動かしてみる。予想はしていたが、ぴくりともしない。身もよじれない。金縛りだ。
 壁にかかる時計の針は午前二時過ぎを指していた。
 腹部に正座している幽霊を観察してみる。淡い輪郭が部屋の暗闇に溶けそうだが、判別はつく。短髪で、男だ。
「にし、わき」
 名前を呼ばれた気がした。
 はて。どこかで見たことがある気がする。少し考えて、はたと思い至った。
「い、ち、は、ら」
 声を絞り出すと、幽霊は僕の顔をのぞきこんできた。そして、今度ははっきりと聞き取れる声で言った。
「本当に、見えるのか」