(PDFバージョン:ginngamihikousennnotabi_ootatadasi)

モトキは準備を整えていた。今日は眠いからと両親に言って早めに自分の部屋に引き籠もり、すぐにパジャマを着替えた。隠しておいたリュックには水筒とスニーカーとスケッチブック。もちろんクレヨンも入っている。
モトキの部屋は二階にある。窓を開けベランダに出ると、手摺りがうっすらと青い光に濡れていた。
顔を上げると、まんまるな月が地上に光を注いでいる。四月の夜風は、まだ寒かった。
空を見上げたまま、モトキは待つ。
本当に来るだろうか。約束、守ってくれるだろうか。
不安と期待がない交ぜになった気持ちで五分、十五分、そして一時間。実際は数分だったかもしれない。でもモトキには長く感じられた。
やっぱり来ないのか、と少し落胆しかけたとき、それが見えた。