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「古椿姫」待兼音二郎

(紹介文PDFバージョン:furutubakihimeshoukai_okawadaakira
 『エクリプス・フェイズ』日本語版翻訳チームのメンバー、待兼音二郎の小説をお送りしたい。
 ちょうど、今月の「『Eclipse Phase』情報」に紹介のあるシナリオ「スペース闇金道――情報難民をさいなむドラッグ」の作者でもある。
 SF Prologue Waveの読者のなかには、『ウォーハンマーRPG』の翻訳を手がけ、紹介文を寄稿したことを記憶されている向きもあるだろう。
 あるいは、いまだルールブックが翻訳されていなかった時期に、ファンジン『Eclipse Phase Introduction Book for 2011 Japanese』に翻訳「特異点への突入」を寄せていたことを、ご存知の方もいるかもしれない。いまは「SF Prologue Wave」に採録されている。
 待兼は、翻訳者として長きにわたるキャリアを誇るのみならず、ライターとしても多彩な活躍を見せている。

 その小説「古椿姫」は、明治や近世の擬古文に通じた待兼音二郎の資質が遺憾なく発揮されているが、それだけではない。
 あのケン・リュウが書いた『エクリプス・フェイズ』小説「しろたえの袖(スリーヴ)――拝啓、紀貫之どの」を訳した経験が、明らかに投影されている。
 また、「TH(トーキング・ヘッズ叢書)」No.73に掲載された批評「物言わぬ樹木にもしも人魂が宿ったら――植物変身譚の考察」は、本作の「理論編」と言えるかもしれない。(岡和田晃)




(PDFバージョン:furutubakihime_matikaneotojirou
 栗色の髪をうしろで結わい、大輪の白椿をそこに髪留めのように挿した女。渦巻きのような花弁の重なりがほのかな紅色をにじませているばかりか、肉厚な緑の葉までついていて、天然美が匂わんばかり。となればこれは正真正銘の椿の花なのか、それとも精巧なイミテーションなのかと、赤鬚の男は心動かされ、ささくれた指を伸ばして確かめようとする。
 するりとその指から逃れた女。スカートの裾をつまんでゆるやかな螺旋をえがく大階段を中途までのぼり、足を止めては男をふり返る。その階段を履き古したブーツで一歩一歩踏みしめてゆく男。少し逃れてはふり返り、また少しのぼってはふり返りする女。そうしてふたりは一定の間合いを保ちながら半螺旋の階段をのぼり切り、二階の廊下に歩を進める。
 廊下に並んだ扉のひとつ。ここにも大輪の白椿が飾られている。女はとうとう観念したのか、その扉の前で足を止めてうなだれる。そこに立ち塞がる赤鬚の男。古い映画のガンマンのようにスローチハットを目深にかぶったまま、相手より頭ひとつ高い背をかがめて両手をさしのべ、火星の砂塵に荒れた両手で、女の白い頬をすっぽりつつむ。その手のひらに伝わる女の震えと肌の温もり。栗色の髪の女は面をあげ、すがるような眼差しを男に向ける。赤鬚の男、こうして遊女を金で購うのはもはや何度目ともわからぬほどだが、これほどの上玉、それも夜の商売にまだ慣れないのか、うぶさを一挙一動に漂わせる女に巡り逢えたのはかつてないほどで、やはり内心ぐっとこみ上げてくるものがある。男が帽子のつばの奥で無表情を崩さずにいるうちに、女は後ろ手にドアをあけ、男の手を握って室内に招じ入れた。

「ウォーハンマーRPG」待兼音二郎





酸鼻と迷妄の阿鼻叫喚世界で、泥土にきらめく黄金をつかみ取れ
――『ウォーハンマーRPG』

待兼音二郎

「21世紀の精神異常者スキッツォイド・マン」――プログレッシヴ・ロック愛好家が長年慣れ親しんだキング・クリムゾンの代表作に、こんな奇天烈なタイトル改変がなされたのはいったいいつのことだろう? 精神がいびつにねじくれた男の心象風景を楽器で描き出したかのようなあの曲の原題に込められた意図を日本のリスナーに伝えるべく工夫された邦題をなかったことにし、聞き覚えのないカタカナ語に塗り替えることに何の意味があるのか? いったい何に怯えて、かくも過剰な表現規制をするのか?

「特異点への突入」待兼音二郎

(紹介文PDFバージョン:tokuitennshoukai_okawadaakira
 このフルカラーPDFファイルは小説を読む際の手助けとしてもらうために、公式設定を抜粋して翻訳し、再編集した設定集である。このPDFファイルを読めば、『エクリプス・フェイズ』の基本的なコンセプトや背景設定をまとまった情報として知ることができるだろう。きっと、胸がワクワクしてくるはずだ。

 内訳は『エクリプス・フェイズ』の「クイックスタート・ルール」から「特異点への突入」「『エクリプス・フェイズ』の世界」「『エクリプス・フェイズ』の年表」「ファイアウォールへようこそ」「これだけは頭に叩きこんでおけ」を翻訳したもの。いかにもゲーム的な数値部分は含まれていないので、ゲームに苦手意識がある方も気軽に読んでみてほしい。レイアウトも、基本的に原書をイメージしたものとなっている。

 本訳稿の初出は2011年6月に限定発行されたファンジン『Eclipse Phase Introduction Book for 2011 Japanese』(Analog Game Studies & 戦鎚傭兵団制作)に収録されたものである。ファンジン発行から数ヶ月後に『エクリプス・フェイズ』日本語版の出版が内定し、翻訳を担当した待兼音二郎は、そのまま『エクリプス・フェイズ』翻訳チームに加入することとなった。
 今回「SF Prologue Wave」に再掲されるにあたり、翻訳者の待兼音二郎の手によって訳語や訳文は全面的に刷新され、内容も「ファイアウォール」という組織についての設定部分が増補された豪華仕様となっている。どうぞ、お愉しみいただきたい。(岡和田晃)




(PDFバージョン:tokuitennhenototunyuu_machikaneottojiro

マチカネ オトジロウ


待兼音二郎(まちかねおとじろう)
 1968年生まれ。戦鎚傭兵団(ライター/翻訳者集団)に所属し、SF-TRPG『エクリプス・フェイズ』翻訳チームにも参加。翻訳書に『ドラッケンフェルズ』、『ボーン・サンクション』などがあり、「Role&Roll」誌に「戦鎚傭兵団の中世“非”幻想事典」を連載中。また、ダイヤモンド・オンラインなどでもコラムを執筆している。