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「太郎」春名功武


(PDFバージョン:tarou_harunaisamu
 昔々、ある所にお爺さんとお婆さんがいました。お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。川辺で洗濯をしていると川上から、どんぶらこ、どんぶらこ、と大きな大きな桃が流れて来ました。お婆さんはそれを家に持ち帰り、お爺さんと一緒に桃を割ると、中から「オギャーオギャーオギャー」と元気な赤ちゃんが出てきました。そして、2人はその赤ちゃんを『桃太郎』と名づけて育てる事にしたのです。
 一方。東北の山あいの村でも、お婆さんが川で洗濯をしていると川上から、どんぶらこ、どんぶらこ、と大きな大きなスイカが流れて来ました。お婆さんはそれを家に持ち帰り、お爺さんと一緒にスイカを割ると、中から赤ちゃんが出てきました。そして、その赤ちゃんを『スイカ太郎』と名づけて育てる事にしたのです。
 美しい湖がある小さな村でも、お婆さんが川で洗濯をしていると、どんぶらこ、どんぶらこ、と大きな大きなバナナが流れて来ました。お婆さんはそれを持ち帰り、お爺さんと共にバナナを剥くと、中から赤ちゃんが出てきました。そして、その赤ちゃんを『バナナ太郎』と名づけて育てる事にしたのです。
 その年はこのような異常現象が全国各地の村で起こり、果物から生まれた赤ちゃんの豊作となったのです。不思議な事に川から流れてきた果物は全て違う種類で、2つとして同じ物はありませんでした。見た目は人間とほとんど変わりはありませんが、大きくなってからも彼らの身体からはそれぞれの果物の匂いがしたそうです。

「浮気」春名功武


(PDFバージョン:uwaki_harunaisamu
 いい加減にしてくれ。私は目の前の光景に、うんざりした気分になった。予定より早く出張先から戻ってみれば、またこの仕打ちか――
 寝室のベッドで女房とあいつが裸で寄り添い寝ている。どう見ても、男女がコトを終えた後としか思えないありさまだ。きつく鼻をつく生々しい異臭が、絡み合う2人を容易に想像させる。何度も頭を振り、脳ミソから追い出そうとするが、叶わなかった。
 私の留守をいいことに男を連れ込むなんて、許せるわけがない。腕の中で眠る女房の顔は、無邪気な子猫のようで、私に見せるどの顔とも違っていた。それがまた腹立たしかった。
 もう何度目になるだろう。私は女房を叩き起こして怒鳴りつけた。しかし相変わらず反省の色は見えない。眠りを遮られた事への不満からか、ふてぶてしい顔で睨みつけてきた。そして、若かった頃からするとすっかり変わってしまった、丸い身体にガウンを羽織り、タバコをくゆらし始める。動じることなく堂々としているのは、女房には、浮気をしているという実感がないからなのだろう。それでも女房の横にいるこいつは、生身の人間の男だ。この男を選んだ事自体が、今の私への否定に他ならない。

「クリスマスプレゼント」春名功武


(PDFバージョン:christmaspresent_harunaisamu
 12月最初の日曜日。3歳の息子はオモチャ屋の広告に魅入っていた。クリスマス前になると、どこの家庭でもよく見られる光景だろう。そしてその日、私宛に一通の妙な手紙が届いた。封筒に差出人は書かれておらず、代わりに西洋柊とベルの模様が入っていた。どうせどこかのクリスマスセールの案内状だろうと安易に考えていた。ビリビリと封を破ると、便箋と千円札が3枚入っていた。新手のクリスマス戦略なのかとも思ったが、どうも様子が違うようだ。便箋は2枚にも渡り、達筆な文字で丁寧に書かれてあった。
 私はゆっくりと読み始めた。手紙を読み終えると、すぐさまライターで火をつけて燃やした。燃えゆく炎を見詰めながら、ふと幼い日のことを思い出した。

ハルナ イサム


春名功武(はるな いさむ)

1977年、兵庫生まれ。2000年大阪シナリオ学校演芸放送台本科卒業。第7回テレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞優秀賞受賞。それを機に脚本家としてデビューを果たす。その後、フジテレビ『世にも奇妙な物語』等の脚本を執筆。2014年3月、第1回日経「星新一賞」優秀賞(JBCCホールディングス賞)受賞を経て、小説家としてデビューする。

「計画殺兎」春名功武


(PDFバージョン:keikakusatto_harunaisamu
 うさぎは純白な毛並みで、つぶらな瞳がとてもチャーミングであった。
 両親は娘にペットを通して命の大切さを学んで欲しいと思いうさぎを買い与えた。
 娘はたいそう喜んだ。うさぎを抱きかかえて、頬ずりする。娘が最近気に入っている愛情表現であった。うさぎが来てから、家庭がパッと明るくなったように感じる。両親はうさぎを飼って正解だったと思っていた。
 不意に母親が、娘にこんな事を言った。
「うさぎはね、寂しいと死んじゃうんだよ」
「大丈夫。ワタシずっと一緒にいるから」