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「冷やおろしマーダーズ」朱鷺田祐介

(紹介文PDFバージョン:hiyaorosimurdersshoukai_okawadaakira
 『エクリプス・フェイズ』日本語版翻訳監修者の朱鷺田祐介による新作「冷やおろしマーダーズ」をお届けしたい。

 これは朱鷺田祐介のユーモアSF「マーダーズ」シリーズの最新作である。

 作中では、「ミートハブ・マーダーズ あるいは、肉でいっぱいの宇宙(そら)」、「ウィップラッシュ・マーダーズ 殺人鬼はどこにいる?」、「10年目の贈り物」、「スカイ・アーク・マーダーズ」、「ドロップレット・マーダーズ」といった過去作とのリンクが示唆されている。
 ただ、本作の姉妹編というのは、むしろ「品川蕎麦マーダーズ」ではないか。同作では蕎麦が扱われるが、今作では小麦を用いたうどんが中心的なモチーフになっているからだ。

 一般に、SF的なガジェットをハードルが高いと思われる方も多いと聞くが、本作はむしろグルメ要素が強いので、そういった方に「軽いお話もあるよ」と紹介する役に立つかもしれない。朱鷺田祐介は今年4月、横浜で開催された「はるこん2017」でゲスト・オブ・オナーのケン・リュウに、「グルメSF」についての質問をするくらいには、このテーマにこだわりがあるようだ。

 朱鷺田祐介も参加した「はるこん」でのケン・リュウのインタビューに関しては、「ポストヒューマニズム、紀貫之、ロールプレイングゲーム」というタイトルで「ナイトランド・クォータリー Vol.09 悪夢と幻影」にレポートが載っている。グルメSFについてのやりとりは紙幅の都合で割愛せざるをえなかったが、ケン・リュウも大いに興味があるということだった。(岡和田晃)




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 ここから語る物語の舞台は、大破壊後十年の太陽系である。
 人類が宇宙に足を踏み出し、約二百年が経過している。その間に、人類は超人類(トランスヒューマン)に進化した。
〈大破壊後(AF)〉10年、特異点を突破した戦略情報統合AIネットワーク(TITAN)群、通称ティターンズが人類の90%を死に至らしめ、地球を破壊し尽したあの戦いから10年が経過した。トランスヒューマンの故郷「地球」は、ティターンズが放ったあらゆる大量破壊兵器、核兵器、生物兵器、化学兵器およびナノスウォーム、戦闘マシンの群れによって、もはやかつての青い地球はおぞましき赤と灰色が入り混じった泥沼と化している。
 その結果、人類のゆりかごは失われた。
 人類の誇った食文化も同時に。


 始まりは爆発だった。
 天王星周辺を浮遊する大型移民船「シュタイナー」号の中央近くにある、ジョン・ダンビル・α4の部屋が吹き飛んだ。
 爆薬の持ち込みはなかった。
 万能合成器で化学爆薬を調合した形跡はなかった。
 だが、突然、部屋が内側から吹き飛び、ダンビルは死亡し、その周辺一帯が爆発で生じた粉塵と歪みで居住不可能となった。
 その爆風でめちゃくちゃになった通廊に立ち、宇宙冒険家のランディ・シーゲルは憤懣やるかたない感じで愚痴った。
「なぜ、俺が呼ばれる?」
「知り合いだろ?」
 答えたのは、この船のセキュリティ・マネージャーを務めるアリシア・キイェルド・オウィディウス・鈴木・ストームトルーパー。

「黒星僧院にて」朱鷺田祐介

(紹介文PDFバージョン:annkokusouinnniteshoukai_okawadaakira
 朱鷺田祐介の新作「黒星僧院にて」をお届けする。この作品は、二つの『エクリプス・フェイズ』ゲーム・シナリオとリンクするものとして書かれている。
 まずは「Role&Roll」Vol.151に掲載されている「タイタンのゲーム・プレイヤーたち」(著:岡和田晃、監修:朱鷺田祐介、待兼音二郎)。その名の通り、タイタン連邦が舞台であるこのシナリオは、チェスボクシングが重要なモチーフとなっている。同時に、ドイツのボードゲームをモチーフにした新しいスポーツが開発されていると、公式設定(未訳サプリメント『Rimward』)に記述されているのだ。その流れで、オリジナルのユニークのスポーツが、この小説には色々と出て来る。
 続いて、「Role&Roll」Vol.152に掲載されている入門シナリオ「滅びの星に声の網」(著:朱鷺田祐介、監修:岡和田晃、待兼音二郎)、今号の「SF Prologue Wave」が公開される頃には、全国の書店・ゲームショップに並んでいると思うが、こちらは太陽系外惑星のニルヴァーナ、モラヴェクが舞台。黒星僧院も登場する。そもそも黒星僧院も、公式設定(未訳サプリメント『Gatecrashing』)に掲載なのだが、あわせて読めば、背景への理解が増すだろう。

 朱鷺田祐介は、待兼音二郎・岡和田晃とともに、二〇一七年四月二二日、二三日の「はるこん2017」で「新世紀のポストヒューマンRPG『エクリプス・フェイズ』を遊ぼう!」を開催した。企画内ではゲスト・オブ・オナーであるケン・リュウとのトーク・セッションも実現した。岡和田晃によるレポートが、今月後半に発売予定の「ナイトランド・クォータリー」Vol.09に掲載される。(岡和田晃)




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 曼荼羅の中心でパルサーが脈動していた。
 電波星とも言う。自重で崩壊し、爆縮する中性子星へと向かう過程で、もはや脈動する電磁パルスを発するだけの暗黒の恒星だ。
「PSR B1976 +10 A」
 脳内でミューズが補足する。
「このパルサーにはPSR B1976 +10Aという番号がついています」と、黒い袈裟をまとった合成義体(シンセモーフ)の僧侶が無重力で浮かんだまま、座禅の姿勢で微笑む。背後の透過スクリーンにはパルサーが映っている。「ワームホール・ゲートを抜け、辿り着いた無数の太陽系外惑星の中で唯一、地球からの距離と方角が解明されている。宇宙の灯台と言ってもいい。だから、我々はこのニルヴァーナに僧院を築き、死せる暗黒星の影に一体化する思想の中で瞑想することを選んだのだ」
 ニルヴァーナはこのパルサーを巡る惑星軌道に置かれたクラスター型のハビタットだ/クラスター:相互接続モジュールで構成される微重力ハビタット/簡単に言えば、無重力だから出来る雑多に接続されたモジュールの集合体に過ぎない。

「ドロップレット・マーダーズ」朱鷺田祐介

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 『エクリプス・フェイズ』日本語版翻訳監修者の朱鷺田祐介による新作『エクリプス・フェイズ』小説、「ドロップレット・マーダーズ」をお届けしたい。

 朱鷺田佑介のユーモアSF、〈ランディ・シーゲル〉シリーズは、これまで5作発表されている。「ミートハブ・マーダーズ あるいは、肉でいっぱいの宇宙(そら)」、「ウィップラッシュ・マーダーズ 殺人鬼はどこにいる?」、「リメンブランス・マーダーズ ~最後の酒杯~」、「品川蕎麦殺人事件(シナガワ・ソバ・マーダーズ)」、「スカイ・アーク・マーダーズ」。

 これらの作品がお気に召した方は、宮内悠介『スペース金融道』やダグラス・アダムズ『銀河ヒッチハイクガイド』といったユーモアSFに進んでみるのも一興だ。

 今作の舞台は海洋惑星ドロップレット。太陽系外に位置する惑星なのだけど、環境的には居住可能で、現住生物や古代の遺跡、失われた文明も存在しており、冒険の舞台にピッタリ。
 実際、本作が公開されるのとちょうど同時期に、「Role&Roll」Vol.150には、朱鷺田祐介が執筆した「海洋惑星ドロップレットの危機」という『エクリプス・フェイズ』の入門用ゲーム・シナリオが掲載される。
 それにあわせ、「Role&Roll」公式サイトのサポート・ページには、サポート・マテリアルとして海洋惑星ドロップレットの設定の抄訳も公開される予定なので、あわせてアクセスしてほしい。

 朱鷺田祐介は、日本SF大賞のスポンサーもつとめる書評SNS「シミルボン」に参加、「トランスヒューマンSF-TRPG『エクリプス・フェイズ』を楽しむためのブックガイド」を寄稿している。(岡和田晃)




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 濃厚な潮の香り。海から響く波の音がもはや大太鼓の鼓動をすぐそばで聞いているように体に直接、響いてくる。
 ああ、海だ。
 もはや、地球で聞くことも出来ない波の音。
 太陽系外惑星ドロップレットならでは風情である。
 タイタン連邦出身の宇宙探検家ランディ・シーゲルが、異星の浜辺に近い建物の屋上で波音の衝撃に体を揺らされながら座っていると、この家の主人がやってきた。シンプルな黒のスーツと真っ白なボソム・シャツを来たジョン・ダンビルは、伊万里の大皿に盛った白身の刺し身をテーブルに置く。宇宙をかける美食家らしい登場だ。彼はさらに、背後についてきた従僕ドローンから、漆塗りの箸、小皿、陶器の醤油さしに続いて、日本酒(サケ)の入った銚子と盃を取る。
「刺し身?」
 と、ランディが問いかけると、ダンビルは微笑み返す。
「今は亡き、日本列島で愛された食の極みだ」

「スカイ・アーク・マーダーズ」朱鷺田祐介

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 『エクリプス・フェイズ』日本語版翻訳監修者の朱鷺田祐介による新作「スカイ・アーク・マーダーズ」をお届けしよう。

 今回の「SF Prologue Wave」が更新される頃には、アナログゲーム総合情報書籍「Role&Roll」Vol.144が発売されていることだろう。そこには本作と舞台を共有するゲーム・シナリオ「スカイ・アーク・クライシス」が掲載されている。もちろん、朱鷺田祐介の筆になる作品だ。
 映画『ジュラシック・パーク』や、デジタルゲームの『ディノクライシス』を彷彿させるシナリオとなっているので、ぜひ遊んでみてほしい。

 宇宙もののSF-RPGは大きく分けて、太陽系を舞台にする作品と銀河系を舞台にする作品がある。『エクリプス・フェイズ』は前者に相当するが、ワームホールである「パンドラ・ゲート」を利用すれば、太陽系を何百光年も離れた銀河の彼方にまで旅をすることが可能になる。

 このパンドラ・ゲートについては、未訳サプリメント『Gatecrashing』に詳述されているが、「Role&Roll」Vol.144では、同書からスカイ・アークの設定に該当する箇所を抄訳しているので、わざわざ英語の本を読まずとも太陽系外惑星での冒険を堪能することができるようになっている。活用していただきたい。

 朱鷺田祐介は、書評サイト「シミルボン」で『エクリプス・フェイズ』に関連したブックガイドを書いている。こちらも参考になるかもしれない。(岡和田晃)




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「美味とは環境だよ」
 美食家のジョン・ダンビルは浜辺のコテージのテラスで言った。彼の前には、あまり見慣れない野菜を刻んだ小皿と背の低いグラスに入った透明な酒があった。
「夏のスカイ・アーク、赤道直下のジュラシックの浜辺は、気温や湿度、風の向きから言って、かつての那覇に近い」
 ランディ・シーゲルの頭の中で、支援AI(ミューズ)が、那覇は日本列島の南端、沖縄諸島の地名だと捕捉し、脳内にマップと経験記録(XP)を展開する。
「そんな日は、塩もみしたゴーヤに鰹節と醤油を振って、泡盛をオンザロックで飲むのがいい」
 ランディの前にも同じものが置かれる。少し苦味のあるゴーヤは歯ごたえがある。それをシャキシャキと噛みながら、沖縄の蒸留酒である泡盛をすする。冷たくスッキリした強い酒。海辺にも関わらず、からりとしたジュラシックの風が心地よい。
「琉球の人なら、三線(サンシン)を奏でて手踊りでもするところだ」

「10年目の贈り物」朱鷺田祐介

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 『エクリプス・フェイズ』日本語版翻訳監修者の朱鷺田祐介による新作「10年目の贈り物」をお届けしよう。

 アナログゲーム総合情報書籍「Role&Roll」Vol.140で『エクリプス・フェイズ』特集が組まれる。あたかも、それと連動したかのように公開となった本作は、さながら朱鷺田祐介がこれまで書いてきた『エクリプス・フェイズ』小説の、ひとまずの集大成のような作品である。

 ランディ・シーゲル、メアリー・I、そしてジョン・ダンビル。お馴染みの彼らが登場するのだが、彼らの冒険が言及される仕掛けには、ニヤリとさせられること必至だろう。
 そして、10年前に起こった惨劇……そう“大破壊(ザ・フォール)”。そこで何があったのか。それが10年後の“現在”に、どのような影響を与えたのか。
 ぜひ基本ルールブックの「運に見放された宇宙における、人々の歴史」とあわせて読み、設定を活かす参考にしてみてほしい。

 また、木星共和国の艦隊の設定等は、サプリメント『Rimward』(未訳)の情報が参照されている。

 朱鷺田祐介は、「Role&Roll」Vol.137からは『シャドウラン』のワールドガイド「ストーム・フロント」の連載を開始。今年も精力的な活動を続けている。(岡和田晃)




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 ……やがて、大洪水がやってきて、地上の罪深き者たちが滅びた後、生き残ったノアは、地に落ちた葡萄の蔦を見つけ、これを地に植えた。その蔦は、エデンの園に生えていたものを、サマエルが地上に投じたものである。ノアは、これを発見し、「これはいかなる植物であり、植えてもよいものなのか?」と神に問いかけた。
 天使ファマエルが現れ、それはアダムを揺るがせた葡萄の蔦であると教えた。
 ノアはさらに悩み、神に問いかけるため、四十日間の祈りをささげた。
 やがて、神は天使サラサエルを遣わしてその言葉を伝えた。
「ノアよ、立ってそのつるを植えよ。神がこう言われるのだから、この木の苦さは甘さに変えられ、そこから生ずるもの(ワイン)は神の血になるでしょう。その木のおかげで人類は罰を受けたのだが、今後はインマヌエルなるイエス・キリストを通して、その木において上へのお召しを受け、楽園に入ることを許されるであろう」

――キリスト教偽典『ギリシア語バルク黙示録』より


1:キリマンジャロ・ビーンストーク

 それはぎりぎりのタイミングで、キリマンジャロ山頂の宇宙エレベーターを登っていった。戦略支援AI群、通称ティターンズ(TITANs)が引き起こした世界群発戦争からの避難民で混み合い始めた宇宙エレベーターの特別シートをひとつ、大枚はたいて買った。ずいぶん、コネも使ったが、得られたのは特別シートひとつと、40キロの荷物スペースだけだった。分岐体(フォーク)をひとつ作り、1ケースのワインとともに軌道上へ送った。
「私(かれ)に伝えてくれ。これが最後だ」

「品川蕎麦殺人事件(シナガワ・ソバ・マーダーズ)」朱鷺田祐介

(紹介文PDFバージョン:sinagawasobamurdersshoukai_okawadaakira
 『エクリプス・フェイズ』日本語版翻訳監修者の朱鷺田祐介による新作「品川蕎麦マーダーズ」をお届けしたい。

 これは朱鷺田佑介のユーモアSF「ミートハブ・マーダーズ あるいは、肉でいっぱいの宇宙(そら)」、「ウィップラッシュ・マーダーズ 殺人鬼はどこにいる?」、「リメンブランス・マーダーズ ~最後の酒杯~」の系譜に連なる第4作だが、シリーズのなかではもっとも大胆な切り口の作品だ。というのも、本作は「2015年12月の日本の風景」を扱っているのである!

 これまで「SF Prologue Wave」では40本以上の『エクリプス・フェイズ』シェアードワールド作品が掲載されてきたが、なかでも本作は、異色作品の一つといえる。現代の品川近辺の模様が詳細に活写されるだけではなく、村上春樹や西村賢太の小説が示唆され、著者が偏愛を隠さない『孤独のグルメ』ばりに力が入った食事描写が続くからだ。しかしながら、これらの光景はXP(体験再生)がどのようなリアリティを提供するのかをシミュレーションしたものであることを忘れてはならない。そのうえで、ジョン・ダンビルものの連作の文脈で捉えれば、いっそう「味わい深く」本作を堪能できるだろう。

 朱鷺田祐介は、「Role&Roll」Vol.137からは『シャドウラン』のワールドガイド「ストーム・フロント」の連載を開始。今年も精力的な活動を続けている。
(岡和田晃)




(PDFバージョン:sinagawasobamurders_tokitayuusuke
 小惑星帯を航行する宇宙船が宇宙空間を漂流する遺体をひとつ発見した。
 宇宙服に包まれたそれは、宇宙空間の事故で死んだ宇宙作業員の死体か何かかと思われたが、宇宙船の船員が宇宙服のヘルメットを開放してみるとその中には灰色がかった紐状の何かが詰まっていた。このXPはその宇宙服の奥から発見された大脳皮質記録装置(スタック)から回収されたものである。

>>>アクセス XP<<<

 XP(体験再生)プログラムへようこそ。
 ここからあなたは、誰かの人生を体験します。あなたは、映像だけでなく、音声・匂い・味・触覚を含むすべての五感情報、体内情報、感情情報さえも受け取り、まったく別の誰かの人生を味わうことが出来るのです。

【警告】
 本作は娯楽体験用に編集・加工をされています。安全装置を解除した場合、強度の感情や体験情報によって、精神や肉体に異常をきたす場合があります。必ず、リミッターを設定してください。

 黒くふくらんだ雨雲がいつ弾けてもおかしくないくらい垂れ下がりながら、JR品川駅港南口に立つガラスの摩天楼の上を通り過ぎていく。駅前はカラフルな看板や鮮やかに動く映像スクリーンで飾られ、きらきら輝いているように見えるが、どことなくくすんだセピア色に染まっている。いや、ここには本当に色はあるのだろうか?
 JR品川駅は高架になっていて、港南口は二階のテラスにつながっている。
 平日の朝8時前、通勤客がどっと吐き出されていく。駅前には高層の企業ビルが数本並んでおり、テラスから伸びるガラス張りの空中回廊で直結されている。

「クリシュナ・ガウディの部屋」朱鷺田祐介

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 まもなく日本語版の発売が予定されている『エクリプス・フェイズ』基本ルールブック。その監修者の朱鷺田祐介が新作小説「クリシュナ・ガウディの部屋」を書き下ろした。

 “死は病にすぎない、治療せよ……。”『エクリプス・フェイズ』基本ルールブックの裏表紙に記された著名な惹句だが、とすると、そのようなポストヒューマン社会で、自殺することとは、いったいどのような行いなのだろうか?
 自殺から蘇生した火星の医師の独白で綴られるこの物語は、期せずして宮内悠介『エクソダス症候群』にも通じる主題を扱っている。『エクソダス症候群』で描かれた地球への帰還願望や突発性希死念慮といったモチーフは、ちょうど本作の関心を裏側から掘り下げているようである。読み比べてみるのも一興だろう。

 なお、語り手のイメージ・イラストはサプリメント『モーフ・レコグニション・ガイド』から、ファウスト義体のものを用いてみた。メントン義体をベースにしているのと、外見のイメージが小説の設定に見合うように思われたからだ。
 
 朱鷺田祐介は、2015年にはPS VISTA用デジタルゲームのノベライズ『魔都紅色幽撃隊」(西上柾との共著、ベストセラーズ)、トールキンの世界を解説した『中つ国サーガ読本』(洋泉社)、『深淵』の第二版テンプレート集『辺境騎士団領』(新紀元社)といった著作を刊行してきた。(岡和田晃)




(PDFバージョン:kurishunagaudhi_tokitayuusuke
 はあ、はあ、はあ。
 荒い息をまるで自分のものではないように感じる。
 血圧が上がっていることは分かっている。それを伝えてくれそうなすべての機能はカットしている。
 目の前には、きらきらと輝くコインのような円盤。指先で持ち上げられるようなそれは自分の魂そのものだ。
 今から、これを砕く。
 手に持ったハンマーの重みを感じる。
 物理的な重さがやっと実感につながる。
 ああ、私はこれを砕く。
 これで私は自由になれる。
 この永遠の生命という檻から。
 額に汗が流れる。
 思い切ってハンマーを振り上げ、振り下ろす。

 目覚めると、窓の外に青みがかった火星の空と天に向かって伸びる巨大な柱が見えた。ああ、あの柱から私は降りてきて、火星への一歩を踏み出したのだ。オリンポス・シティの軌道エレベーターだ。
「火星オリンポス・シティ クリシュナ・ガウディ記念病院701」
 脳内で、ミューズ‐個人用の支援AI‐が位置情報を伝える。精神の不安定を抑えるドラッグが投与されているのか、私の精神は実に落ち着いていた。

「彼の義体(カラダ)」朱鷺田祐介

(紹介文PDFバージョン:karenokaradashoukai_okawadaakira
 『エクリプス・フェイズ』日本語版翻訳監修者の朱鷺田祐介の新作「彼の義体(カラダ)」をお届けしよう。

 「彼の義体(カラダ)」は『エクリプス・フェイズ』での日常を切り取ったショートショートで、これまで「SF Prologue Wave」での朱鷺田祐介の『エクリプス・フェイズ』小説に触れたことのない読者にとっては、またとない入門となるかもしれない。

 これまで解説で何度も書いてきたが、必要とあれば義体(モーフ)を取り替えることができる、というのが『エクリプス・フェイズ』の大きな特徴である。もちろん、相応の費用が必要だし、義体適合テストをはじめ、まったくリスクを負うことなく、義体を再着装することはできないが、それでも、義体は『エクリプス・フェイズ』のポストヒューマンSFらしさを規定するうえで、きわめて重要なファクターとなっているのは間違いないだろう。
 面白いのは、この作品では「彼の義体(カラダ)」が彼のオリジナルではない、ということだろう。リリカルな語りのわびしさが、この事実によってさらに強調された形になる。

 舞台の火星は『エクリプス・フェイズ』ファンにとってはお馴染みだろう。この星で、もっともひと目を引くランドマークが、楯状火山であるオリンポス山だ。その山頂には、宇宙エレベーターがある。
 このオリンポス山は地球のハワイ島に似ているが、現在は死火山。標高はなんと、約27,000メートルに及び、太陽系でもっとも高い山とされる。

 朱鷺田祐介は、『エクリプス・フェイズ』と並ぶサイバーパンクRPGの雄、『シャドウラン』の日本語版翻訳監修者としても著名である。
 『シャドウラン』は上級ルールブック『アンワイアード』、そして『ランナーズ・コンパニオン』の日本語版が発売され、ますます盛り上がっている。
(岡和田晃)




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 寂しい時は、彼の義体(カラダ)に入るの。
 火星の高山地帯を踏破するために作られたマーシャン・アルピナー。力強い手足を持ち、強化された肺は火星の薄くて冷たい空気の中でも息切れしたりはしない。高山の過酷な環境で身体活動を維持するために、新陳代謝を高めているので、多少燃費は悪いけれど、生の体(カラダ)/生体義体(バイオモーフ)で、太陽系最高峰のオリンポス山を歩き回れるのは素晴らしいことだ。
 私は、彼の義体(カラダ)を着装して/着て、山を歩く。

「リメンブランス・マーダーズ ~最後の酒杯~」朱鷺田祐介

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 今回「SF Prologue Wave」で発表されたのは、『エクリプス・フェイズ』日本語版翻訳監修者の朱鷺田祐介による「リメンブランス・マーダーズ 最後の酒杯」である。
 この作品は、「ミートハブ・マーダーズ あるいは肉でいっぱいの宙(そら)」、そして「ウィップラッシュ・マーダーズ 殺人鬼はどこにいる?」に続く第三作にあたるが、この連作に限らず朱鷺田祐介の『エクリプス・フェイズ』小説に登場していた主要人物ランディ・シーゲルが、本作には登場していない。だからといって読めないということはなく、むしろ一連の作品を未読の方でも、本稿には入りやすくなっている。

 さて、本作はSF版『孤独のグルメ』というか『深夜食堂』というか……どこかそういった作品にも通じる哀愁がある種のペーソスとして添えられているところが得に魅力的だと思う。あまり知られていないかもしれないが、架空世界の生活を丹念に構築するRPGでは、食の描写にこだわりを見せると、ぐっと楽しくなる。現在、RPGテイストあふれる九井諒子の『ダンジョン飯』が話題沸騰中だが、フィクションならではの独自メニューを活かすという意味では、おそらく同作にも多大な影響を与えているだろう深澤美潮の『フォーチュン・クエスト』ともども、SFの本質につながる問題を扱っていると言えるだろう。
 SFと食、というのは大きなテーマだが、それをコンパクトなエッセンスとして、重たくなりすぎない程度に扱っている「リメンブランス・マーダーズ」。『エクリプス・フェイズ』ならではのガジェット紹介は見事で、入門にもってこい。どうぞ、お愉しみいただきたい。
 フラット(未調整の義体)着装者が重要な役目を果たしているのも特徴的だ。木星共和国を扱ったSF Prologue Waveならば「蠅の娘」あたりと併せて読むのも面白いだろう。

 朱鷺田祐介はPS VISTAのRPG『魔都紅色幽撃隊 幽撃ウォーカー』のノベライズ『魔都紅色幽撃隊 FIREBALL SUMMER GIG』(西上柾との共著)を刊行したばかりだが、神話・伝承の解説者としても『超古代文明』や『海の神話』といった著作がある。本作で朱鷺田の作品に触れた読者は、丹念なフィールド・ワークをベースに描かれた『酒の伝説』にもアクセスしていただきたい。(岡和田晃)




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 大破壊後(AF)10年、人類が魂(エゴ)をデジタル化して、バックアップできるようになってすでに数十年が経過していた。身体形状(モーフ)は義体(モーフ)と呼ばれる、一時的な乗り物になった。バイオ技術の発達で病気を克服し、必要に応じて義体を乗り換えることで、事実上の不死を手に入れた。
 これはそんな未来のある物語。
 舞台は、地球を周回する静止軌道上の宇宙居住区「リメンブランス」。追憶という名前を持つハビタットは、〈大破壊〉によって荒廃した地球を見下ろす場所にあった。

「かっこいい彼女 ~12.1秒の恋物語~」朱鷺田祐介

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 『エクリプス・フェイズ』日本語版翻訳監修者の朱鷺田祐介による「かっこいい彼女」をお届けしよう。

 とりわけ生活に密着したテクノロジーの進展に主題をあてるサイバーパンク以後のSFの面白さに、日常生活をそれまでとは異なる眼差しで眺め、異化させるといったアプローチが存在する(たとえば、ウィリアム・ギブスンの『パターン・レコグニション』など)。

 本作もまた、その系列に連なる一作で、日常をフィクションに昇華させ、また『エクリプス・フェイズ』的な解釈を加える過程で、独特の面白さが生まれている。筆者は『ラッカーの奇想博覧会』に収められたサイバーパンクの代表的作家の一人、ルーディ・ラッカーの東京滞在記を、どこか連想させると感じた。

 高度に情報化が進み、大規模ネットワークであるメッシュや、支援AI・ミューズが存在する近未来社会で、恋愛の模様はどのように変化するのだろうか。
 それまでの朱鷺田祐介作品とは、またひと味もふた味も違う切り口となっているが、クリスマスのお供に、本作を通してしばし未来社会の恋愛風景について思いを馳せてみてほしい。
 
 朱鷺田祐介はこの秋に開催されたゲームマーケット2014にて開始された「ゲームマーケット大賞」の選考委員をつとめ、またドイツのエッセンで開催された世界最大のボードゲームの祭典「SPIERL’14」のレビューを「4Gamer.net」に寄稿するなど、精力的に活動のスケールを広げている。
(岡和田晃)




(PDFバージョン:kakkoiikanojyo_tokitayuusuke


 かっこいい彼女を見た。

 これは恋の物語だ。
 たぶん。

 駅のホームで、かっこいい彼女を見た。
 こげ茶色の上下をまとった20代半ばの社会人らしい女性が、ホームにある階段横の低い壁にもたれかかっていた。ショートヘアでメガネはかけていない。センスのいい控えめの化粧。もたれかかり、軽く脚を交差させている。
 その自然体の風情が妙に印象的だった。
 わたしは、列車から降りたところだった。乗っていた車両は彼女の前をすぎ、一両分ほどホームの端についた。ホームから地下駅改札へと続くにある下り階段へ向かおうとした瞬間、彼女のその姿が目に入り、「かっこいい」と感じた。
 私はその前を通りすぎて、階段を下り、改札から仕事場に向かった。

 それが表面上の事実であり、その後、数日たった現在でも揺るぎない真実である。
 しかし、同時に支援AI(ミューズ)から見れば、事実はかなり異なる。ミューズの主人である「わたし」(男性、独身、性志向:異性愛)にとっては、「かっこいい彼女を見た」という一事象に過ぎないし、それ以上の事実は存在しないが、「わたし(彼)」を支援するアシスタント人工知能プログラムであるミューズは、「わたし(彼)」の微かな情動を感じ取って、表面化されなかった多くの行動を行うとともに「わたし(彼)」の複雑な思考や行為を記録している。
 それを時系列に沿って解析していくことにどのような意味があるのかはわからないが、きっとそれはある種の感情を励起するであろう。

「ウィップラッシュ・マーダーズ 殺人鬼はどこにいる?」朱鷺田祐介


(編集部註:本作は、前作「ミートハブ・マーダーズ あるいは肉でいっぱいの宇宙(そら)」と緩やかにリンクしている作品です。前作をまだお読みでない方は、本作の前にぜひそちらもお読みになってください)




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1:奇妙な遺体

 惑星エコーⅣ、ネオ・ブルゴーニュ開拓地

「これが今回の被害者の遺体です」
 ……という台詞とともにランディ・シーゲルが見せられたのは、巨大な蕾が切り取られた野草のような何かであった。2メートル弱ほどの緑色の植物めいた何かから複数の触手が出ている。どこか動物めいた部分もあるが、全体として見れば、花が咲く野草の類いが巨大化したものである。
 人間の遺体であれば、頭部というべき巨大な蕾状の何かが太い中枢茎から切り離され、横に置かれているのは何のジョークなのか?
 まるで、断頭台で首を切り落とされたようだ。
「ウィップラッシュ・ポッド義体です」
 惑星エコーⅣの開拓地ネオ・ブルゴーニュ担当の契約法務ディストリビューター、ヘレン・アフリカヌス(#知性化種:ネオ・チンパンジー)が説明するとともに、ランディの支援AI(ミューズ)がメッシュ検索を行い、情報を見つけ出す。



>>>ウィップラッシュ・ポッド義体:ウィップラッシュは、太陽系外惑星サンライズで発見された現時点で最大の肉食性動物型植物(カーニボア・プラニマル)。これを遺伝子調整の上、サイバーブレイン、大脳皮質記録装置(スタック)、サイバーアイなどの五感補助システム、発声用の音響システムなどを搭載し、義体(モーフ)としたもの。
 価格:高価。<<<

「ミートハブ・マーダーズ あるいは、肉でいっぱいの宇宙(そら)」朱鷺田祐介

(紹介文PDFバージョン:meathubmurderersshoukai_okawadaakira
 『エクリプス・フェイズ』日本語版翻訳監修者の朱鷺田祐介による「ミートハブ・マーダーズ あるいは肉でいっぱいの宙(そら)」をお届けしよう。

 あなたは、筒井康隆の「あるいは酒でいっぱいの海」をご存知だろうか。あるいはアヴラム・デイヴィッドスンの「あるいは牡蠣でいっぱいの海」は? いずれも劣らぬユーモアSFの名編で、ネタを割らないために詳述は避けるが、未読の方は、ご一読をお薦めしておきたい。

 これらの作品にオマージュを捧げた「ミートハブ・マーダーズ あるいは肉でいっぱいの宙(そら)」は、『エクリプス・フェイズ』のゲーム・セッションの雰囲気を活かしながら、たっぷりもユーモアが盛り込まれている。
 といっても、独自解釈で世界観を破壊しているわけではなく、舞台となるハビタット「ミートハブ」は、基本ルールブックに記載されているれっきとした公式設定で、土星圏に位置する。
 高速培養されたベーコンが、そのまま居住区域になったものだ。このような奇抜な設定もまた、『エクリプス・フェイズ』の魅力である。
 「ミートハブ」や土星圏については、「Role&Roll」Vol.117でも詳しく紹介されているので、あわせてお読みいただければ幸いだ。

 ゲームデザイナーとしての朱鷺田祐介を語るうえで、ユーモアという切り口は外せない。もとは読者参加ゲームだった『パラダイス・フリートRPG』は、トランプの「大貧民」をベースにした独自の判定方法を駆使して宇宙を駆けまわるユーモア・スペースオペラRPGだが、現在は電子書籍で入手が可能になっている。
(岡和田晃)




(PDFバージョン:meathubmurderers_tokitayuusuke
 我は肉の内にあり、肉は我の内にあり。
 我は肉を取り、肉は我を生かす。
 我は肉を持って、我が存在を維持する。
 肉は我が全て。
  —スカムの宇宙詩人 ドミニス・マキシムズ

1:美味の案内人


 ダンビルは肉色の壁を杖で叩いて軽く頭を傾けた。
 その後、ナイフで壁を形成する肉を削り、口に含み、ゆっくりと咀嚼する。やがて、表情はとろけたようになり、ほほ笑みに変わる。
「いい熟成具合だ」
 さらに、万能工具(フレックス・カッター)を四角い角型のノミに変えて打ち込んで、深さ20センチほどの深さまで穴をあける。穴の中を照らし出し、肉の壁の色を確認する。奥ほど色味が明るい。掘り出した肉片は表層に近いほど乾燥し、内側ほどしっとりとしている。
「どんぐりで育てたイベリコ豚のような出来ですね」
 ダンビルの説明に、宇宙冒険家のランディ・シーゲルの脳裏で、〈大破壊〉以前にスペインで育成されていた高級豚の品種の説明が重なる。
 ダンビルから受け取った肉片を口に入れると、肉片から脂が溶け出し、舌の味蕾を刺激する。脂の複雑な味わいは脳の快楽中枢を直撃する。糖分など含まれていないのに、甘いようにも思える。
「ワインが欲しいところだな」

「遥かなる偵察」朱鷺田祐介

(紹介文PDFバージョン:harukanaruteisatushoukai_okawadaakira
 『エクリプス・フェイズ』日本語版の翻訳監修者・朱鷺田祐介の手になる短篇の第五弾「遙かなる偵察」をお届けする。

 朱鷺田祐介はこれまで「SF Prologue Wave」では、「サンダイバーの幻影」、「マーズ・サイクラーの帰還」、「宇宙クジラと火星の砂」、「リフレクション」と、宇宙探検家ランディ・シーゲルが登場する一連の作品を発表してきた。
 今回の「遙かなる偵察」の「1:リディア・イン・ザ・スペース」では、前作「リフレクション」と同様に、ランディ・シーゲルのアルファ・フォーク(分岐体、つまりコピー)のリディア・シーゲルの模様が描かれる。彼女はゲートクラッシャー、つまり、「ワームホールで太陽系外惑星とつながるパンドラゲートに挑む宇宙探検家」。そんな彼女は、虚空から虚空へと、探索の旅に出ているのだ。
 次いで語られる「2:ランディ・アット・ザ・ロング・アレイ」の舞台となるのは、土星の衛星ディオーネ。『エクリプス・フェイズ』のサプリメント(追加設定資料集)『Rimward』で解説される設定だが、ここには、150キロに及ぶ電波アンテナを集めたザ・ロング・アレイという電波望遠鏡がある。これにより、太陽系内のすべての通信を傍受することが可能となるのだ。「Role&Roll」Vol.104に掲載されたシナリオ「サイレント・バベル」は、このザ・ロング・アレイの謎に関係したシナリオだった。そのザ・ロング・アレイでも、ランディのフォークが何かを体験してしまう。
 
 フォークたちが多角的に語る世界像。それが、「遙かなる偵察」のスタイルだ。それが結末部での、あっと驚く展開につながる……!?

 朱鷺田祐介の『エクリプス・フェイズ』小説で一貫しているのは、ゲームとしての『エクリプス・フェイズ』が提供する無数の情報を縦横に駆使したスタイルだろう。現役ゲームデザイナーの面目躍如たるところだが、なかでも、特にこだわりを見せているのが「フォーク(分岐体)」を、有機的にストーリーに絡ませることだ。
 その志向性は、朱鷺田がシナリオ・デザイン、ゲームマスター、そしてライティングをつとめたリプレイ「月の熾天使~マーズ・サイクラーの帰還~」(「Role&Roll」Vol.107~109まで連載)にも、よく現れている。合わせてご堪能いただきたい。

 朱鷺田祐介は日本を代表するゲームデザイナー/ライターの一人。サイバーパンクとファンタジーを融合させた『シャドウラン』第4版や、20th Anniversary Editionの翻訳監修でも知られている。最近はクトゥルフ神話がらみの仕事も多く、植草昌実や笹川吉晴と、『クトゥルフ神話検定 公式ガイドブック』を執筆した。朱鷺田の堂に入ったゲームマスター・テクニックは、著名ゲームサイト4gamers.netで連載された「帰ってきたTRPG連載『クトゥルフ神話TRPGで遊ぼう』」でも垣間見ることができる。(岡和田晃)




(PDFバージョン:harukanaruteisatu_tokitayuusuke
1:リディア・イン・ザ・スペース

 轟轟轟々。
 リディアは、土星のとどろきを聞きながら、宇宙(そら)を往く。
 重力と磁場の波に乗り、輝くプラズマの羽が彼女を導いていく。
 虚空から虚空へ。

「宇宙に音がないなんて嘘よ」
 そういったのは、宇宙クジラのメアリー・Iだった。太陽のコロナを泳ぐ宇宙クジラ。耐コロナ用の特殊義体(モーフ)を着装したAGI(汎用人工知性体)であるソラリアン(太陽人)の彼女は、その側線(魚類の耳に当たる器官)で電磁波や太陽風を感じ取り、「聞く」ことが出来る。宇宙クジラにとって、太陽の風は荒れ狂う炎のシンフォニーだという。
 黄金色のコロナの中で、スーリヤは泳ぎ、歌い、舞う。
(ああ、そうだね)
 エアロックから宇宙空間に半ば乗り出したリディア・シーゲル(アルファ7)は、土星系の強い磁場の波動を聴覚に反映して、そう思った。

「リフレクション」朱鷺田祐介

(紹介文PDFバージョン:reflectionshoukai_okawadaakira
 『エクリプス・フェイズ』日本語版の翻訳監修者・朱鷺田祐介の手になる短篇の第四弾「リフレクション」をお届けする。
 朱鷺田祐介はこれまで「SF Prologue Wave」にて、「サンダイバーの幻影」、「マーズ・サイクラーの帰還」、「宇宙クジラと火星の砂」……と、宇宙探検家ランディ・シーゲルが登場する一連の作品を発表してきた。シリーズ最新作にあたる「リフレクション」では、冒頭からオリジナルのランディの魂(エゴ)からコピーされた分岐体(フォーク)の模様が描かれている。ミッションに合わせて交渉能力を強化し、女性の性格を持たせるという『エクリプス・フェイズ』ならではの演出が加えられているわけだ。
 さて、彼女を待つ運命は如何に……。

 朱鷺田祐介の『エクリプス・フェイズ』小説に通底しているのは、基本ルールブックから各種サプリメント(追加設定資料集)の情報を駆使した、きらびやかで幻惑的なイメージを提示していることだろう。かつてウィリアム・ギブスンは、モダン・アートのイメージを借用して『ニューロマンサー』を生み出した。各種サイバーパンク・ゲームのデザイナーは、そのイメージから具体的な設定を導き出し、肉付けして実体化させたわけだが、朱鷺田のテクストが一貫して追究を続けているのは、そのように創られたゲームから、いまいちど、再帰的にサイバーパンク小説の新しいスタイルを捉え返す営為にほかならない。

 「マーズ・サイクラーの帰還」は雑誌「Role&Roll」Vol.95に掲載された同名のゲーム・シナリオと連動し、「サンダイバーの幻影」は「宇宙クジラと火星の砂」は「Role&Roll」Vol.101のゲーム・シナリオ「太陽クジラ」とゆるやかなつながりを見せている。もちろん本作は、「Role&Roll」Vol.103に掲載予定のゲーム・シナリオと、背景の多くに意図して共通要素が盛り込まれている。このように、小説とゲームという表現形式の違いを活かした相互作用を可能にしているのも、『エクリプス・フェイズ』というSF作品の醍醐味だろう。

 朱鷺田祐介は日本を代表するゲームデザイナー/ライターの一人。サイバーパンクとファンタジーを融合させた『シャドウラン』第4版や20th Anniversary Editionの翻訳監修でも知られている。同作のゲーム・リプレイ『九龍の天使たち』が発売されたばかりだ。また、ホラー小説誌「ナイトランド」5号の特集「サイバーパンク/SFホラー」の解説をつとめた。ここでは『シャドウラン』や『エクリプス・フェイズ』についても積極的に言及されている。(岡和田晃)




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「彼女(ワタシ)」は「彼女(ワタシ)」に銃を向けて、引き金を引き絞った。

 27時間前。火星オリンポス・シティ、軌道エレベーター下、再着装センター。
「ランディ・シーゲル。分かりますか?」
 誰かが声をかけてくる。
 ああ、いつもの経験だ。「彼女(ワタシ)」は死に、バックアップから復活しつつある。ここは?→(瞬時に支援AI(ミューズ)がメッシュから位置情報を確認する)← 事態は了解した。「彼女(ワタシ)」は答える。
「違う。私はランディ・シーゲルの三番目の分岐体(フォーク)//アルファ3//であり、女性系交渉人格(フィメール・ネゴシエイター)、リディ・シーゲル」

「宇宙クジラと火星の砂」朱鷺田祐介

(紹介文PDFバージョン:uchuukujirashoukai_okawadaakira
 今回ご紹介する作品は、『エクリプス・フェイズ』日本語版翻訳監修者、朱鷺田祐介の短篇小説第3弾「宇宙クジラと火星の砂」だ。

 『エクリプス・フェイズ』の世界ではクジラ型の義体「スーリヤ」というものが登場する。体長は10メートルにも及び、太陽のコロナの中を無傷で飛び回ることができる特異な義体だ。
 そう、クジラと言えばSFの華。イアン・ワトスン『ヨナ・キット』など、数々の名作が思い浮かぶだろう。『エクリプス・フェイズ』を使えば、新たな「クジラもの」のSF作品を表現可能なのだ。
 このクジラ型義体「スーリヤ」をまとったメアリー・Iをはじめ、ランディ・シーゲルや佐藤海といった「ファイアウォール」のエージェントたちは、朱鷺田祐介の短篇「サンダイバーの幻影」でお目見えしたキャラクターたちである。ロールプレイングゲームでは、同じキャラクターが舞台を変えてさまざな冒険を執り行うのだ。今回のミッションで彼らは、火星の砂に何を見たのか。

 朱鷺田祐介は日本を代表するゲームデザイナー/ライターの一人として知られている。『エクリプス・フェイズ』以前にも、サイバーパンクRPG『シャドウラン』第4版の翻訳監修を手がけてもいる。ゲームライターならではのガジェットの使い方を注視してほしい。また、故レイ・ブラッドベリへのリスペクトも感じ取ってみていただきたい。(岡和田晃)




(PDFバージョン:uchuukujirato_tokitayuusuke
 宇宙空間が太陽風に震えている。
 微小な黒点爆発が重力波をかき乱し、吹き上げる粒子がスーリヤの肌を叩く。
 太陽極近傍宙域。別名「インナー・バルカン」はいつもより、泡立つような磁気嵐とプラズマ日和だ。スーリヤで泳ぐにはよい気候である。

「愛おしきかな、太陽。
 我らの海を照らす黄金の林檎」

「マーズ・サイクラーの帰還」朱鷺田祐介

(紹介文PDFバージョン:maazusaikuraashoukai_okawadaakira
 『エクリプス・フェイズ』日本語版の翻訳監修者である朱鷺田祐介の手になる短篇小説第2弾「マーズ・サイクラーの帰還」をお贈りする。
 今回の舞台は、なんと巨大な宇宙船。
 『エクリプス・フェイズ』は魂(エゴ)を遠隔地に投射し現地で義体(モーフ)を調達するエゴキャスティングという独特の移動手段が広まっているが、一方で、昔ながらの宇宙船を使って旅を行なう者たちも根強く存在するのだ。
 火星周回船(マーズ・サイクラー)「美味なる沈黙」号のエキゾチックな描写と、そこで秘密結社ファイアウォールの一員がいかなる働きをするのか、とくと注視されたい。

 朱鷺田祐介は日本を代表するゲームデザイナー/ライターの一人として知られるが、『超古代文明』、『酒の伝説』といった設定資料本の執筆も手がけている。本作はそうした社会史的な仕事のセンスがゲームの文脈で発揮された逸品と読むこともできるだろう。(岡和田晃)




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 十年間、ずっと考えていたことがある。
 あの狂気、あの混乱、そして、あの閃光。
 ニュー・ムンバイを忘れない。絶対に。

 宇宙船の船倉の底にもモスクがある。
 それは地球が滅びた後でさえ、神が人々の心の中に生き続けている証だ。
 メッカの時刻に合わせ、礼拝を知らせる声が響き、船倉内のムスリム商人たちがばたばたと店を閉ざす。礼拝の時間には「働いてはいけない」。そんな戒律すら生きている。
「昼の礼拝の時間か」
 アリシア・スミスは、船倉の壁に背をもたせかけたまま、そう呟いて、支援AIがメッシュに流れてくるクルアーンの一節の引用を始めるのを精神のちょっとしたニュアンスで押し留めた。説教を聞きたい訳じゃない。

「サンダイバーの幻影」朱鷺田祐介

(紹介文PDFバージョン:sunndaibaashoukai_okawadaakira
 記念すべき「SF Prologue Wave」での『エクリプス・フェイズ』シェアードワールド企画の第一弾を飾るのは、『エクリプス・フェイズ』日本語版の翻訳監修者である朱鷺田祐介の手になる短篇「サンダイバーの幻影」だ。
 キレのよい作品で、『エクリプス・フェイズ』世界のイメージを鮮明に叩きつけてくれる。世界観についての説明的注釈を生かしたメタフィクショナルな構成も見どころだ。
 すでに朱鷺田祐介は『エクリプス・フェイズ』のRPGリプレイ「金星の人狼 ―Garou in the Venus―」を「Role & Roll」Vo.88~Vol.91(アークライト/新紀元社)にて発表している。これは実際のゲーム・プレイを録音し読み物として再編集したものだが、途中で登場するト書きの部分には、こうしたRPGリプレイの手法が導入されている。ゲームデザイナーならではの工夫だろう。

 朱鷺田祐介は日本を代表するゲームデザイナー/ライターの一人。1987年に「ウォーロック」誌(社会思想社)でデビューしてから、アナログゲーム界の最前線で活躍してきた。ロールプレイングゲームのデザインや紹介が仕事の中心だが、代表作であるダークファンタジーRPG『深淵』の世界を舞台に『火龍面舞』や『丘の上の貴婦人』(ともにプランニングハウス)といった小説を出版しており、小説家としての顔も持つ。『エクリプス・フェイズ』の世界の魅力を多角的に紹介してくれる、期待の書き手だ。(岡和田晃)




(PDFバージョン:sanndaibaa_tokitayuusuke


 何度繰り返したとしても、死ぬのに慣れることなどない。
 今回は特にひどかった。
 魂(エゴ)のバックアップが損傷していたのか、蘇生措置前の数瞬でひどい夢を見た。

 宇宙クジラの夢だ。
 黄金に輝く太陽フレアの中へ向かって飛び込んでいく巨大なクジラ。
 彼らの行く先に見えるのは、黒点。
 そして、圧壊する。

トキタ ユウスケ


朱鷺田祐介(ときたゆうすけ)
 TRPGデザイナー。デザイン作品としては、幻想性をテーマとしたダーク・ファンタジー『深淵』(第二版)、コンシューマーゲームのTRPG化『真・女神転生TRPG~魔都東京200X~』、現代トレジャー・ハンター物『ブルーローズ:ネクサス』、オカルト刑事物の『霊障都市捜査ファイル 罪の街新宿』、クトゥルフ神話TRPGの戦国日本物『比叡山炎上』など。サイバーパンク&ファンタジーRPG『シャドウラン 4th Edition』およびSF-TRPG『エクリプス・フェイズ』の翻訳監修を担当する。その他に『クトゥルフ神話ガイドブック』、『酒の伝説』、『超古代文明』、『図解巫女』など。