(紹介文PDFバージョン:hiyaorosimurdersshoukai_okawadaakira)
『エクリプス・フェイズ』日本語版翻訳監修者の朱鷺田祐介による新作「冷やおろしマーダーズ」をお届けしたい。
これは朱鷺田祐介のユーモアSF「マーダーズ」シリーズの最新作である。
作中では、「ミートハブ・マーダーズ あるいは、肉でいっぱいの宇宙(そら)」、「ウィップラッシュ・マーダーズ 殺人鬼はどこにいる?」、「10年目の贈り物」、「スカイ・アーク・マーダーズ」、「ドロップレット・マーダーズ」といった過去作とのリンクが示唆されている。
ただ、本作の姉妹編というのは、むしろ「品川蕎麦マーダーズ」ではないか。同作では蕎麦が扱われるが、今作では小麦を用いたうどんが中心的なモチーフになっているからだ。
一般に、SF的なガジェットをハードルが高いと思われる方も多いと聞くが、本作はむしろグルメ要素が強いので、そういった方に「軽いお話もあるよ」と紹介する役に立つかもしれない。朱鷺田祐介は今年4月、横浜で開催された「はるこん2017」でゲスト・オブ・オナーのケン・リュウに、「グルメSF」についての質問をするくらいには、このテーマにこだわりがあるようだ。
朱鷺田祐介も参加した「はるこん」でのケン・リュウのインタビューに関しては、「ポストヒューマニズム、紀貫之、ロールプレイングゲーム」というタイトルで「ナイトランド・クォータリー Vol.09 悪夢と幻影」にレポートが載っている。グルメSFについてのやりとりは紙幅の都合で割愛せざるをえなかったが、ケン・リュウも大いに興味があるということだった。(岡和田晃)
(PDFバージョン:hiyaorosimurders_tokitayuusuke)
ここから語る物語の舞台は、大破壊後十年の太陽系である。
人類が宇宙に足を踏み出し、約二百年が経過している。その間に、人類は超人類(トランスヒューマン)に進化した。
〈大破壊後(AF)〉10年、特異点を突破した戦略情報統合AIネットワーク(TITAN)群、通称ティターンズが人類の90%を死に至らしめ、地球を破壊し尽したあの戦いから10年が経過した。トランスヒューマンの故郷「地球」は、ティターンズが放ったあらゆる大量破壊兵器、核兵器、生物兵器、化学兵器およびナノスウォーム、戦闘マシンの群れによって、もはやかつての青い地球はおぞましき赤と灰色が入り混じった泥沼と化している。
その結果、人類のゆりかごは失われた。
人類の誇った食文化も同時に。
始まりは爆発だった。
天王星周辺を浮遊する大型移民船「シュタイナー」号の中央近くにある、ジョン・ダンビル・α4の部屋が吹き飛んだ。
爆薬の持ち込みはなかった。
万能合成器で化学爆薬を調合した形跡はなかった。
だが、突然、部屋が内側から吹き飛び、ダンビルは死亡し、その周辺一帯が爆発で生じた粉塵と歪みで居住不可能となった。
その爆風でめちゃくちゃになった通廊に立ち、宇宙冒険家のランディ・シーゲルは憤懣やるかたない感じで愚痴った。
「なぜ、俺が呼ばれる?」
「知り合いだろ?」
答えたのは、この船のセキュリティ・マネージャーを務めるアリシア・キイェルド・オウィディウス・鈴木・ストームトルーパー。