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「ゆうやけ」東條慎生(画・寮美千子)


(PDFバージョン:yuuyake_toujyousinnsei

 石けりあそびにあきたとき、きがつけば、ボクはどこにいるのか、わかりません。
 石けりあそびにむちゅうになって、しらないばしょに、きてしまったようです。
 空がオレンジ色になっていました。そろそろ、かえるじかんです。
 けれども、道がわかりません。
 道をききたくても、だれもいません。
 かべばっかりで、せまい道が、まっすぐ、まっすぐ、つづいています。
 むこうから、人のこえがしています。
 道をあるいていくと、だんだん人のこえが、大きくなってきました。

トウジョウ シンセイ


東條慎生(とうじょう・しんせい)
 1981年生まれ、ライター、〈想像力の文学〉(早川書房)や〈未来の文学〉(国書刊行会)等の叢書レビューを行なってきた文芸誌「幻視社」代表、「向井豊昭アーカイブ」共同運営者。共著に『アイヌ民族否定論に抗する』(河出書房新社)、『ノーベル文学賞にもっとも近い作家たち』(青月社)、『北の想像力 〈北海道文学〉と〈北海道SF〉をめぐる思索の旅』(寿郎社)、『熱い書評から親しむ感動の名著』(すばる舎)。speculativejapan、Analog Game Studies、「絶対移動中」、「ぱろる」等に寄稿。ブログ「Close To The Wall」。

「オメガ・メタリクス」東條 慎生


(PDFバージョン:omegametarikusu_toujyousinnsei
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 ドリルの高周波もずっと聴いていると気にならなくなってくる。チクリと麻酔を打たれて痛みもない。それ以上に、ガリガリとそんなに削っていいものなのかということに不安を感じる。もちろん医者がやってるんだから大丈夫なんだろうけれど、そうはいっても削りすぎではないか、いいのかそれで、と言葉が頭に渦を巻く。そしてどんどん金属質になっていく自分の歯。どうだ、おれのメタリックな歯は、強そうだろう、という冗談を思いついたものの、いったい誰に言うのか。自分にか。

 叔父がまだゴルフバッグを担いでいなかった頃、自分がまだ酒も飲めない年だった頃、叔父の病室に通されたときの異様な感覚。ひとことでいえば、誰かの体の中に入ってしまった感覚だといえばいいのだろう。けれど、そんな表現が誰かに通じるわけがない。でも、そうとしか言いようがない。
 叔父はそのとき、ベッドに寝たきりで起きあがることができなかった。鼻や口や喉や腕やら体中から管やコードが延びていて、ベッドの脇の大きな機械へとつながれていた。両親に連れられて入ってきた自分を見たとき、叔父のマスクに覆われた顔がわずかに笑みを浮かべたのがかろうじてわかった。喉にも管が通っていて声も出せないので、胸元にあるキーボードを寝ころんだまま起用にたたいて、ひさしぶり、と頭の横のディスプレイに打ち出した。