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「ヘルハウス」浦浜圭一郎

(紹介文PDFバージョン:hellhouseshoukai_okawadaakira
 今回紹介する『エクリプス・フェイズ』のシェアードワールド小説は、浦浜圭一郎による新作「ヘルハウス」だ。

 『エクリプス・フェイズ』の未来は、レトロ・フューチャーなスペース・オペラではない。サイバーパンクの系譜を受け継ぎながらも、ふだん私たちが触れているパソコンやスマホといったデバイスやインターネットのような情報環境の延長線上でその実態を想像できる。その意味で身近なものだ。
 その関係を『エクリプス・フェイズ』の設定を応用する形で掘り下げようとした試みとして、この「ヘルハウス」は読むことができる。『エクリプス・フェイズ』には日常の行動すべてを記録するライフロガーという人たちがいるのだから、「ヘルハウス」の設定も突飛なものとはいえないだろう。

 あるいは“スタンダードな冒険の導入”としても。ファイアウォールから依頼されるミッション。「物理的な危険は一切ない」はずのお使いミッションが、意外な展開を見せ……。章ごとに切り替わり、メタレベルで多層化していく世界の切れ目……。それらが結び合うのは、どのタイミングだろうか。
 ソリッド・シチュエーション・スリラーの名手ならではの緊張感あふれる展開に、まさしく目が離せなくなること請け合いだ。

 浦浜圭一郎は、傑作長編『DOMESDAY』が改訂のうえで電子書籍として販売され、好評を得ている。最近の短編としては、「月刊アレ!(allez!)」vol.18に「見ルナのタープ」も発表している。「ヘルハウス」に惹かれた読者にオススメしたいのは、浦浜圭一郎が発表したもう一つの『エクリプス・フェイズ』小説である「かけ替えなき命のゲーム」。同作を読めば浦浜が「ヘルハウス」で描くトランスヒューマン宇宙を、より深く理解できること請け合いだ。(岡和田晃)



(PDFバージョン:hellhouse_urahamakeiitirou
1.【A.F.10】
※未来人のブログ : 2016/03/02(水)※

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私、サミュエル・カミランドは本物の未来人。
この時代に生まれた地球人の脳内に、時をさかのぼって転送されたトランスヒューマンのエゴである。

>いつから来たのか?
この地球がまるごと廃墟と化すまで破壊され、君たち旧人類の大半が消え失せた太陽系の大災厄【ザ・フォール】から10年後の未来から。

>来たのはいつか?
私のエゴのダウンロードが開始されたのは、地球の共通紀元2011年3月18日金曜日。
私が現在着用しているこの身体の元の持ち主は、この日突然、意識不明の植物状態に陥った。この時代の医師たちは「謎のウイルスによる急性脳症」と診断したが、もちろん誤診だ。
謎のウイルスの正体は、私のエゴを再構築するには不可欠のナノサイズのロボットたちだった。
従って、本当のタイム・トラベラーは彼らだが、彼らがこの時代にいつ到着したのか、正確な日時はわからない。

ナノボットたちは「元の持ち主」の神経ネットワークを改変し、この「私」を上書きダウンロードした。残念ながら、この過程で元の持ち主のエゴはバックアップされずに消去され、今は手続き記憶など私に再利用された部分しか残っていない。

神経ネットワークの改築作業がほぼ完了し、私のエゴが思考可能なレベルにまで覚醒したのは、約半年後。そう推測できるのは、目覚めてから最初に聞いた言葉の中に、「9月」という、私の時代では長らく使われなくなっていた地球の古語があったからだ。
だが、その懐かしい言葉を使った医師は、私の意識回復に気づかぬばかりか、あろうことか治療と称して私に電気ショックを施した。
こうして、私の脳を修復中だったナノボットたち、小さな本物の医師たちは殺された。前ナノテク時代の地球の呪術医たちの手によって。
以後、4年間もの長きに渡って、私は植物状態とみなされたまま、この時代の野蛮な医療施設をたらい回しされることになる。

おそらく自然治癒により、どうにか身体を制御できるようになるまで回復したのは、ごく最近のこと。
リハビリを終え、ようやく病室という名の牢獄から解放されたのは、今から三日前の出来事だ。
この身体を自然分娩した「母親」が住む集合住宅に引き取られて、今ここにいる。

>この時代に来た目的は?
私にはわからない。
望んでこんな時代に来たわけじゃないからだ。
望んでこんな身体に宿ったわけでもない。
おそらく敵の手によって、強制的に時間旅行の実験体にされたのだ。

>なぜ、そんな目に遭ったのか?
今のこの状況から見れば皮肉なことに、私が新たな「モーフ」、つまり新たな換わり身を欲したせいだ。

当時、私のエゴが着用していたのはスプライサーと呼ばれる標準モーフ。メインベルトの無政府主義者とコネがあった私は、地球が滅亡する二年も前にトランスヒューマン化して、同時にそのモーフを手に入れた。おかげで【ザ・フォール】とその後の混乱を生き延びたのだ。
その後の12年間、そのモーフは私にとって幸運のモーフであり続けたが、幸運の自覚もモーフも経年劣化は免れない。
低重力向きのモーフを手に入れようと、ナイン・ライヴスがらみのヤバい事件にかかわったのが運の尽き。ファイアウォールという、さらにヤバい秘密組織に目をつけられてスカウトされた。
見かけ上は、悪名高い犯罪組織の手先から正義の味方、超人類の守り手への華麗なる転身だ。
だが、トランスヒューマンの世界では、見かけほど当てにならないものはない。

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2.【A.F.10】
「こいつは、ただのお使いミッションだ。物理的な危険は一切ないと保証する」
 ファイアウォールの連絡員は、数時間前にそう請け負った。
 ところが、メインベルトからのエゴキャストを終えた後、見知らぬ覚醒室で目覚めてみると……

ウラハマ ケイイチロウ

浦浜圭一郎(うらはま けいいちろう)
1963年生まれ。大阪府中央区出身。
2000年『DOMESDAY -ドームズデイ-』で第一回小松左京賞(佳作)を受賞し、デビュー。
KEI URAHAMA名義で 『DOMESDAY』、『DEATH-TECH』(英語翻訳版)を電子出版。Kindle版がAmazon他で販売中です。

『かけ替えなき命のゲーム』浦浜圭一郎(画・小珠泰之介)

(紹介文PDFバージョン:kakegaenakishoukai_okawadaakira
 今回紹介する『エクリプス・フェイズ』のシェアードワールド小説は、浦浜圭一郎による新作「かけがえなき命のゲーム」だ。
 これまで「SF Prologue Wave」上で「エクリプス・フェイズ」小説を読まれてきた方々は、ひょっとすると、本作の先鋭的なスタイルに驚くかもしれない。
 舞台となるのは、現代日本の風俗に『ニンジャスレイヤー』風の戯画化されたオリエンタリズムが嵌め込まれた異世界。断章という形式で描かれる各々の章では、映画のように視点が変化する。視点人物「ヒデサト」と「D」が巻き込まれた、奇妙な「ゲーム」の行く末は? フランク・ミラーのグラフィック・ノベル『RONIN』にクエンティン・タランティーノ監督の『キル・ビル』を入れ混ぜたような、ゲームと連動したシェアードワールドSFに新たな境地を拓く力作だ。
 
 浦浜圭一郎といえば、第1回小松左京賞佳作を受賞してデビューしたSF作家として知られている。その受賞作『DOMESDAY―ドームズデイ―』(ハルキ・ノベルス)は、ゾンビ映画の古典のリメイク『ドーン・オブ・ザ・デッド』(ザック・スナイダー監督)、名作グラフィック・ノベルを見事に実写化した海外ドラマ『ウォーキング・デッド』、ジェイン・オースティンを見事にマッシュアップした小説『高慢と偏見とゾンビ』等、近年大流行の兆しを見せている「新世代のゾンビ表象」を、2000年の段階で、いち早く先取りした傑作だった。
 その『DOMESDAY―ドームズデイ―』では、閉鎖的な「ドーム」に閉じ込められた人々が、閉塞状況に希望を失い自殺し、「天使」なる謎の球体によって、死んだ姿のままでゾンビとして蘇らせられる衝撃的な光景が描かれた。実は、同作の流れで、13年後に発表されたこの「かけがえなき命のゲーム」は読むこともできるのだ。つまり、魂をデータとしてコピーし、セーヴ&アップロードが可能な『エクリプス・フェイズ』世界において、「死」とはいったい何であるのかという重厚なテーマが、独自の美学に基づいた迫真の戦闘描写を通じて模索されるのである。イラストレイター・小珠泰之介の手になる、美麗にして怪異なクリーチャーのイラストも見どころであろう。
 
 ぜひ、本作を、日本SF作家クラブ50記念出版『SF JACK』(角川書店)に収録された冲方丁「神星伝」、あるいは「SF Prologue Wave」の『エクリプス・フェイズ』小説であれば、片理誠の「決闘狂」と、一緒に読んでみてほしい。

 浦浜圭一郎は、自身の手になる映画シナリオ「ROOM OF DREAMS」が、2007年釜山国際映画祭シネクリック・アジア賞受賞し、同作が2008年ロッテルダム国際映画祭シネマートに公式選出されるなど、小説以外の活躍でも知られている。また、近年はLANTIS社によって、『DOMESDAY―ドームズデイ―』、および新作長編『DEATH-TECH』は英語版が電子書籍として発表されている。活動舞台を世界へ広げる浦浜圭一郎の今後の活躍から、ますます目が離せない。(岡和田晃)



(PDFバージョン:kakegaenaki_urahamakeiitirou
1.
 旭ヶ丘に警報が鳴り響いたのは22時17分。
 そのとき、ヒデサトは自宅二階の勉強部屋で、紙のノートに漢字を書き付けていた。明日の期末テストに備えて『国語』の勉強中だったのだ。
 卓上灯だけ点して部屋の中を暗くすると、障子を開けたベランダ窓から、月と星座を浮かべた夜空が見える。夜更かしするのは立派な校則違反だったにもかかわらず、ヒデサトは、こうして月を見ながら勉強するのが好きだった。軍人気質で厳格だった母には度々咎められたが、父は「月明かりの下で勉学に励むなんて風流じゃないか」と庇ってくれるのが常だった。けれども今は、咎める人も、庇ってくれる人も、この家にはいない。両親が相次いで真(まこと)の死を遂げて以来、三つ歳の離れた弟、トウタと二人暮らしだ。
 サムライらしくない感傷を振り払い、先月16才の元服式を終えたばかりの少年は、いにしえの象形文字を描く筆先に意識を集中させようとした。それにしても…昔の人々は、いったいどうやって、こんな複雑怪奇な記号を小さく手書きできたのだろう? 神経遺伝子強化も全く受けず、機械の力も借りないで…。
 千年前の人間に習得できた技能が、おまえたちに習得できないはずがない。そう教師たちは言うけれど、習字にかぎらず、栄えあるヒノモト・サムライ・スクール(H.S.S)が生徒たちに叩き込もうとする「いにしえの技能」の中には、ただの伝説じゃないのかと疑わせる技も多々あった。そもそも、教師たちの言う「いにしえ」とは、いつの時代だ? 正確な記録装置も存在せず、正真正銘フラット(未改造)な人間の伝聞のみに頼って歴史が書かれていた時代、「外」のデジタル擬人(トランスヒューマン)たちが言う『先史時代』か?
 リプレイできない歴史は歴史ではない、そう擬人たちなら言うことだろう…。
 おっと、これでは敵性ミームに感染したと言われかねない。あわててヒデサトは頭を振ると、気分転換に月でも愛でようと窓の外に目をやった。そこで初めて夜空に起こった異変に気づき、気づくと同時に…警報が鳴り出しのだ。

 傷ついた満月が、真っ赤な血を滲ませている。

電子総合文藝誌『月刊アレ!』 Vol.18

(文責:片理誠)

『月刊アレ!』 Vol.18

 電子総合文藝誌『月刊アレ!』の2013年2月号は 【日本SF作家クラブ50周年記念小説特集】 と銘打たれたSF大特集となっております。

 巻頭対談のゲストとして瀬名秀明さんが登場され、『大空のドロテ』の創作秘話やSFに対する思いを語られている他、日本SF新人賞や小松左京賞の出身者(13名)が「消失!」を共通のテーマに設定して短編SFの競作にチャレンジしております! 各人各様、13通りの「消失SF」の妙味をご堪能くださいませ!