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「ウォータークラフト」田丸雅智


(PDFバージョン:watercraft_tamarumasatomo
「もっくん、遊びに来たよ」
 チャイムを鳴らすとお母さんが出てきたから、ぼくはしゃんと背を伸ばして言った。
「こんにちは。もっくんいますか?」
 お母さんはにっこり笑って、二階にどうぞと通してくれた。
 もっくんは、ぼくの親友のひとり。
 他の人とはちがう自分の世界をいっぱい持っている人だから、一緒に遊んでいてとっても楽しい友達だ。これまでも、いろんな知らない世界のことをぼくはたくさん教えてもらってきた。
 ものを作ることの楽しさを教えてくれたのも、もっくんだった。もっくんは、釣りで使うルアーなんかも自分で作ってしまうほど。
 ルアー作りは、バルサというやわらかい木をナイフで削るところからはじまる。はじめは粗く、途中からは細かくバルサを削って少しずつルアーの形――小魚の形を整えてやる。次に、出来上がったものにエアブラシでいろんな色を吹きつけて、ダークなものからカラフルなものまで自由自在に好きな模様を生みだしていく。ときには、あわびの殻を砕いた七色に光る粉をふりかけたりもしながら。塗装がすむと目を入れて、最後に色落ちしないように透明な液に何度もひたしてコーティングすると、ピカピカに輝くオリジナルのルアーの完成という具合。
 もちろんぼくのは、もっくんの作るプロみたいなのにはまだまだ遠く及ばないけど、こうして出来る世界で自分だけのルアーは見ているだけでうっとりするほどきれいなものだ。
「形には命がやどるんだ。これが造形美ってやつさ」

「橋の下」田丸雅智


(PDFバージョン:hasinosita_tamarumasatomo
 窓の外には見事なオーシャンビューが広がっていた。
「うわぁぁ」
 と、ぼくは思わず感動のため息をもらす。
 青い空に、白い雲。太陽の光を受けてキラキラと照り輝く海。そして、瀬戸内に広がる緑の小さな島々……。
 絶景とはこのことだなぁと、ぼくは強くそう思った。すっかり言葉をなくしてぼんやり景色を眺めていると、遠くのほうを大きな船がゆったり通りすぎていった。
「そんなに驚いてくれたなら来てもらった甲斐があったよ」
 いとこのサトシくんは、うれしそうに言った。
「ほぉよ。わしもつくった甲斐があったというもんよ」
 つづいてじいちゃんも、おんなじようにそう言った。
 ぼくは、じいちゃんのつくったマンションの一室、サトシくんの新居に遊びに来たのだった。

「らせん階段」田丸雅智


(PDFバージョン:rasennkaidann_tamarumasatomo
 学校から帰ると、鉄工所から賑やかな声が聞こえてきた。
 どこかのえらい人たちが視察というやつに来ているのかなと思ってのぞくと、白いツナギを着たたくさんの人たちで作業場はいっぱいになっていた。
 アルバイトの人でも雇ったのかなと考えながら作業場に足を踏み入れた瞬間、ぼくは横から出てきた人と、あやうくぶつかりそうになった。
「ごめんなさい」
 とっさにあやまってそちらに目をやって、驚いた。
 いつの間に設置したのか、鉄工所の中には十メートルくらいのらせん階段がそびえ立っていた。そしてそこから、あいだを空けて順々にたくましい身体をした男の人たちが降りてきていたのだった。
 その人たちは、らせん階段から降りてくると順に並んで作業台に置かれた何かの部品を流れ作業で組み立てていた。流れ作業といっても、不思議なことに流れているのは部品のほうじゃなくて人のほうだったのだけど。

「空中ブランコ都市」田丸雅智


(PDFバージョン:kuuchuuburannkotosi_tamarumasatomo
 じいちゃんは、ここのところずっと忙しくしてる。だから、学校から帰ってきても仕事に出かけて居ないことがとっても多い。
 こうやって休みの日に鉄工所にやってきたのも、今日くらいはじいちゃんも家にいるだろうと思ってのことだった。
「ばあちゃん、じいちゃんは?」
 鉄工所の二階が、じいちゃんの家になっている。
 ぼくは、台所で割烹着姿になっているばあちゃんに聞いてみた。
「さあ、屋根の上にでもいるんじゃないかしらねぇ。ちょっと外にでて見てみたら?」
「今日も仕事なの?」
「みたいねぇ」
 溶接用のマスクをかぶったじいちゃんは、鉄工所の屋根にのぼって青白い火花をバチバチと散らしているところだった。
「じいちゃん、何やってんのー?」
 大きな声で聞いてみた。バチバチバチッと火花が散る。
「じいちゃんってばーっ!」
「おお、来たんか」
 と、マスクをとってじいちゃんが言った。
「すまんが、もうちょっと待ってくれ。もう終わるから」
 また少しのあいだバチバチバチッとやってから、じいちゃんはするすると梯子を降りてきた。
 一緒に家のなかへと戻ると、ばあちゃんがお菓子を出してくれた。
「すまんかったな。ここのところ忙しくての」
「何の仕事なの?」
「国から、ある壮大な実験の音頭をとるよう頼まれてな」
「国!?」

「アシュラジャケット」田丸雅智


(PDFバージョン:ashurajyaketto_tamarumasatomo
「じいちゃん、これなに?」
 とぼくが尋ねると、油のついた白いツナギを着たじいちゃんは得意そうにこう言った。
「アシュラジャケットのことじゃな」
 ここコイケ機械鉄工では、日夜、妙なものが生み出されつづけている。
 くるりと丸まった鉄くずの散らかる工場の隅には、いつの間にかアルミのハンガーラックが置かれていた。そしてそこには、黒いジャケットがずらりと何着も並んでいる。
「アシュラジャケット?」
「ほぉよ」
「またじいちゃんが発明したの?」
 ぼくが背を伸ばしてそれを手にとろうとすると、じいちゃんは慌てて止めに入った。
「おっと、さわっちゃいかん。まさにはまだ早いからの」

「アームくん」田丸雅智


(PDFバージョン:aamukunn_tamarumasatomo
「ふんっ、ふんっ」
 と、汗を流してダンベルを上げているのは、見上げるほどにとっても大きな生体クレーンのアームくん。彼はクレーンでありながら、ヒトの片腕と同じような姿をしている。アームくんは、じいちゃんが発明した最先端のクレーンなんだ。
 じいちゃんは、コイケ機械鉄工という鉄工所をやっている。鉄工所という名前がついてはいるけど、興味があれば鉄をつかわず何でもつくってる。若いころに独立したじいちゃんはすぐに頭角をあらわして、すばらしい発明品を次々に生みだしてきたらしい。
 鉄工所の二階はじいちゃん家になっていて、ぼくは毎日、学校が終わるとお父さんかお母さんが迎えにくるまで鉄工所で遊んでる。ロウセキっていうチョークみたいな白い石で地面に絵を描いたり、強力な磁石で鉄くずを集めてみたり。それにあきると、じいちゃんの仕事の様子をのぞきにいく。
 じいちゃんがこのごろ発明した最新作。それが、このアームくん。

「浦島さん」田丸雅智


(PDFバージョン:urasimasann_tamarumasatomo
 村では、浦島という男のことが話題にのぼっていた。
「亀にのった人がふらっと海から出てきてな。手に持った箱を開けたとたんに、モクモクと煙が立ちのぼったんじゃ。すると、さっきまで若者だったのが、とたんに老人に変わってしもうた」
「まさか。ボンじい、気はたしかかい? ボケはじめたんじゃないのかな」
「こらポン太。この減らず口の若造めが。年寄りの言うことには耳を傾けるもんじゃ。バカにするとロクなことにならんぞ」
 ポン太は、本当は老人の言葉をすぐにでも信じたいくらいだった。だが、それゆえに、彼は情報の真偽を確かめるのに、より慎重になっていた。
「気を悪くしたのなら謝るよ。で、その浦島って若者……いや、じいさんは、どこにいったんだい」
「それがの、村はずれのあばら家に入っていったところまでは見届けたんじゃが。翌日あらためて訪ねてみると、もうもぬけのからじゃったわい」
「証拠はなし、か」
「おぬし、まだわしをボケ扱いする気か」
 ボンじいを怒らせないよう、そこでポン太は話を打ち切った。

 ポン太は、日ごろから歳をとることに異常なほどの憧れをもっていた。
 その理由はいくつかあったが、第一に、年寄りは仕事をしなくていいからだった。

「印鑑騒動」田丸雅智


(PDFバージョン:innkannsoudou_tamarumasatomo
 おかしな事件はいつだって何の前触れもなく訪れるものだけれど、こと印鑑騒動に関しても、誰に予見されることもなく、とつぜん始まったのだった。
 それが私の身に最初に降りかかってきたのは、会社で交通費の精算をしているときのこと。提出した書類に不備があるといって、私は事務長から呼び出されることとなったのだった。
「いつも通りにやったはずなんだけどなぁ」
 と、私はぶつぶつ呟いていた。すると事務長は、
「まあ田丸さん、ここをよくみてくださいな」
 ヒステリック気味に、人差し指で書面をトントン。見ると、捺印欄が空欄のままになっている。
 私は、ただただ首をかしげるばかり。
「あれ、確かに押したはずなんですが……」

『夢巻』田丸雅智





書名:『夢巻』
作者:田丸雅智
出版社:出版芸術社
出版日:2014年3月25日
ISBNコード:4882934582
価格:1,470円

 この度、出版芸術社さんから初の作品集『夢巻』(ゆめまき)を刊行していただける運びとなりました。

 本作はショートショート(以下、SS)20編からなるSS集で、Prologue Waveで掲載していただいた作品も多く収録しております。新井素子氏、大森望氏、瀬名秀明氏、東雅夫氏、牧眞司氏の5名の方から推薦文をいただくこともでき、月並みですが感謝の言葉しかございません。

 本作には、単なる現実逃避に終わらない、たくさんの人たちの日常の原動力となりうるような作品。そういうものを目指して書いた不思議な作品を詰めこみました。ぜひ隙間時間にでもご笑覧いただけますと幸いです。

「人材派遣」田丸雅智


(PDFバージョン:jinnzaihakenn_tamarumasatomo
「社長、来客です」
「例の人物か。あの会社からの推薦とあれば、会わないわけにはいかないからなぁ」
 私は、やれやれと腰をあげる。
 最近は訪問者が多くて対応に困ってしまう。どこで聞きつけてくるのか、業績が伸びはじめてから急に訪問するやつが多くなった。はじめのころは、誰も相手にしてくれなかったというのに。世の中、現金なものだ。
「これはこれは。お初にお目にかかります」
 応接室に入ると、男が立ちあがった。温和な表情を浮かべているが、目は笑っていない。抜け目のなさそうな印象の男だった。
「どうも。それで、何のご用件でしょう」

「客観死」田丸雅智(画・山田祐基)


(PDFバージョン:kyakkannsi_tamarumasatomo

「あいつは、もう死んでいるんじゃないか」
 そういう噂が社内に広がりはじめたのは、つい一週間ほど前のこと。
 一度声があがってしまうと、社内に噂が広まり切るのにそう時間はかからなかった。みながうすうすそう思っていたのだ。
「徹夜明けでも、あくびひとつしない」
「いくら飲んでもつぶれない」
「歩き方が妙に軽やかだ」
 関係あろうとなかろうと、噂はだんだんエスカレート。広まるにつれて次第に真実味を帯びていった。 
「壁をすり抜けているところを見た」
 そういうことも、まことしやかに囁かれるようになった。

電子フリーペーパーMAGASTORE MAGAZINE 27 「星祭り ショートショートの、いま」田丸雅智、江坂遊


http://www.magastore.jp/product/8093

【内容紹介】
ショートショートについて分かりやすく解説した電子フリーペーパー。

星新一氏の没後、衰退の一途をたどってきたショートショート。
その窮状にも屈せずショートショートを書き続けてきた作家たちに新世代の作家たちを加え、いま新しく動きはじめたショートショートの現状を、各作家の作品をまじえながらご紹介。

≪掲載作品≫
★井上雅彦「碧い夜が明けるまで」
★江坂遊「産月譚」
★田丸雅智「月工場」
★三川祐「ただ一つの物語」
★星マリナ「星新一のスター★システム」(エッセイ)

≪目次≫
☆はじめに
☆ショートショートって?
☆星新一って?
☆ショートショートの、いま
☆ショートショートを読んでみよう
☆おわりに

タマル マサトモ


田丸雅智(たまる まさとも)
1987年、愛媛生まれ。
2011年12月、光文社文庫「物語のルミナリエ」に「桜」が掲載され作家デビュー。2012年3月には、樹立社ショートショートコンテストで「海酒」が最優秀賞受賞。
電子雑誌プラットフォーム「マガストア」にて、電子フリーペーパー「MAGASTORE MAGAZINE 27 ショートショートの、いま」をリリースするなど、若手ショートショート作家を代表するひとりとしてショートショートの復興に尽力している。

「江坂遊、田丸雅智とショートショートを語り合う」江坂遊

(PDFバージョン:shortshortwokatariau_esakayuu
―――ショートショートでしかできないことは何だろうと、よく考えます。

このインタビューは樹立社から刊行予定の「小さな物語のつくり方2」第二章のショートショートヴァージョンです。ロングロングヴァージョンは単行本でぜひともお楽しみください。(江坂遊)


江坂「田丸さんと出会えて本当に良かったなと思います。わたしは星さんに見つけていただきましたが、その恩返しを十分にできていませんからね。そこに継承者が現われたのですから嬉しくて仕方がない。だいたい、二代目はダメで没落させてしまい、三代目でしっかりした継承者が出て、政権は確立するものですから。(笑)チャンスですね。わたしは大阪で太平の夢を見過ぎてしまいました。現在は東京に住まわれているのですよね、・・・・・・。」

田丸「出身は愛媛県ですが、大学からは東京住まいです。拙作「海酒」(樹立社ショートショートコンテスト一等星受賞作品)に出てくる「三津」という地名は、故郷の名前から取りました。」