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「石故事」立原透耶

(PDFバージョン:isikoji_tatiharatouya
(これはツイッターで過去に発表された物語で、140字以内に収められています)


 文フリ札幌で素敵な一冊に出会った。一冊ずつに異なる石が入っていて、それを選べるというもの。わたしは一目惚れした、骨のような石を選んだ。
 この本を買った人は一人一人、異なる夢を見るのだろう。50部限定とのことなので、勝手ながら50作書いてみようと思う。

「夢を見た」立原透耶

(PDFバージョン:yumewomita_tatiharatouya
『第一話』

 夢を見たの、と彼女は口元だけかすかに笑った。
 あなたがいてわたしがいて小さな子供がいたの。
 それは素敵だね、と僕は答えた。
 小さな子供は彼女の願望だろうか。
 僕は彼女の手を握った。
 彼女がうっすらと笑みを頬にまで広げた。
 あなたがいてわたしがいて……。
 ほら、小さな子供もいるわ。
 不意に心の臓がひやりとした。
 振り向くことができなかった。

「紅包 ~赤い祝儀袋~」立原透耶

(PDFバージョン:honnpao_tatiharatouya
(台湾の民間信仰にインスパイアされた話)



『婚約者』

 夕暮れ時に散歩していると、不意に道端に赤い小さな封筒が落ちているのが目に入った。拾おうと片手を伸ばしたところ、その手をひんやりした小さな手がそっと抑えた。
 顔を上げると、幼い女の子が立っている。道端の封筒を指差して黙って首を横に振る。あまりにも泣きそうな顔をしていたので、けっきょく封筒には手をつけず、その場を後にした。

「椿」立原透耶

(PDFバージョン:tubaki_tatiharatouya
 新聞に目を通していたら、不意に耳側でぽとり、と何かが落ちる音がした。
 昨日、庭から摘んできた椿の頭が落ちたのだろう。

 顔を上げようとして気がついた。

「一筋」立原透耶

(PDFバージョン:hitosuji_tatiharatouya
 長い黒髪が一本、落ちている。
 おかしい。自分は短く刈り上げて久しい。この部屋には自分しかいない。
 毎日綺麗に掃除している。
 それなのに、落ちている。
 一筋の長い黒髪。
 昨日は味噌汁の中に浮かんで、まるで蛇のように身をくねらせていた。
 今日は枕の上に一本、恥じらうかのように身を横たえていた。
 半年前は、どうだったろう。
 黒髪を指でつまみ、そっと口に含んだ。

「妙なる調べ」立原透耶

(PDFバージョン:taenarusirabe_tatiharatouya
 きつくきつく食いしばった歯の隙間からぴう、という音が漏れた。
 それは男が探して探して探し求めて、それでも得られなかった、美しい音を奏でていた。
 これこそが至上の音楽。
 その音を魂に刻み込むため、男は女を、子供を、年寄りを、美しいものを、醜いものを、一つ一つ丁寧に、その首を締めていった。

「ガシャン」立原透耶

(PDFバージョン:gashann_tatiharatouya
 美味そうな匂いがしたので、飛び込んだ。
 背後でガシャンと扉の閉まる音がした。
 しまった、罠だったのだ。
 悔しさのあまり歯噛みしていると、背後から気配がした。
 なにかが近づいてくる……。

「面接試験」立原透耶

(PDFバージョン:mennsetusikenn_tatiharatouya
 しかめっ面をした顔、顔、顔。
 緊張して僕は膝の上に置いている手をぎゅっと握りしめた。
「簡単な質問だ」
 と中央のメガネが言った。
「君は……を殺したことがあるかい?」

「種蒔くひと」立原透耶

(PDFバージョン:tanemakuhito_tatiharatouya
 ある日、学校からの帰り道、不思議な人に出会った。その女性は真っ黒な服につばの大きな帽子、サングラス、マスクをして、手袋もしていた。

 なにをしてるの?

 と尋ねたぼくに、おねえさんは掠れた声で答えてくれた。

 種を蒔いてるの。こうやって世界中を旅しているのよ。

 おねえさんの足元の土は湿っていて、掘り返して埋めなおした跡があった。

 素敵だね! なんのタネ?

「代返」立原透耶(画・YOUCHAN)

(PDFバージョン:daihenn_tatiharatouya

 大学なんてくそったるい。一般教養だって? フザケンナ。そんなもんサークルやバイトの方が身につく。親は大学を出ないとダメだっていうが、大学を出たところで大した職につけるとも思えない。一流大学いやせめて二流ならまだ話は違うんだろうけどな。こんな底辺校じゃあ意味なんかない。先輩の話によると、問い合わせを出しても資料すら来ないらしい。くそったれ。
 しかもさ、ムカつく教師がいるんだよな。あの語学のババア。「欠席回数が5回になったら自動的に単位はなくなります」だと。毎回毎回小テストしやがって、中学生かっつーの。テストを受けないと出席にならないし、かといって授業開始直後のテストだけ提出して教室を抜け出すわけにもいかない。授業の途中と終わりに、わざわざ名前を呼んで出欠確認しやがる。クソだるい。フザケンナよ。おれたちは、てめえみたいに老い先短いババアと違って、やることがたくさんあるんだ。タバコ吸ったり酒飲んだりダチと遊んだり……たまにナンパに成功したり。
 今日も不満タラタラ椅子に座っていたら、右端のポニーテールのちょっと可愛い……渡辺なんとかっていう女子が、テストを提出した後、すうっと扉から出て行くじゃねえか。おいおい、だったら最初からサボった方が得だぜ、後2回、名前を呼ばれるんだ。
 そう思って教科書に落書きしたりスマホをいじったりしていると……授業開始後45分ぴったり、始まった。ババアが70人の名前を淡々と呼び始める。
「ウィース」
 仕方なく返事する。
 渡辺なんとかさんの名前が呼ばれた。ほら、な。
 ところが、だ。
「はい」
 とても爽やかな声が響いた。
 まじ?

「花嫁」立原透耶(画・YOUCHAN)

(PDFバージョン:hanayome_tatiharatouya

 ある娘が神に愛された。娘は神を畏れつつも、強く魅せられた。その娘はたいそう美しかったから、あちらこちらで評判になり、ついにある金持ちの跡取り息子に見初められた。
 村人たちは、娘は神の嫁になるのだと断ったが、目の前に大金を積み上げられ、誰も断る言葉が喉から出てこなくなった。娘の両親も、神よりも金持ちの人間に嫁げ、と娘を諭した。
 娘は少しずつ一族の刺青を彫り始めていたが、これも中断された。金持ちの息子は内地からやってきた一族で、娘たちとは種族が異なった。彼らは娘の白い肌、柔らかい手触りを好んだ。刺青を嫌っていた。それで娘は、ほとんどの刺青を断念し、手の甲に少しだけ彫ったまま、嫁ぐことになった。
 刺青がなければ、死後に一族の者がわたしを見つけてくれるかしら、と娘は壁にかけられた花嫁衣装を眺めながら涙をこぼした。

タチハラ トウヤ

立原透耶 (たちはら とうや)

1991年コバルト読者大賞受賞。翌年文庫デビュー。FT中心だったのが、気がつくとホラー・怪談中心な日々に。小学校の文集では「夢はSF作家、好きな作家はエドモンド・ハミルトン」と書いていた。表家業は中国関係の先生。最近は『ひとり百物語』シリーズ(メディアファクトリー)中心、でもたまに中国SFの翻訳や紹介もしてます。支配者さまは現在2ニャン。

「支配者種族と奴隷の日常」立原透耶

(PDFバージョン:sihaishashuzokutodorei_tatiharatouya
【自己紹介】
 我が輩は支配者種族である。地球という惑星で最も崇高な生き物であり、奴隷にかしづかれて生活している。奴隷は一人暮らしの売れない三文作家で、口癖のように「仕事がない」と呟いておる。我が輩の生活を支えるためにも、しっかりと働いてほしいものだ。
 我が輩はまもなく4歳になろうとする猫、ラグドールという種族の元男である。奴隷めが、健康によいのよ、などと申して、我が輩をだまくらかし、病院に連れて行き……哀れ、子孫を残すことは不可能な身とあいなった。奴隷めはしばらく我が輩を「宦官」と呼び、「にゃあ」ではなくて「ちゃあ」とこたえるのだと笑いものにしておった。なんでも古の中国では、宦官は「ちゃあ」と返事していたそうな。
 我が輩が奴隷の元にくるきっかけになったのは、えすえふ作家の林穣治氏なる者のブログである。そこで氏の支配者ココベン殿の写真を毎日ためすがえす眺めている間に、奴隷めは見事に洗脳にかかったわけである。そこで、まったく同じ種類、同じ毛並みの我が輩を支配者として迎え入れた、とこういういきさつである。