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「卵巣後宮(らんそうこうきゅう)」間瀬純子


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(作者より)

 【残酷描写がありますのでご注意ください】

 この作品は、筆者の連作『異境クトゥルー譚』(仮名)のなかの一編です。
 また直接には『ナイトランド・クォータリー新創刊準備号 幻獣』(アトリエサード刊)掲載の、拙作『血の城』のスピンオフ作品になります。






 後宮は世界を美しく模していた。
 世界とは心帝国が統べる中渦平原である。
 帝国の長は神にも等しい虹玉帝(こうぎょくてい)猊下だ。
 世界の外にも陸があり、人めいた生き物も住んでいるが、猊下の徳にあずかれぬ彼らは心を持たない。
 私は、虹玉帝猊下の坐(いま)す後宮にあまた侍る帝妃の侍女であった。お仕えするのは、第三十七帝妃、鉛涯樹(エンガイジュ)王国の忠姫(ただひめ)さまである。
 私は鉛涯樹王国の農民の娘だ。名を宏根(ひろね)という。従妹で幼馴染みでもある宏葉(ひろは)とともに、忠姫さまに順って後宮まで参った。
 私も宏葉も、嫁ぎも子を産みもしない。
 とはいえ、鉛涯樹王国では王族以外の女人は文字を習うことはないのだ。文字を覚え、世界の中心たる都まで来て、我が姫の支えとなれるのである。私たちは珍しくも尊い一生を与えられたのではなかろうか。

「金星、地獄の動物園」間瀬純子


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 ソネリルは遠からず砂漠に飲み込まれるだろう。
 私は飛行機で四十八時間かけて、ソネリルに来た。もうずいぶん前のことだ。私は日本に帰れなくなった。
 物価は安いので、手持ちの金で暮らしていけるが、もう、帰りの飛行機の切符を買えないのだ。日本までの切符は、ソネリルの人々の数十年ぶんの収入に当たる。
 日本にいるはずの家族に連絡して、送金してもらおうかと考えたこともある。が、何度、電話しようとしても、実家の電話番号が思いだせない。

「ツツジの長い午後」―豆腐洗い猫その9―間瀬純子


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『読めば読むほどむなしくなる! かわいい猫の妖怪、豆腐洗い猫の悲惨な冒険』

 前回までのあらすじ/六十二本のツツジを挿し木された豆腐洗い猫は、『ツツジ猫ATM』に改造され、△△銀行つつじヶ丘支店に設置された。


一、ツツジ猫ATM


 猫の肛門用インクカートリッジは珍しいようだが、じっさいには、近所の文房具屋さんでも売っている。
 前回、ツツジ猫ATMに改造された豆腐洗い猫は、ATM製造会社の人によって、猫の肛門用インクカートリッジを肛門に挿入され、東京都調布市つつじヶ丘にある△△銀行つつじヶ丘支店に設置された。

 ツツジ猫ATMの構造を説明しよう。なにより重要なのは猫の肛門用インクカートリッジである。ツツジ猫ATMは、入金、振込、通帳記入といった難しい作業はできない。猫のかわいさと機能性は両立しないのだ。

「怪奇植物ツツジの侵略」―豆腐洗い猫その8―間瀬純子


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『読めば読むほどむなしくなる! かわいい猫の妖怪、豆腐洗い猫の悲惨な冒険』


 前回までのあらすじ/豆腐洗い猫は、背中にツツジの枝を六十本挿し木され、生い繁ったツツジになかば体を乗っ取られている。


一、調布ツツジ『サイコパス調布』の誕生


 人類や豆腐洗い猫は、徹底的に植物のご機嫌を取り、媚びへつらわなければならなくなった。
 豆腐洗い猫の背中に生えた六十本の久留米ツツジが言う。「人類よ、猫よ、君らはいったい誰のおかげで呼吸できとうと思うとんや!」
 それはまったくもっともであるのだが、かつて植物がそのような主張をしたであろうか? 何故そうなったか、今後二回にわたって、その悲劇的な経緯を追っていってみよう。

「ホテル豆腐洗い猫」―豆腐洗い猫その7―間瀬純子


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『読めば読むほどむなしくなる! かわいい猫の妖怪、豆腐洗い猫の悲惨な冒険』

 前回までのあらすじ→ 豆腐洗い猫は久留米ツツジ六〇本を背中に挿し木され、ツツジになかば運動神経を乗っ取られている。
 

一、豆腐洗い猫・悪口の間(ま)

 
 世界各国の都市にあるホテル、どこの都市であろうとホテルのうち一軒には、或る空間が存在する。
 洗いたてのシーツや枕カヴァーを積んでおくリネン室、フロントのキーの保管所、貴重品入れ、従業員用エレヴェーター、そういった、利用客が意識しないホテルならではの設備の合間に、ひっそりとそれはある。
 仮面をつけた人々が深夜につどう。ホテルで行われ得るどんなエロティックな行為よりも刺激的に……背徳的に……、人々はその空間で、或る行為に熱中する。

「クリスマスの発祥」―豆腐洗い猫その6― 間瀬純子


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『読めば読むほどむなしくなる! かわいい猫の妖怪、豆腐洗い猫の悲惨な冒険』

 前回までのあらすじ/豆腐洗い猫は、背中にツツジの枝を六十本挿し木された。


一、幻覚街

 
 捨てられていた子猫の時、冬の冷たい雨の日だった。
 公園の植え込み、常緑の久留米ツツジのこんもりした株の下に、子猫はうずくまっていた。
「雨音は雨がやむまでやまないにゃー」と子猫はさびしく思った。ぎっしりついたツツジの葉っぱが冷たい雨を遮り、今にきっと良いことがあるよと励ましてくれた。

「地獄のクリスマス」―豆腐洗い猫その5― 間瀬純子


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『読めば読むほどむなしくなる! かわいい猫の妖怪、豆腐洗い猫の悲惨な冒険』


一、地獄の葉緑素


 豆腐洗い猫は、上司である一神教の神によって、宇宙の公団住宅の地下にある地獄に派遣されることになった。
 
 そのいきさつはこうである。
 一神教の神は宇宙の公団住宅の一階に住んでおられた。一神教なので一人暮しで、お部屋は簡素であった。豆腐洗い猫は庭のすみっこに宅配ピザの空箱を敷いて寝床にしていた。
 庭に、色々な種類の『つる植物』が生え広がってきたので、下僕の豆腐洗い猫はせっせと草むしりをした。
「取っても取っても生えてくるにゃー」と猫はひとりごとを言った。

「豆腐洗い猫その4 『豆腐洗い猫トーテム』」間瀬純子


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『読めば読むほどむなしくなる! かわいい猫の妖怪、豆腐洗い猫の悲惨な冒険』


 トーテム【totem】
社会の構成単位となっている親族集団が神話的な過去において神秘的・象徴的な関係で結びつけられている自然界の事物。
主として動物・植物が当てられ、集団の祖先と同定されることも多い。(広辞苑 第五版 (C)1998,2004 株式会社岩波書店)


一、雛祭りの午後の優美な豆腐洗い儀式


 豆腐洗い猫をトーテムとする一族などが繁栄するはずはなかった。
 幡倉真弓(はたくら・まゆみ/人間/オス)は、豆腐洗い猫を崇拝する一族の末裔であり、現在、彼の知る限り、唯一の生き残りだった。
 幡倉真弓の、何となく立派な名前から察せられるとおり、幡倉家は、かつては明治の元勲の親戚の出入り商人の番頭という栄華を手にしていた。山手線の内側に建つ、広壮な屋敷で過ごした少年時代を、真弓は夢のように覚えている。

「悪い星」―豆腐洗い猫その3―間瀬純子


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『読めば読むほどむなしくなる! かわいい猫の妖怪、豆腐洗い猫の悲惨な冒険』

一、宇宙の公団住宅の一神教の神


 宇宙の公団住宅の、その神の部屋にはほとんど荷物がない。蛍光灯が点滅している。ふすまがはずれた押し入れには布団もなく、棚板には昔の新聞紙が敷いてある。一面トップは『浅間山荘事件』だ。すべての窓ガラスは割れ、畳は黄色くなっている。
 その神の部屋は十四号棟の一階であった。ゆがんだアルミサッシ越しに見える狭い庭の真っ黒い濡れた土には、苔が生えていて、六畳の部屋の点滅する蛍光灯が苔の緑を鮮やかに照らした。
 庭には、ピザの包み紙や丸めたレシートが落ちていた。

「豆腐怪獣トフラーと行く銀河鉄道の終点」―豆腐洗い猫その2― 間瀬純子


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『読めば読むほどむなしくなる! かわいい猫の妖怪、豆腐洗い猫の悲惨な冒険』

 一、薄気味悪いほど眩しい豆腐ユートピア


 空港から、その湖までは、定期的にバスが出ている。バスの名前は『豆腐洗い湖号』だ。真新しい水色の車体には、四角い豆腐の絵が大きくペイントされている。
 世界中から集まったバックパッカーたちが、リュックサックを背負い、いきおいよくバスに乗りこんできた。乗客たちの中には、恋人どうしもいるし、子連れやペット連れの人もいる。一人で来た人もたくさんいるが、あっという間にみんな友達になる。
 バスが発車すると、後部座席で、ロック青年のすっとんきょうな声がした。「あなたは! 『スクリーミング・トーフ・クイーンズ』の……」

「夜の豆腐洗い湖」―豆腐洗い猫その1―間瀬純子


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『読めば読むほどむなしくなる! ばかばかしくて、ものがなしい連作小話』


 むかしむかし、豆腐を洗う猫の妖怪がいました。猫ちゃんは、豆腐洗い猫と呼ばれています。これから延々と語られるのは、この『豆腐洗い猫』のサーガ・叙事詩である。

 さて、豆腐洗い猫は、毎日、豆腐屋さんの厨房で、水槽の中に、手というか両前足を突っこんで、豆腐を洗っています。しかし、猫の手からはするどい爪が飛びでているので、しょっちゅう豆腐にひっかき傷をつけてしまいます。

マセ ジュンコ


間瀬純子(ませじゅんこ)
昭和42年(1967年)、東京生まれ。幻想/嫌な感じの小説を制作。
1996年、別名義にて、小説JUNEに作品が初めて掲載される。
2005年に、短編「新しい街」が第五回異形コレクション公募最優秀作品賞受を受賞。
http://masej.blog.fc2.com/
お仕事お待ちしております。