(PDFバージョン:rannsoukoukyuu_masejyunnko)
【残酷描写がありますのでご注意ください】
この作品は、筆者の連作『異境クトゥルー譚』(仮名)のなかの一編です。
また直接には『ナイトランド・クォータリー新創刊準備号 幻獣』(アトリエサード刊)掲載の、拙作『血の城』のスピンオフ作品になります。
一
後宮は世界を美しく模していた。
世界とは心帝国が統べる中渦平原である。
帝国の長は神にも等しい虹玉帝(こうぎょくてい)猊下だ。
世界の外にも陸があり、人めいた生き物も住んでいるが、猊下の徳にあずかれぬ彼らは心を持たない。
私は、虹玉帝猊下の坐(いま)す後宮にあまた侍る帝妃の侍女であった。お仕えするのは、第三十七帝妃、鉛涯樹(エンガイジュ)王国の忠姫(ただひめ)さまである。
私は鉛涯樹王国の農民の娘だ。名を宏根(ひろね)という。従妹で幼馴染みでもある宏葉(ひろは)とともに、忠姫さまに順って後宮まで参った。
私も宏葉も、嫁ぎも子を産みもしない。
とはいえ、鉛涯樹王国では王族以外の女人は文字を習うことはないのだ。文字を覚え、世界の中心たる都まで来て、我が姫の支えとなれるのである。私たちは珍しくも尊い一生を与えられたのではなかろうか。