タグ: 青木和

「春の光の遅ければ」青木 和

(PDFバージョン:harunohikarino_aokikazu
 筧の水の出が悪い。何か詰まっているかもしれない。様子を見てきてくれと女房のツタが言うので、仁吉は水を引き込んでいるもとの川まで、筧をたどって裏の山を登った。家の前で倅の太郎が遊んでいたので、声をかけて連れてきた。
 川まではほんの少しの距離だったが、かんじきには湿った重たい雪がこってりとまといついてきて、仁吉はすぐに歩くのに難儀するようになった。
 子供を連れてきたのは失敗だったかと後ろを振り返ると、太郎は、藁の雪靴しか履いていないというのに、まるで雪に足を取られることなどないかのようにさくさくと歩を進めていた。
 立ち止まってもたもたとかんじきの雪をはたき落としている父親を、五歳の小さな体が軽々と追い抜いていく。まとった蓑が大きすぎて、足の先しかのぞいていない。まるで蓑虫が歩いているようだ。
「お父う、遅せえぞう」
 蓑虫は、幼い声で生意気を言う。

「つくもの厄介12 這う女」青木和

 川筋に、人の喉笛に食らいつき殺してしまう絶世の美女が出没。江戸の町に広がる噂は、いくつもの縁を絡めた大事件に。

 川筋に下半身が蛇の絶世の美女が現れ、人を食い殺す。江戸に広がる不穏な噂を背景に、南町奉行・大岡越前守の密命を受け人知を超える事件を担当する同心・蒔田が動く。折しも、絵師・豊志郎は傷ついた鷺から描いた絵に魂が宿る「絵魂」を描いてほしいと懇願されるが……。

「小学館eBooks」のページは こちら


「つくもの厄介11 嘉暮れ里(かくれざと)」青木和

 江戸・某所に忽然と現れた高楼。土笛を吹くと謎の屋根舟が迎えに来る。絵師・豊四郎とその兄を巻き込んだ不思議の正体と顛末は?

 御徒衆・緒方三郎の様変わりした様子を心配した、佐野孝二郎は緒方家の者たちに袋叩きにされた。幻のごとく現れた高楼。土笛を吹くと迎えに来る屋根船。妖の仕業か、狐狸の仕業か? 兄の変事に巻き込まれる絵師・豊志と南町奉行所・人化け担当同心、蒔田要人のコンビが見た正体は?

「小学館eBooks」のページは こちら


「晴れ、ところにより魚」青木 和

(PDFバージョン:haretokoroniyorisakana_aokikazu
「やだ。何これ」
 少し前から、なんだか生臭い匂いがして気になっていた。匂いの元を探して窓から顔を出し、何気なくベランダに目をやって、思わず声が出た。
 ベランダのあちこちに、薄汚れてくしゃくしゃに丸まったビニール袋が落ちていた。五枚か六枚はあるだろう。
 あたしはサンダルをつっかけてベランダに降りると、火ばさみで一枚つまみあげた。日が当たっているところはぱりぱりに乾いていたが、内側の方はまだ湿っていて、わずかな水がぺしょっと滴った。さっきから感じていた生臭さが急にきつくなる。
 匂いの元はこれだ。

「つくもの厄介10 夜泣きの石」青木和

 白昼、狂ったように暴れる薬屋の跡取り息子。赤瑪瑙(あかめのう)の石の中浮かぶ謎の顔。南町奉行・大岡越前守の命で怪異担当同心・蒔田が動く。

 薬屋・大和屋の跡取り息子は白昼の往来で狂ったように暴れ出した。南町奉行・大岡越前守に呼び出された塵塚の王・蒔田要人と絵師・佐野豊四郎、絵魂の妖女・るい。大和屋にあった赤瑪瑙の石に浮かぶ謎の顔を巡って、江戸の町にはただならぬ邪気が漂い始めた。

「小学館eBooks」のページは こちら


「つくもの厄介9 走る唐櫃」青木和

 真夜中に唐櫃が走り出す。死んだ猫がとり憑いたのか? 八丁堀同心・蒔田と絵師・豊志郎の探索が始まる。

 質屋に居ついたるいから、唐櫃が夜中に走り出す怪異の相談が絵師・豊志郎少年のもとに。人化けが起こす怪事件担当の南町奉行所同心・蒔田も乗り出しての探索が始まった。江戸の異界が起こす難事件を解決するユニークな捕り物帳シリーズ、ますます快調。

「小学館eBooks」のページは こちら


「愛しのスノーホワイト」青木 和

(PDFバージョン:itosinosnowwhite_aokikazu
「下がってよい」
 王子様が言うと、心得た小姓は黙って一礼し、静かに扉を閉めて出ていきました。
 扉の外は控えの間で、王子様の寝室を警護する家来たちが夜通し詰めていますが、一度扉を閉めてしまえば、王子様が中からベルを鳴らして呼ばない限り開けられることはありません。
 ようやく一人になった王子様はほっと溜息をつくと、ベッドを滑り降り、ガウンをまといました。燭台を手に、壁のタペストリーに向かいます。
 王子様の部屋には、金糸を織り込んだ豪華なタペストリーが二枚かかっていました。分厚い毛織物であるタペストリーの目的は、もちろん石壁の冷たさから部屋を守るためもありますが、もう一つには扉を隠すためでもあります。
 王子様の部屋には、家来たちの控えの間に通じる、いわば表の扉のほかに、もう二枚の扉がありました。
 狩りの風景を描いたタペストリーの裏にある扉は、お姫様の部屋に通じています。姫とは言いますが、つい先ごろ王子様が妻に迎えられた、未来のお妃様です。まだ十六歳とたいそうお若いため、姫様と呼ばれているのです。
 王子様は狩りの風景のタペストリーをほんの少しの間見つめていましたが、すぐに視線をそらせてしまいました。もう何日も、王子様はお姫様の部屋に通じる扉を開けていません。それは王子としての義務をないがしろにすることであり、よくないことです。しかし、王子様はどうしても、お姫様を避けてしまうのでした。お姫様も、そろそろ不審に思い始めているかもしれません。

「つくもの厄介8 白粉婆」青木和

 日暮れた江戸の町に出没する通称“白粉婆”。人化け専門の同心・蒔田は南町奉行・大岡越前守の命で探索に。

 江戸の町に出没する“白粉婆”の妖怪。死者まで出たと噂が広がり、大岡越前守は人化け専門の南町同心・蒔田に探索を命じる。絵魂を作る絵師の豊志郎や付喪たちが活躍する江戸異界捕り物帳シリーズの第8回。

「小学館eBooks」のページは こちら


「誰か私を眠らせて」青木 和

(PDFバージョン:darekawatasiwo_aokikazu
「猫が死んだの」女は言った。
「仕事が終わって家に帰ったら死んでいたの。お気に入りのベッドで、いつもみたいに丸くなった格好のまま、息だけが止まってた」
「病気?」男は尋ねた。
「そうね。あちこち悪かった。けどもう十七歳だったから、老衰というのかもしれない」
 女は前を見つめたまま短い笑い声をたてたが、ちっともおかしそうには聞こえなかった。
「撫でたらね、まだ温かかったのよ。もう少し待っていてくれたら間に合ったのに。毎日私の帰りを待っててくれたのに、こんな時だけ先に行っちゃうんだから」
 男は、女の笑い声がわずかに震えるのを聞き取ったが、何も言わなかった。男もまた前を見つめていた。フロントガラスに二人の影がぼんやり映っている。車内は暗く、お互いの表情は分からない。
 車の外もまた暗い。正面は海のはずだが何も見えなかった。窓を閉め切ってしまったので、かすかに聞こえていた波の音ももう入ってこない。
「ミャアはね──猫の名前だけど、息子が拾ってきたの。親猫にはぐれたのかしらね、道端で鳴いてたっていってね。汚い子猫だったわ。痩せこけて蚤だらけで、風邪をひいて目脂でぐしゃぐしゃで。私、息子に嫌な顔したの覚えてる」
「猫が嫌いだった?」
「そうじゃないわ。嫌な顔したのは、息子が小さかったから。まだ自分の面倒も見られない年のくせに子猫なんかどうするの、って。でも息子が、触るのもためらっちゃうような猫を可哀想にって抱きしめられる子だということが嬉しくもあった。ちょっぴりね」

「つくもの厄介7 すぐはの鰯」青木和

大岡越前守の警告も空しく塵塚の王こと同心・蒔田要人が襲われ深手を負った。現場には錆びた直刃(すぐは)の刀が残されていた。

南町奉行・大岡越前守から命を狙う者がおると警告された矢先に、人化け取締りの同心・蒔田要人が襲われた。塵塚の王と呼ばれる彼に深手を負わせた襲撃者の正体は? 時代劇シリーズ・つくもの厄介第7話は「すぐはの鰯」。

「小学館eBooks」のページは こちら


「つくもの厄介6 此岸無宿」青木和

豊志郎は釣り上げた水死体の幽霊に付き纏われる。幽霊の訴えが悲劇の母娘を救う大岡裁きに発展。

絵筆を折って悶々とする豊志郎が水死体を釣り上げた。その様子を見ていたお忍びの大岡越前守。この出来事が、幽霊をも巻き込んで悲劇の母娘を救わんとする大岡裁きに発展する。時代劇シリーズ・つくもの厄介の第6話「此岸無宿」。

「小学館eBooks」のページは こちら


「つくもの厄介5 目目の夢」青木和

江戸の酒問屋に現れる賊は、どうやら妖怪らしい。南町奉行・大岡越前守に呼び出された妖(あやかし)担当同心・蒔田は。

酒問屋・楢屋に出没する賊は、どうやら物の怪らしい。震え上がる同心たちに困り果てた江戸町奉行・大岡越前守は深夜、蒔田を呼び出すが・・・。前「九十九神曼荼羅シリーズ」から続く、化け物専門の同心・蒔田要人が活躍する時代劇シリーズ「つくもの厄介」第5話は「目目の夢」。

「小学館eBooks」のページは こちら


「夜の迷走」青木和

(PDFバージョン:yorunomeisou_aokikazu
 〈鳴木(なるき)峠アト20㎞  右10m先巻道アリ〉

 峠の手前で街道をはずれ、巻道に入ったあたりで急に空模様が変化した。ただでさえ薄い星の明かりが雲に覆い隠され、瞬く間に闇夜に変わる。
 誰も聞く者がないのをいいことに、俺は盛大に舌打ちした。
 どうしてもっと早く、町にいる間に曇ってくれないんだ。誰にも見られる恐れがなくなって、これから明かりが必要だって時に暗くなるなんて、意地が悪すぎるぞ。
 だが俺の都合など知ったことじゃないと言わんばかりに、天候はますます怪しくなってくる。フロントガラスに雨の雫が落ちてくるまでに、長い時間はかからなかった。
 巻道というのは、尾根を越えずに山腹を水平に縫って反対側に出る、いわば抜け道だ。登って降りる行程がないので勾配は緩いが距離は長くなる。遠回りになるのを嫌ってか、歩行者はもちろん車ですらほとんど通らない。今夜俺がその寂れた道を通ることにしたのはだからこそなのだが、雑木林の間をうねうねと曲がりくねって伸びる道は、前も後ろも途方に暮れるほど濃厚な闇に包まれていた。
「くそっ」

「なのはにとまれ」青木 和

(PDFバージョン:nanohanitomare_aokikazu
 友達のヒロコが死んだ。
 ひどい死に方だった。
 死んだのはあの子の部屋で、ベッドの中。寒かったのか毛布の下にエマージェンシーブランケットっていうの? アルミホイルみたいな奴。あれでぐるぐる巻きになって横たわってた。
 原因は分からない。突然死みたいな感じらしい。
 信じられなかった。だってヒロコはあたしと同い年でまだ二十代だ。フリーターで、働いたりやめたりしていたのは病気だからじゃなくて、あの子の性格みたいなものだったし。最近失恋して落ち込んでたけど体壊すほどじゃなかったし。
 何か思い当たるようなことはありませんか? って警察の人が聞くから、ダイエットしてたみたいですけど──とか答えたら、納得されてしまった。素人が自己流で無茶なダイエットして、栄養バランスが悪くなって、痩せる前に突然死んじゃう、なんてこと、結構あるらしい。

「つくもの厄介4 鈴ヶ森慕情」青木和

 首切り浅右衛門が試し斬りした罪人は、胴が空っぽだった。奉行・大岡越前守は、塵塚の王こと化け物取締り同心も蒔田要人を召し出した。絵魂美人・るいと素人絵師・豊志郎もからんで、事件はあらぬ方向へ発展する。
 オリジナルのファンタジー&ホラー作品を配信する電子絵ものがたり「九十九神曼荼羅(つくもがみまんだら)シリーズ」。
シリーズ内シリーズ「つくもの厄介」第4弾。

「小学館eBooks」のページは こちら


「つくもの厄介3 百景累が淵」青木和

 絵魂を作って描いたものが絵から飛び出す豊志郎少年。彼が惚れた絶世の美女は、化け物取締り専門の同心・蒔田が追う怪異だった。
 オリジナルのファンタジー&ホラー作品を配信する電子絵ものがたり「九十九神曼荼羅(つくもがみまんだら)シリーズ」。「塵塚の王」と呼ばれる蒔田と素人絵師の豊志郎が活躍するシリーズ内シリーズ「つくもの厄介」第3弾。

「小学館eBooks」のページは こちら


「静かな町で」青木和

(PDFバージョン:sizukanamatide_aokikazu
 靄の白に深く溶けこんでいた藍色がゆるゆると薄れていくので朝を知る。わたしは障子を開けて外の気配に耳を澄ます。白く濁った空気の向こうでまたあの鳥が啼いている。この町に来てから幾度も声を聞くがいまだ目にしたことはない。どんな姿をしているのだろう。高く、細く、尾を引くような啼き方をする。まるで人が泣き叫んでいるようで、わたしは好きになれない。
 鳥の声が途絶えると町はまた静けさに包まれる。やがて靄が薄れ、庭木の影がおぼろに形をとりはじめる。下草はしっとりと露に濡れている。まだ朝は早い。
 わたしは障子を閉めて寝間に戻る。ついたての陰で布団がゆっくりと上下している。眠っている夫を起こさないように、わたしは静かに畳のへりに腰を下ろす。

アオキ カズ

青木和(アオキ カズ)
1961年生まれ、神戸市在住。
2000年、『イミューン』にて第1回SF新人賞佳作受賞。
同作にてデビュー。

「つくもの厄介2 辻斬り赤右衛門」青木和

 次々に犠牲者が出て江戸の町を震撼させる、真っ赤な頭巾姿の辻斬り。その背後に隠れている意外な人物。
 オリジナルのファンタジー&ホラー作品を配信する電子絵ものがたり「九十九神曼荼羅(つくもがみまんだら)シリーズ」。
 旗本三男坊の素人絵師・豊志郎と、化け物専門の同心・蒔田が活躍するシリーズ内シリーズ「つくもの厄介」第2回。

「小学館eBooks」のページは こちら


電子総合文藝誌『月刊アレ!』 Vol.18

(文責:片理誠)

『月刊アレ!』 Vol.18

 電子総合文藝誌『月刊アレ!』の2013年2月号は 【日本SF作家クラブ50周年記念小説特集】 と銘打たれたSF大特集となっております。

 巻頭対談のゲストとして瀬名秀明さんが登場され、『大空のドロテ』の創作秘話やSFに対する思いを語られている他、日本SF新人賞や小松左京賞の出身者(13名)が「消失!」を共通のテーマに設定して短編SFの競作にチャレンジしております! 各人各様、13通りの「消失SF」の妙味をご堪能くださいませ!

「つくもの厄介1 芥生まれのアラ」青木和

 遊里・吉原に突如現れた化け物「手足の生えた魚の骨」の正体とは?豊志郎少年と町方役人の蒔田が吉原を駆ける!
 オリジナルのファンタジー&ホラー作品を配信する電子絵ものがたり「九十九神曼荼羅(つくもがみまんだら)シリーズ」。シリーズ内シリーズ「つくもの厄介」第1回。

「小学館eBooks」のページは こちら