(PDFバージョン:satukinomusha_ootatadasi)

桃玻(とうは)は彼女が生まれる二年前にこの世を去った、と母に聞かされた。この世を去る、という言い回しを当時は理解できなかった。母は教えてくれた。あなたのお兄様は神様に愛された特別な子なの。神様はあの子を傍に置きたくなって、連れて行ったのよ。もう帰ってこないの、と尋ねた璃穏に、母は優しく言った。
「今でも、ここにいるわ。あなたにも会わせてあげる」
その人形は白い覆いを外され、床の間に置かれた。
赤地に金が施された煌びやかな鎧兜に身を包んだ武者。幼いが凛々しさを感じさせる面差しに、璃穏は息を呑む。
「これが、お兄様?」
「ええ、桃玻よ」
「でも、人形でしょ?」
璃穏の屈託ない問いに、母は少し苛立たしげに首を振って、
「……人形ではないの。依り代」
「よりしろ?」