タグ: YOUCHAN
「十二宮小品集1 羊盗難事件」太田忠司(画・YOUCHAN)
(PDFバージョン:12kyuu01_ootatadasi)
「電気羊?」
私は依頼者に聞き返した。
「それは、あなたのものなんですか」
「そうです」
彼は短く答えた。会社支給のスマートスーツに身を包み、同じく支給品らしい黒縁のアイウェアをかけている。年齢は四十歳前後、痩せていて神経質そうな顔立ちをしていた。
「失礼ですが、あなたの職業は?」
答える代わりに彼は名刺を表示した。名前は南部星影夢{なんぶぽえむ}。ツナガ商事食品部部長補佐という肩書が麗々しい。
なるほど、ツナガの役職者なら私のような貧乏探偵と違って、電気羊だろうが電気象だろうが所有できるだろう。私は言った。
「紛失された経緯を教えてください」
「紛失ではありません。盗まれたんです」
「十二宮小品集2 予言する雄牛」太田忠司(画・YOUCHAN)
(PDFバージョン:12kyuu02_ootatadasi)
男は唯一の財産である年老いた雄牛を連れて市にやってきた。
できることなら売りたくはなかった。しかし病に伏せる妻のため、泣く泣く決断したのだった。
陽が昇ってから西に傾くまで男は待った。しかし買い手は現れなかった。
夕闇が迫る頃、男は深い溜息と共に市を後にした。
家へと戻る道すがら、男は家で床に就いている妻を思い、涙を流した。
「お待ちなさい」
声をかけられたのは町外れの四つ辻だった。振り向くと、小柄な老人が立っていた。髪も髭も白く、このあたりでは見かけない奇妙な服を着ていた。
「あんた、市にその牛を売りに来たのかね?」
「怖くないとは言ってない」―第七回 おおむね人を喰ってます― 牧野修(画・YOUCHAN)
(PDFバージョン:oomunehitowo_makinoosamu)
むかしむかし、私が小学六年生の頃。生まれて初めてブルーベリーパイを食べて、これほど美味しい物がこの世にあるのかと感激した。もともと甘いモノは苦手だった。洋菓子は食べなくもなかったが、所詮はショートケーキ止まりだ。当時はパイと言えばアップルパイぐらいしかなかった(いや、まあ、私のような下町のガキの周囲には、という意味ですけどね)。しかもその林檎はえげつなく甘くべしゃべしゃで、あまり好みでもない洋菓子の中でも最下位だった。
パイと言えばそんなものだと思っていたところに、そのブルーベリーパイは現れたのだった。たかだかアップルパイのアップルがブルーベリーに変わっただけじゃねぇかよ、ブルーベリーがなんだか知らねえけどよ。
などと毒づきながら、勿体ないから食ってやるけどよ、と一口。
ああ、なんということでしょう。
甘みは上品に押さえられ、酸味がそれに寄り添い、パリパリとしたパイの食感はわずかばかりのモッチリとした下地の食感と合わさってもうこれは腰を抜かさんばかりの至上の美味しさだった。
もう、パイとパイ方面に向かって土下座ですよ。謝罪会見ですよ。こんなことなら言ってくださいよ、アップルパイの旦那、でげすよ。
そして思った。これを誰に止められることもなく残りを気にすることもなく心ゆくまで食べたいと。
こんな欲望はたいていは大人になると忘れるものだ。ところが私は忘れていなかった。社会人になってからブルーベリーパイをワンホール買って、まるまる食べてみたのだ。すっかり気持ちが悪くなった。スティーブン・キングの作中人物みたいに紫のマーライオン状態となった。つまりいくら美味しくてもワンホールは多過ぎたというのが結論だ。それぐらい食べる前に気がついてもよさそうなものだが。
というわけで、今回は食事がテーマだ。
「2013年3月」『SFWJ 50TH ANNIVERSARY 日本SF作家クラブと手塚治虫』(イラスト:YOUCHAN)
「怖くないとは言ってない」―第六回 ふかい~話― 牧野修(画・YOUCHAN)
(PDFバージョン:fukaiihanasi_makinoosamu)
いくらなんでも時期を外し過ぎとは思いますが、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。
今回は新年第一弾に相応しく「ふかい~話」です。漢字にすると「不快~話」。早い話が厭な話特集。もうすっかり嫌がらせですよ。まだお屠蘇気分が抜けない人々(いるかどうか知らないけど)を奈落の底に突き落とすような話が続きますので、覚悟してください。
「SF Prologue Wave編集部新春のご挨拶」(画・図子慧)
(PDFバージョン:SFPWsinnshunn)
①ペンネーム
②肩書き
③SFPWの編集として新年にあたって一言
④今年のお仕事などの活動予定
⑤SF的アンケート
a.神になって世界のなにかを変えられるとしたら、なにを変えますか?
b.タイムマシンを作るとしたら、どんなルールを作りますか?
c.ペットにしたいクリーチャーは?
⑥一言
「怖くないとは言ってない」―第五回 強い女祭りじゃい!― 牧野修(画・YOUCHAN)
(PDFバージョン:tuyoionnna_makinoosamu)
さわたまき~!
何を叫んでいるのか良くわからないと思いますが、とりあえずプレイガールだのプレイガールQだのと聞くと、ヰタ・セクスアリス的な郷愁気分に浸ってしまう牧野でございます。
ほとんどの方がぽか~んであろうけれども、かまわないのである。そうである。とうとうその日がやってきたのである。
強い女祭り開催だ!!
ひゃっは~!
気分は調子にのってる時の北斗の拳の悪役ザコキャラである。たとえ次の瞬間に頭を爆発させて死ぬのであったにしても、この瞬間は大はしゃぎなのである。
「2012年11月 『日本SF作家クラブ50周年 SFブックミュージアム』(イラスト:YOUCHAN)より」
「2012年10月 『日本SF作家クラブ50周年』(イラスト:YOUCHAN)より」
「『現代作家ガイド6 カート・ヴォネガット』(彩流社)YOUCHAN氏・巽孝之氏・増田まもる氏インタビュー」聞き手宮野由梨香・岡和田晃
(PDFバージョン:interview_genndaisakkagaido6)
『現代作家ガイド6 カート・ヴォネガット』
YOUCHAN氏と言えば、SF Prologue Waveを彩る画像でもおなじみのイラストレーターである。熱心なヴォネガット・ファンである彼女は、SF批評家の巽孝之氏の監修のもとにヴォネガットのガイドブックを編集し、2012年9月に刊行した。(名義はペンネーム「YOUCHAN」と本名の「伊藤優子」とが併記の形になっている。)
イラストレーターが、どんな思いを込めてヴォネガットのガイドブックを編集したのか? 監修者の巽孝之氏、ヴォネガットの伝記のレビューを担当した翻訳家の増田まもる氏も交えて、お話を伺った。
(宮野由梨香・岡和田晃)
「2012年9月 『現代作家ガイド6 カート・ヴォネガット』(彩流社 イラスト・装丁:YOUCHAN)より」
「怖くないとは言ってない」―第四回涙腺系でGO!― 牧野修(画・YOUCHAN)
(PDFバージョン:ruisennkei_makinoosamu)
満員の試写会場でほとんど予備知識無しにスピルバーグの新作を観ていて号泣してしまった牧野です。
その新作とはET。
スピルバーグってコメディがヘタだよなあ、とか思いながら観ていたら、死んだはずのETが蘇るとき、枯れた植木がみるみる元通りになっちゃうシーンで、もう声をあげて号泣ですよ。
カッコワルと思いつつ周りに気づかれないように涙をそっと拭っていたら、前に立っているサラリーマンの肩が小刻みに揺れているじゃないですか。気がつけばそこかしこですすっすすっと鼻をすする音が。照明が点いたら、結構な歳のおっさんたちが、みんなぐすぐすいいながら試写室から出てきましたよ。みうらじゅんがいうところの涙のかつあげ状態。
あれを見ていたので、一般公開後ぽつぽつとあった辛口のET批判を見るたびに、こいつ試写会で泣かされて照れ隠しにこんなこと書いてんじゃねえの、と思ったものでした。
というわけで今回のテーマは「泣ける映画」である。
「2012年7月 難波弘之サウンドプロデュース『明日への扉』(フクシマレコーズ イラスト:YOUCHAN)より」
「怖くないとは言ってない」―第三回 これは本当にあった話なんだけど―牧野修(画・YOUCHAN)
(PDFバージョン:korehahonntouni_makinoosamu)
夜中自転車で走っていたら職質にあった。きちんとライトもつけているし、もちろん登録済みの自転車だ。問題は何もない。だから、ご苦労様です、たいへんですよねえ、とニコニコして受け答えしていたらどんどん警官の数が増えていった。なんだかひっきりなしに無線機で喋っている人がいる。あっという間に若い警官から年嵩の警官まで十人あまり、私の回りを囲むようにして集まってきた。カバンを見せろとか言われるかなとドキドキして待っていたら、自転車の照合が終わると同時に、わらわらとみんな解散していった。というような経験から、職質の時は警官に向かってにこやかに話し掛けてはならないという教訓を得た牧野です。
実際それからは職質されると不機嫌そうに応対することにしているが、あっという間に話が終わって解放される。しかし何よりも問題なのは、なんで私はこんなに職質されるのかということである。いや、答えは聞きたくない。
「2012年6月」YOUCHAN
「2012年5月」YOUCHAN
YOUCHAN 個展 『SO IT GOES ~文学山房4~』
2012年5月28日(月)~6月2日(土)
11:00~19:00(初日は20:00まで/最終日は17:00まで)
オープニング・パーティー 2012年5月28日(月)17:00~20:00
OPスペシャルゲスト 美尾洋乃(from MioFou)
演奏時間 18:00~19:00頃
会場名 Coffee&Gallery ゑいじう
http://www.eijiu.net/
住所 〒160-0007 東京都新宿区荒木町22-38
アクセス http://g.co/maps/84urv
今回で4回目を迎える『文学山房』シリーズですが、仕事で描いた作品展示が今回はメインになります。前回から二年の間に手がけた、文学山房のイメージにふさわしい成果物を展示します。また、現在大詰めを迎えている、共著の『現代作家ガイド6 カート・ヴォネガット』(彩流社)で使用される装画や挿絵のほか、CDや書籍等、発売前のフライング展示(クライアントは皆さん快諾)も。さらには過去の展示作品からチョイスした 「よりぬき文学山房」など、ちゃんこ鍋状態で皆様にお披露目予定です。新作も描きます。オープニングの美尾洋乃さん(ミオフー)のライブもお楽しみに!
個展詳細 http://www.youchan.com/bungaku/
「怖くないとは言ってない」―第二回 だから前をよく見て運転しろよ―牧野修(画・YOUCHAN)
(PDFバージョン:maewoyokumite_makinoosamu)
中学生の頃に青信号になったので道路を渡ろうとしたら一瞬目の前が真緑になって、気がついたら道路に仰向けになって空を眺めていて、実はそれって市バス(車体が緑色)に撥ねられていたんだと病院に運ばれていく途中で気がついた牧野です。
おそらく誰もが自動車で撥ねたり撥ねられたりした経験があるだろう。ないと思っていても、知らぬ間に撥ねたり撥ねられたりしてるはずである。それでもそんな経験がないと言いはるような強情で融通のきかないうえに想像力の欠如した欠陥人間を私は相手にしたくない。
というようなわけで、事程左様に交通事故は日常的に頻繁に起こっているのである。
「2012年4月」YOUCHAN
「2012年1月」YOUCHAN
「2012年2月」YOUCHAN
「怖くないとは言ってない」―第一回 ソニー・ビーン一族の末裔―牧野修(画・YOUCHAN)
(PDFバージョン:soniibiinn_makinoosamu)
頭がおかしいよね、っていうのを誉め言葉として使っていたのだけれど、考えてみればこれって悪口だと取られていたかもしれないなと先日反省したばかりの牧野です。
自分がされて嫌なことをしてはいけません、というのは親や先生による説教の定番なのだが、話はそう簡単ではない。自分がされて平気なことだからといっても、相手は嫌かもしれない。自分なら喜ぶことでも相手は怒り出すかもしれない。逆に自分がされると嫌なことなのに、して欲しいと思っている人がいたりもする。
結局自分の感覚だけを判断材料にしても他人には通じないというのが真実なのだろうけれど、そう言われても迷うだけだ。
私は怖い話が大好きで、ホラー映画やホラー小説やホラー漫画が大好物なのだけれど、この辺りはジャンルの中でもかなり好き嫌いの別れる、というか苦手な人が多いジャンル界のピーマンのようなものなのである。そのため話す相手を極端に選ぶことになる。私が好きだからといってみんなも好きだと思うと大変な目にあう代表的なものがこれだ。
とはいえ好き嫌いが分かれるということは、私のように好きな人も確実にいるということで、はるか昔から恐怖譚は延々と語り継がれ、ホラー映画もホラー漫画もいまだにしぶとく生き残っている。
「2011年5月」YOUCHAN
「2012年3月」YOUCHAN
「日本SF作家クラブ発祥の地:山珍居インタビュー」宮野由梨香・増田まもる、YOUCHAN(イラスト・写真)
(PDFバージョン:interview_sanntinnkyo)
[※結局、写真は後日、YOUCHAN 夫に撮り直してもらいました。( Photo by 伊藤のりゆき )]
新宿の台湾料理店「山珍居」といえば、日本SF作家クラブ発祥の地として名高い。1963(昭和38)年3月5日に、ここで日本SF作家クラブの「発足準備会」が行われた。その様子は『星新一 1001話をつくった人』(最相葉月・新潮社・2007年)でも紹介されている。
新しいものを創り出そうとする第一世代SF作家たちの熱気を支えたのは、この場所の美味しい料理と酒と、ご主人の人柄と、そこに集う人々の醸し出す雰囲気だった。
ユーチャン
YOUCHAN(ユーチャン)
イラストレーター。1968年愛知県西尾市出身。SFマガジン2010年9月号表紙、TOKON10スーヴェニアブック表紙、太田忠司氏「星町の物語」(理論社)装画、小谷真理氏「リス子のSF、ときどき介護日記」(以文社)装画、その他いろいろを手がけている。ピース。 http://www.youchan.com/