シェアード・ワールドとしての『エクリプス・フェイズ』岡和田晃


『エクリプス・フェイズ』英語版ルールブックより

■シェアード・ワールドとは何か

 シェアード・ワールドという言葉を知っていますか? 
 複数の書き手が世界観を共有(シェア)して、小説やコミックなどを執筆していく方法のことです。
 これまでSF・ファンタジーの分野では、様々な優れたシェアード・ワールド作品が発表されてきました。
 シェアード・ワールドには、一人で世界観を構築して作品を書くのとは、またひとあじ違った独自の魅力があります。
 そこで、この「SF Prologue Wave」においても、日本SF作家クラブ所属の作家たちが、豪華ゲスト執筆陣と協力し、シェアード・ワールド式の創作に挑戦してみることになりました。
 壮大にして多彩な、奥の深い物語を、ぜひご堪能ください。
 ――使用するのは、新世紀のポストヒューマンRPG『エクリプス・フェイズ』の世界観です!


『エクリプス・フェイズ』英語版ルールブックより

■『エクリプス・フェイズ』とは何か

 『エクリプス・フェイズ』とは、アメリカのポストヒューマン・スタジオ社が発売している、最新の海外宇宙SFロールプレイングゲームのタイトルを意味します(本国の公式サイトはこちら)。
 ロールプレイングゲーム(RPG)とはいっても、コンピュータを使うデジタルなゲームではありません。
 『エクリプス・フェイズ』は、コンピュータRPGのもとになった、会話型(テーブルトーク)のRPG作品なのです。
 基本となる世界設定が、書籍やPDFファイルの形式をとったルールブックに記載されており、その情報を使って参加者はゲームをプレイします。現在、日本語版ルールブックの翻訳が進行中で、アークライト社から発売される予定です。
 本サイトに掲載される小説を楽しむにあたって、『エクリプス・フェイズ』のルールブックを読んでおく必要はありません(2012年5月時点で、英語ですし……)。
 日本語版の情報については、本サイトでも紹介していきますが、ゲームにまったく馴染みがない方でも、どうぞご安心ください。
 そもそも『エクリプス・フェイズ』のシェアード・ワールドは小説をはじめとした馴染み深いフィクションなので、ゲームをまったく知らない方でも、普通のSF小説とまったく同じように楽しむことができるからです。
 ゲームに興味がない方でも、『エクリプス・フェイズ』の世界観は、創作のツールのように活用することも可能です。
 要は、ゲームの世界観を使った小説ということだけ押さえていただければ、OKかと思います。


『エクリプス・フェイズ』英語版ルールブックより

■RPGとシェアード・ワールド

 会話型のRPGは、コンピュータによって仕切られるのではなく、参加者が楽しく会話をしながら、お互いのコミュニケーションによって物語世界が構築されていくのが一番の特徴です。
 こうしたRPGのプレイスタイルはシェアード・ワールドと相性がよく、日本でも海外でも、これまで数多くのRPG世界を舞台にしたシェアード・ワールド作品が発表されてきました。
 SFが好きなRPGファン、あるいはRPGで創作を学んだSF作家は少なくありません。著名なSF作品をRPG化した作品も、特に海外では数多く発売されていますし、日本SF大会などのイベントで毎年のようにRPGのパネルが立つように、両者の間には深い関わりがあります。
 日本SF作家クラブとRPG原作シェアード・ワールドとの関わりも実は歴史があるものです。日本SF作家クラブ会員の仕事に限っても、日本で最初に発売されたRPG原作のシェアード・ワールド小説『銀河は滅びず』(1985年、RPG『スタークェスト』のシェアードワールド短篇集)には、すでに谷甲州氏が参加していました。また、安田均氏、水野良氏、山本弘氏、友野詳氏らが参加した『ソードワールド』や『妖魔夜行』、同じく新城カズマ氏らの『蓬莱学園』などが、広範な読者に受け入れられました。
 ほかにも、沢山のRPG原作のシェアード・ワールド作品が、日本SF作家クラブの会員によって書かれていますし、これからも書き継がれてゆくことでしょう。


『エクリプス・フェイズ』英語版ルールブックより

■『エクリプス・フェイズ』世界の背景

 RPGには様々なタイトルがありますが、『エクリプス・フェイズ』は、ポスト・サイバーパンク、あるいはニュー・スペースオペラと呼ばれるジャンルを扱った作品です。
 舞台は、未来の太陽系。人類の科学技術は発達の一途をたどり、ヴァーナー・ヴィンジの言う技術的特異点(シンギュラリティ)を迎えています。
 人類の活動圏は、太陽系の全土にまで広がりました。動物たちも人間並みに知性化をされています。
 人類は様々なインプラントを身体に埋め込んだトランスヒューマンとなり、コンピュータ・ネットワークに常時接続されています。魂(エゴ)さえもデジタル化され、必要に応じて義体(モーフ)を取り替えることも厭いません……。
 「SF Prologue Wave」をお読みの方であれば、きっと、もうおわかりでしょうね。『スキズマトリックス』や『オルタード・カーボン』、『シンギュラリティ・スカイ』や『啓示空間』、『知性化戦争』や『ディアスポラ』、さらには『第9地区』や『攻殻機動隊』といった名作SFのエッセンスが凝縮されているのです。
 たとえそうしたSFに馴染んでおられない方も、ご安心ください。『エクリプス・フェイズ』で出てくるSFガジェットや考え方は、私たちが携帯電話やインターネットを通して触れるテクノロジーの延長線上にあるもの。そうした流れで考えれば、容易に理解することができます。


『エクリプス・フェイズ』英語版ルールブックより

■基本となる物語

 『エクリプス・フェイズ』の世界は危険に満ちています。
 10年前、シンギュラリティを迎えた戦闘AI「ティターンズ」が大規模な反乱を起こしました。
 “大破壊”(ザ・フォール)と呼ばれるこの大騒動で、人類は人口の90%以上を失ってしまったのです。
 「ティターンズ」は、やがて何処かへ消えてしまったのですが、今なお、宇宙には無数の危険が眠っています。
 ――破壊衝動に突き動かされたティターンズの残党。
 ――人類にも、機械にも、ともに感染するナノウィルス。
 ――恐るべき実験に勤しむマッドサイエンティスト。
 ――さまざまな利害が絡む星間企業(ハイパーコープ)間の覇権争い。
 ――エリート層と、アナーキストの政治的対立……。
 こうした危険は、やすやすと、人類が絶滅してしまうほどの危険、X-リスクへと発展してしまいます。
 RPGとしての『エクリプス・フェイズ』では、参加プレイヤーは人類を絶滅から護る秘密組織「ファイアウォール」の一員となり、こうした脅威に立ち向かうというのが、典型的な『エクリプス・フェイズ』の冒険です。
 もちろん『エクリプス・フェイズ』はそれ以外にも、様々なタイプのストーリーを許容する懐の深い世界観となっています。極端な話、SFで再現可能なほぼあらゆるストーリーをカバーできるといえるでしょう。
 シェアード・ワールドとしての『エクリプス・フェイズ』小説においては、各々の書き手の志向や個性に合わせ、多彩な物語を提示していきます。
 広大な世界、ゲームならではの双方向性が活かされた物語を、どうぞお愉しみください。


『エクリプス・フェイズ』英語版ルールブックより

■『エクリプス・フェイズ』の未来観

 『エクリプス・フェイズ』のキーとなるのは、情報と人間性についての独特の考え方です。
 それは、やや大袈裟な言い方をすれば、ルネッサンス以後の人間観、つまり近代ヒューマニズムの“先”を志向するための概念を意味します。
 大事な考え方なので、もう少し詳しく解説させていたしますと……。
 サイバーパンク文学の独創的な研究で知られるN・キャサリン・ヘイルズは、現代のあらゆる局面に、「パターン」と「ランダムネス」への転換が書きこまれていると考えました。
 晦渋な言い回しに見えるかもしれませんが、これは私たちの身体が、あるいは発する物語(ナラティヴ)が、絶えず情報の洪水によって書き換えられているということを意味しています。
 かつてサイバーパンクで描かれたヴィジョンは、今や、私たちの日常となりました。現実がSF化してしまったのです。
 言うならば、私たちの身体とは、次にサイバースペースへ没入(ジャックイン)するまでの、仮初(かりそめ)の器にすぎません。
 私たちを築き上げてきた歴史、そして私たちを繋いでいた愛の形さえもが、まったく見知らぬ何かへと変容を余儀なくされてしまう現在。ルネッサンスに確立された既存の世界像が、絶えず更新(アップロード)されていく状況。
 それが私たちの直面している状況であり、『エクリプス・フェイズ』が取り扱う未来の相(かたち)にほかならないのです。


『エクリプス・フェイズ』英語版ルールブックより

■クリエイティブ・コモンズについて

 『エクリプス・フェイズ』の背景設定が記載されているルールブックなどの各種資料には、クリエイティブ・コモンズ(Creative Commons)ライセンスの表記が付されています。
 クリエイティブ・コモンズとは、インターネット時代の新しい著作権についての考え方を意味します。しかるべき表記を行ない、その内容を遵守すれば、著作者に特別の許可を得ることなく、その作品を活用することができるのです。より詳しくは、「クリエイティブ・コモンズ・ジャパン」のウェブサイトをご覧ください。
 本プロジェクトは、『エクリプス・フェイズ』のクリエイティブ・コモンズ・ライセンス「表示-非営利-継承」のもとで運営されるものです。これがどのようなことを意味するのかと申しますと、あなたは、「SF Prologue Wave」内の『エクリプス・フェイズ』に関する作品やアートワークを自由にコピー、共有、改変することができます。ただしその際には、「非商用目的に限る」、「著作権が現著作権者に属することを表示する」、「あらゆる派生物を、同じライセンス条件でライセンスする」という3つの条件を守らなければなりません。
 逆に言えば、これらの条件を守る限り、あなたも自由に『エクリプス・フェイズ』の世界を利用して創作を行ない、それを発表することができるのです。
 あなたも、この魅力的なシェアードワールドに参加してみましょう!


『エクリプス・フェイズ』英語版ルールブックより

■終わりに

 もし本プロジェクトの作品に触れて興味をお持ちの方は、『エクリプス・フェイズ』関連製品にアクセスしてみてください。
 「Role & Roll Station」秋葉原店では、無料の『エクリプス・フェイズ』体験会が、ほぼ毎月のように開催されていますので、そちらにご参加いただくのもよいでしょう。
 本プロジェクトでは小説やイラストレーションを中心とした紹介になりますが、ゲームとしての『エクリプス・フェイズ』も、とても面白いものです。月刊アナログゲーム情報誌「Role & Roll」(アークライト/新紀元社)では、『エクリプス・フェイズ』関連のサポート記事が掲載されています。
 これらの記事がどのようなものか、あるいは関連製品等も刊行され次第、随時紹介していきますので、ご興味のある方は触れていただけましたら幸いです。
 本プロジェクトにあたっては、『エクリプス・フェイズ』日本語版監修者の朱鷺田祐介氏、および翻訳チームの協力を得ていますが、たとえ彼らの手になる作品があったとしても、それは即座に公式設定を意味するわけではありません。特別の断り書きがない限り、本プロジェクトで紹介される諸作品はクリエイティブ・コモンズの範囲でのファン活動であり、書き手によっては世界観の独自解釈も含まれるということを、あらかじめご了承ください。
 公式の設定をお知りになりたい方は、公式製品をご参照いただけましたら幸いです。
 なお、本プロジェクトに関したすべての記事は、既存のあらゆる個人・団体もしくは思想ないし創作物その他の誹謗中傷を目的としたものではなく、あらゆる差別等を助長するものではございません。「SF Prologue Wave」の「免責事項」も、併せてご覧ください。



(Eclipse Phaseについてのより詳細な説明は こちら(PDFファイル) をご覧ください)




『エクリプス・フェイズ (日本語版)』






Ecllipse Phase は、Posthuman Studios LLC の登録商標です。
本企画はクリエイティブ・コモンズ
『表示 – 非営利 – 継承 3.0 Unported』
ライセンスのもとに運営されています。
ライセンスの詳細については、以下をご覧下さい。
http://creativecommons.org/licenses/by-nc-sa/3.0/